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東京高等裁判所 昭和47年(ネ)2528号 判決 1973年8月15日

控訴人 笠井イツ

右訴訟代理人弁護士 小川英長

被控訴人 川上ふみこと 川上

右訴訟代理人弁護士 鈴木信一

主文

一、原判決を取り消す。

二、被控訴人は控訴人に対し金二三八万七、一八八円およびこれに対する昭和四七年三月一〇日から支払済までの年五分の割合による金員を支払わなければならない。

三、訴訟費用は、第一および第二審とも被控訴人の負担とする。

四、この判決は控訴人において仮りにこれを執行することができる。

五、被控訴人において控訴人に対し、金一五〇万円の担保を供するときは、前項の仮執行を免れることができる。

事実

一、控訴人は主文第一ないし第三項と同旨の判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠関係は、左のとおり付加するほかは、原判決書事実摘示欄の記載と同一であるからこれを引用する。

(当裁判所による付加)

(一)  原判決書二丁表三行目に、「よって控訴人は右訴外人に対し右と同額の損害賠償請求権を取得した。」を加える。

(二)  同丁表八行目に「よって控訴人は右訴外人に対し、金七〇万円の損害賠償請求権を取得した。」を加える。

(三)  同丁表末行に、「よって控訴人は、右訴外人に対し、右同額の金員返還請求権を取得した。」を加える。

(控訴人の主張)

(四) 控訴人は昭和四七年九月二〇日、本件債権の主たる債務者である訴外川上利道に対する強制執行により、本件請求額のうち元金一五万一、〇六二円につき弁済を受けたので、本件請求を本判決書主文第二項記載のとおり減縮する。

仮りに、控訴人が原審において主張した連帯保証契約締結の事実が認められないとしても、被控訴人は、昭和四六年一月二六日控訴人に対し、訴外川上利道が控訴人に対して負担していた、原判決書事実摘示欄請求原因第一ないし第三項記載の債務につき、右訴外人と重畳してこれを負担すべき旨約した。よって被控訴人は控訴人に対し、主文第二項記載の金員を支払うべき義務がある。そこで控訴人は被控訴人に対し右義務の履行を求める請求を当審における新たな請求として追加し、右請求と原審における請求とを選択的請求として提出する。

(被控訴人の答弁)

(五) 控訴人の前記請求の減縮およびその追加的変更については同意するが、被控訴人が重畳的債務引受をした旨の主張事実は否認する。

(証拠関係)≪省略≫

理由

一、≪証拠省略≫を総合すると、本判決において引用された原判決書事実摘示欄中、請求原因第一ないし第三項記載の各事実を認定しうる。

二、≪証拠省略≫を総合すると、左の事実を認定しえ、≪証拠省略≫中、右認定にそわない部分は、前顕各証拠に照らすと事実に基づく供述とは認め難いから採用せず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  控訴人は、昭和四五年八月末ころまでの間に前記認定のとおり、訴外川上利道に対し、合計金二五三万八、二五〇円の債権を有するに至ったが、同訴外人から同年末になってもその弁済につき誠意のある態度を示されず同人の弁済能力にも疑いが持たれるようになったうえ、右各債権の存在等を証する書面がなかったので、当時右訴外人の妻であった、訴外人鈴木美沙子(当時は川上美沙子)に事情を訴えて前記川上利道には改めて前記債務額を確認させ、そのうえで同人の母である被控訴人に右債務につき川上利道の保証人となることを承諾してもらうとともに、これらの事実を証明すべき書面を作成して将来に備えようと考え、昭和四六年一月二六日、電報で被控訴人を目黒区鷹番町二ノ一五ノ一〇所在の川上利道方へ呼び寄せた。

(二)  被控訴人は右呼出に応じて右同日訴外人方に出向き、川上利道、その妻美沙子、控訴人およびその夫とともに川上利道方の一室に会し、前記債務の処理について話し合った。

(三)  その席上、川上利道は控訴人に対し、前記債務の存在を認め、同人所有の土地三〇〇坪程を処分して、昭和四六年三月一〇日までには債務全額を弁済する旨約したが、控訴人は被控訴人に対し、「利道の言うことを信用しないわけではないが、このようになっている以上は右債務の弁済につき川上利道の保証人になってもらいたい。」旨申し向けたところ、被控訴人はこれに同意した。そこで控訴人は右債務承認と保証の事実を書面に残して置くのがよいと考え、同人においてあらかじめ請求原因第一ないし第三項記載の金額を借り受けた旨の文言、作成年月日等を記入した「預り証」と題する書面二通、および「借用証」と題する書面一通を川上利道および被控訴人に対して提示し、各人の署名および押印を求めたところ、被控訴人の面前で川上利道において右各文書の末尾日付のつぎの債務者氏名欄にあたる箇所に、自署したほか被控訴人の氏名をも代書し、各名下に川上利道宅にあった川上名義の認印を押印した。しかして川上利道が被控訴人の氏名を代書したのは、同人が高齢で目が悪く字が書けなかったため同人の依頼によって署名を代理したものであり、川上利道宅に在り合せた認印を右各名下に押捺したのは被控訴人が電報で急ぎ呼び寄せられ、自己所有の印章を持ち合せなかったので川上利道宅の川上名義の認印を借用したのであった。

三、右認定の事実関係から全部真正に成立したと認定しうる≪証拠省略≫の記載によれば川上利道、川上美沙子および被控訴人の三人がいずれも請求原因第一ないし第三項記載の金額の債務につき各人がその金額の支払の請求に応ずるべき旨意思表示をしていると解しえられることよりすれば、被控訴人は控訴人に対し、昭和四六年一月二六日、請求原因第四項記載のとおりの連帯保証契約を締結したと解するのが相当である。

そうすると、被控訴人は右契約に基づき、前記債務の未払額金二三八万七、一八八円およびこれに対する本件支払命令が被控訴人に送達された日の翌日であること記録上明らかな、昭和四七年三月一〇日から支払済までの年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり、被控訴人に対し右金員の支払を求める控訴人の本件請求は理由があるから認容すべきであり、これと趣旨を異にする原判決は取消を免れない。

よって訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条、仮執行の宣言および右執行の免脱宣言につき同法第一九六条を適用(本件は職権により仮執行およびその免脱宣言を付するのを相当と認める。)して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 畔上英治 裁判官 唐松寛 兼子徹夫)

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