東京高等裁判所 昭和47年(ネ)2363号 判決 1973年4月26日
控訴人 新井光
右訴訟代理人弁護士 鈴木七郎
被控訴人 有限会社美原商事
右代表者代表取締役 福田登美子
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決中、控訴人勝訴の部分を除く、その余を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
被控訴人は、当審での口頭弁論期日に出頭せず答弁書の提出もしない。
当事者双方の事実上の陳述ならびに証拠の関係は、原判決事実摘示(但し、原判決三枚目裏五行目に「乱用」とあるのを「濫用」と訂正する)同一であるからこれを引用する。
理由
当裁判所も、被控訴人の請求は原判決認容の限度で正当であると判断するものであって、その理由は左記を付加するほかは、原判決理由説示(但し原判決五枚目裏一〇行目に「伺がわれ」とあるのを「うかがわれ」と、六枚目表三行目に「乱用」とあるのを「濫用」とそれぞれ訂正する)と同一であるから、これを引用する。
おもうに、法人格否認の法理というのは、法人格取得の前後を通じ、実質的には個人経営の時の事業と、その内容および形態に差異がない場合において、個人経営時代から一般取引債権者が、法人組織をとった後においても、従前と同一の認識のもとに取引を継続した場合における、その認識を保護するのが妥当であると認められる場合、これを別言すれは、個人経営の時代の業態を保ちつつ取引を継続しながら、個人に対する責任追及を法人に転嫁しようとすることが著しく取引社会における良識に反すると認められる場合に権利濫用または信義則違反という一般条項の適用の一場面として案出された理論の一つであると解すべきところ、控訴人は被控訴会社の設立以来の監査役であるから、たとえ、それが形式的なものであるにせよ、自ら主張するような否認するに値する法人格の形成に加功したものと称しても、なんら差支えない。そうだとすると控訴人は、その債権の発生が法人成立の以前であると否(本件控訴人から訴外福田勝夫に対する債務名義が被控訴人の法人格取得後に成立したものであることは前記引用部分において判示したとおりである)、また、事業経営の実態が法人成立の前後を通じ変るところがないとしても、法人格否認の法理を援用することは、到底これを認容することはできないと謂うべきである。
以上説示のとおり、被控訴人の請求を一部認容した原判決は正当であり、控訴人の控訴は理由がない。
よって民訴法九五条、八九条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判長判事 杉山孝 判事 加藤宏 園部逸夫)