東京高等裁判所 昭和47年(ネ)42号 判決 1973年9月27日
控訴人 安西亀代司
控訴人 宮崎ハナ
右両名訴訟代理人弁護士 中西金太郎
被控訴人 安西正雄
右訴訟代理人弁護士 茂手木豊治
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
控訴人ら代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張ならびに証拠の提出、援用および認否は、次のとおり付加、補正するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する(ただし、原判決二枚目―記録四四丁―表末行の「提出し、」の次に「同第二号証の一ないし四はいずれも写であると付陳し、」を加え、同裏九行目の「成立」とあるのを「原本の存在および成立」と改める。)。
(一) 控訴人ら代理人は、次のとおり述べた。
控訴人らは、いずれも農業を営んでおり、殊に控訴人亀代司は亡父安西藤吉のあとを継ぎ、本件各土地を専心耕作し続けて今日にいたっており、いわゆる耕作権を有するのみならず、本件土地(一)および(二)の各地上には控訴人らにとり必要不可欠の建物が存在しているのであり、控訴人らと被控訴人との間で本件各土地を分割するにあたっては右事実を考慮すべきである。
(二) 証拠≪省略≫
理由
一、控訴人亀代司が被控訴人の兄、控訴人ハナが被控訴人の姉であることおよび控訴人らと被控訴人とが本件土地を共有し、その持分の割合は被控訴人が二七分の二五、控訴人らが各二七分の一であることは、当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、本件土地は被控訴人がその父である安西藤吉から遺贈により一旦その全部を取得し、その後控訴人らにおいて遺留分減殺により右各持分を取得したものであることが認められる。
二、右事実によれば、本件九筆の土地の各筆について被控訴人が二七分の二五を、控訴人らが各二七分の一の持分を有する共有関係にあるものというべきである。そして法律上、契約上分割が禁止されていることは認められないので、各共有者は何時でも右共有物の分割を請求しうべく、分割について協議が調わないことは弁論の全趣旨により明らかであるから、裁判をもって分割をなすべき場合に該当するところ、このように分割すべき土地が数筆ある場合は、分割の方法として本来各筆の土地毎に持分の割合に応じて分割し、もし現物分割をなしえない場合または分割によって著しく価格を損する場合であれば、競売による代金の分割をするのを原則とするが、共有者から数筆の土地を一団として一括して分割を求めたときは、裁判上の共有物分割が非訟事件の性質を有していることおよび分割にあたっては当事者間の公平を旨とすべきことを考慮し、かつ、本件分割が実質上遺産分割の実現にひとしいことからみて、民法九〇六条の立法趣旨をも斟酌し、その各筆毎に単独の所有者を定め、または、当事者が特に反対の意思表示をしないかぎり、一筆もしくは数筆の土地を共有者の一人の単独所有とし、その余の土地を他の者の共有とする方法による分割も許されるものと解するのが相当である。
三、ところで、被控訴人は、本件(一)の土地を控訴人らに、その余の土地を被控訴人に分割帰属させる分割方法を求め、これに対して、控訴人らは、本件(一)および(二)の各土地上には控訴人らの生活にとり不可欠の建物が存在しており、また、控訴人亀代司は本件土地を現に耕作しているから、本件分割にあたっては右事情を考慮すべきであるといい、≪証拠省略≫によれば、本件土地九筆の更地価格の総額は五、八二七万九、〇〇〇円、そのうち本件(一)の土地の更地価格は一、二二五万四、〇〇〇円、本件(二)の土地のそれは一、六九二万二、〇〇〇円であること(以上いずれも昭和四四年一〇月二〇日現在、以下も同じ)、本件(二)の土地の上には、隣接地たる控訴人亀代司所有の藤沢市亀井野字唐池二、一八四番地の一の地上に存在する同控訴人居住の母屋建物に付属する風呂場の一部と同控訴人が娘婿に貸与中の自動車修理工場建物および石油タンクがあり、本件(一)の土地の上には新築建物が建てられていることおよび同控訴人が本件土地の一部を現に耕作していることが認められる。しかし、同控訴人の右土地使用が安西藤吉の遺産から除外すべき賃借権または使用貸借による権利に基づくものであることは、これを認めるに足りる証拠がない。してみれば、控訴人らに対して本件(一)の土地を分割帰属させることは、本件土地の総価格に対する控訴人らの共有持分の割合にあたる四三一万六、九〇〇円を遙かにこえることとなるのであるが、かりに、本件(一)および(二)の土地上に控訴人ら所有の建物が存在していることを考慮し、右二筆の土地について底地価格(更地価格の四割とする)をもって評価すべきものであるとしても、本件(一)の土地の底地価格は四九〇万一、六〇〇円、本件(二)の土地のそれは六七六万八、八〇〇円であり、これらとその余の各土地の更地価格との合計額は四、〇七七万三、四〇〇円となることが明らかであり、右金額に対する控訴人らの共有持分の割合にあたる金額は三〇二万〇、二五〇円となるから、本件土地(一)および(二)の双方を控訴人らの共有とすることは、その共有持分の割合を著しくこえることとなって適当でなく、また、≪証拠省略≫によれば、本件(二)の土地を控訴人らの共有とすると、本件(一)の土地は袋地となることが認められるのであり、以上の事実を考えあわせると、本件土地中(一)の土地を控訴人らにその余の土地を被控訴人に分割帰属させるのが相当と認められる。しかして、このような方法による分割は、前述したところから明らかなように、被控訴人にとっては不利益ではあるが(被控訴人はその持分の一部を放棄したものとみることができる)、控訴人らにとってはなんら不利益、不公平とはいえない。≪証拠判断省略≫
四、よって、右と同趣旨に出た原判決は、相当であって、本件控訴は、理由がないから、民訴法三八四条一項に従い、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき同法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 吉岡進 裁判官 園部秀信 森綱郎)