大判例

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東京高等裁判所 昭和47年(ネ)1610号 判決 1973年10月30日

控訴人 土本シズ

控訴人 土本盛一

右両名訴訟代理人弁護士 穂積始

同 戸枝太幹

被控訴人 秋葉栄一

右訴訟代理人弁護士 遠藤良平

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人ら代理人は「原判決中控訴人ら勝訴の部分を除きその余を取消す。被控訴人の控訴人らに対する請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は次に掲げるほかは原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する(ただし、原判決二枚目裏六行目、三枚目表三行目、四枚目表一〇行目にそれぞれ「土本為吉」とあるのをいずれも「土本為三」と改める)。

(被控訴人)

一、原判決添付別紙第二物件目録記載の建物は控訴人シズの所有であり、控訴人盛一は右建物を占有している。控訴人盛一は賃借権の共同相続人の一人として控訴人シズと共に原判決添付別紙見取図の朱線で囲まれた宅地部分を占有しているものである。

二、被控訴人の先代信介は長男栄一(被控訴人)が復員する見込みがあったので、本件賃貸借において期間を最低の二〇年としたものであり、右期間満了にあたり、賃借人である土本為三の承継人である控訴人らに対し信介自ら或は他人を介し賃貸借を更新しない旨を申入れることにより遅滞なく異議を述べた。

(控訴人ら)

一、控訴人シズが原判決添付別紙第二物件目録記載の建物を所有していること、控訴人らが亡為三の共同相続人であり、被控訴人主張の宅地部分を占有していることは認めるが、控訴人盛一が右建物を占有していることは否認する。

二、控訴人らの抗弁中、被控訴人先代信介が賃料を受領していたので黙示の同意があったというのは、被控訴人はその主張の用法違反について承認したものであり、仮りに用法違反として更新拒絶があったとしてもその意思表示を撤回したことを主張するものである。

三、被控訴人の無断転貸の主張は争う。

証拠≪省略≫

理由

一、被控訴人先代秋葉信介(以下単に信介という)が昭和二一年一〇月頃、その所有にかかる藤岡市藤岡字新町道東五九〇番一、宅地一〇一四・四九平方米(三〇六・八九坪、以下本件土地という)を土本為三(以下単に為三という)に対し、賃料一か年金五〇〇〇円の約で賃貸したこと(本件賃貸借)、右賃料が昭和二六年に年額七〇〇〇円に、昭和三四年年額二万円にそれぞれ増額されたこと、信介の死亡により被控訴人が相続人として信介の賃貸人としての地位を承継したこと、為三が昭和三四年頃死亡し、控訴人らが相続により右賃借人の地位を承継したことは当事者間に争いがない。

二、被控訴人は本件賃貸借の期間は二〇年で、本件土地の使用目的は本件土地の西寄り三分の一が建物所有のため、その余は製材工場ないし材木置場として建物を建てずに使用する約であったと主張し、控訴人らは期間の定めはなく、本件土地全体につき建物所有の目的であったと抗争するので判断する。

本件土地の賃貸借が、被控訴人主張のように居住建物の敷地以外は製材工場・材木置場に使用する特約があったかどうかは別として、借地法の適用のある賃貸借であることは本件口頭弁論の全趣旨により認められるところ、本件賃貸借に際し建物の種類構造を定めた旨の主張立証はないから借地法の規定により本件賃貸借は普通建物所有を目的とするものとみなされる。そして、本件全証拠によっても本件賃貸借において期間を二〇年とする定めがあったことは認められないから同法第二条第一項により期間は三〇年となる。従って、本件賃貸借においてはいまだ期間は満了していないから、本件賃貸借が期間満了により終了したとの被控訴人の主張は、この点に関する爾余の点について判断するまでもなく失当である。

≪証拠省略≫を綜合すれば、為三は木工製材業をはじめるにあたり信介から本件土地を賃借し、その一部に約一〇七平方米の木造住宅を建てたほか、工場作業場材木置場などの建物(いずれも丸太を柱とし杉皮ないしトタン葺で周囲は杉板張り程度の簡単なもの)を建て、残余の空地は材木置場として使用していたが、右建物部分の面積は合計約三七〇平方米で本件土地の四割弱を占めるに過ぎなかったこと、そして、右の状態は昭和三五年五月一三日為三死亡まで変らなかったことが認められ(る。)≪証拠判断省略≫ 右認定の事実によれば、本件土地賃貸借における土地の使用目的は、これを全体として木造住宅木工工場の所有ないし材木の置場とする約定であったと推認するのが相当である。

三、そこで、被控訴人主張の用法違反の点について考えるに、≪証拠省略≫を綜合すると、為三死亡後同人が経営していた木工業は廃業状態となったが、控訴人シズはその頃から昭和三九年にかけて本件土地上に木造瓦葺二階建客室(床面積一階五九・七〇平方米、一階以外五九・五〇平方米)、木造瓦葺平家建居宅(床面積四五・四五平方米)、木造亜鉛葺平家建居宅(床面積一九・八三平方米)、木造亜鉛葺平家建客室(床面積三九・二三平方米)を建築したほか、さらに昭和四一年前記工場等を取りこわし、そのあとに同年七月頃信介の了解を得ることなく、間口二六・一八米、奥行四・六米波型スレート葺軽量鉄骨造でその位置は原判決添付別紙見取図記載のごとき有料駐車場を築造し(有料駐車場築造の点は争いがない)これを利用者に賃貸収益して現在に至っていることが認められ(る。)≪証拠判断省略≫

ところで、駐車場以外の右各建物の建築は別として本件土地を上記規模の有料駐車場として使用することは、木造住宅、木工場の所有ないしは材木置場とするという契約所定の本件土地使用目的に抵触し、これについて信介ないし被控訴人の承諾がない限り本件土地賃貸借における用法違反として少くとも右駐車場用地部分に関する限り、当事者相互の信頼関係を基礎とする賃貸借における信頼関係を破壊するものとして契約解除の原因となるものといわなければならない。そして、被控訴人がこれを理由として、本件訴状により本件賃貸借を解除する旨の意思表示をなし右土地部分の明渡を求めていることは記録上明らかであり、しかも、後記のように、控訴人シズは、本件駐車場築造に対する信介の抗議にも拘らず敢てこれを完成したことは賃借人である控訴人土本シズの賃貸人に対する著しい不信行為というべく、したがって被控訴人が無催告でなした前記解除の意思表示は有効というべく、本件賃貸借は本件訴状が控訴人らに送達されたことが記録上明らかな昭和四二年九月二九日限り右駐車場の用途に供されている範囲(原判決添付別紙見取図赤線によって囲まれた部分)については解除により終了したものというべきである。

四、控訴人らは、本件駐車場築造について信介の承諾があったと主張し、原審における控訴人シズ本人尋問の結果中には本件駐車場をつくるについて信介から何ら異議がなかった旨の供述部分があり、当審における尋問の結果中にも本件駐車場を築造中信介はこれをみて控訴人シズに対し「よいものができるなあ」と声をかけたとの供述部分が存するが、右供述部分は原審証人秋葉マツの証言と比較して信用し難く、却って同証言によると、信介は控訴人シズが従来材木置場として使用していた建物をこわしそのあとに本件駐車場を築造しているのを知り同人に対し「何をするんだ、作ってはいけない」と強く反対し抗議したことが認められるから控訴人らの右主張は理由がない。

五、控訴人らは、信介ないし被控訴人において本件土地賃料を受領したことをもって、同法違反を承認したものであると主張し、信介ないしは被控訴人において本件土地地代相当額の金員を昭和四四年六月まで受領した事実(その性質は別として)は当事者間に争いないが、前記のように本件土地の一部についてのみ契約が解除された場合に、その賃料全額について受領を拒否すべき理由はなく、さればといって、右解除土地部分に相当する額だけの受領を拒否すべきであるとすることも当事者に難きを強いるものといえるから、右金員を受領した一事をもって前記用法違反を承認したものと認めるのは相当でないから右は上記解除の効果を左右するものではない。したがって控訴人の右主張は採用することができない(なほ、控訴人らは、右受領をもって、用法違反を理由とする契約の更新拒絶があったとしてもその意思表示を撤回したものであると主張するが、右は本件賃貸借の期間満了を前提とするものであるところ、期間満了が理由がないことは前認のとおりであるから右主張については判断の要をみない)。

六、なほ、被控訴人は、無断転貸を理由とする解除を主張するが、この点に関する≪証拠省略≫は≪証拠省略≫に照らし信用できず、他に右事実を肯認するに足る証拠はない。被控訴人の右主張は採用できない。

七、以上の次第であるから、本件賃貸借は原判決添付別紙見取図の赤線で囲まれた部分に限り解除されたものであるところ、控訴人シズは原判決添付別紙第二物件目録(イ)記載の駐車場を所有して右土地部分を占有し、控訴人盛一は賃借人であった為三の共同相続人として右土地部分を控訴人シズと共同占有していることは当事者間に争いがないから、被控訴人に対し控訴人シズは右駐車場を収去して右土地部分を明渡すべく、控訴人盛一も右土地部分の占有者としてこれを明渡すべき義務があり、被控訴人の控訴人らに対する本訴請求は右の限度において正当として認容すべきものである。

八、よって、これと結論を同じくする原判決は相当であって本件各控訴は理由がないから民事訴訟法第三八四条第一項、第九五条第八九条第九三条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉山孝 裁判官 渡辺忠之 小池二八)

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