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東京高等裁判所 昭和47年(ネ)965号 判決 1974年9月17日

控訴人 株式会社仁丹テルモ

右代表者代表取締役 戸澤三雄

右訴訟代理人弁護士 浅田清松

被控訴人 宮本幸郎

右訴訟代理人弁護士 田中敏夫

同 永盛敦郎

同 伊志嶺善三

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一、控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の申請を棄却する。訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

二、当事者双方の事実上の主張及び証拠の関係は、左記に訂正、付加するほか原判決事実摘示のとおりであるからここにこれを引用する。

(訂正)≪省略≫

(当事者双方の主張)

控訴代理人は別紙第一のとおり陳述し、被控訴代理人は別紙第二のとおり陳述した。

(証拠)≪省略≫

理由

当裁判所も、当審であらたに取調べた証拠を加えて本件全資料を検討した結果、被控訴人の本件仮処分申請は理由があると認定判断するものであって、その理由の詳細は、左のとおり訂正、付加するほか原判決理由のとおりであるから、それを引用する。

(訂正)

1  原判決一三枚目表一〇行目の「山内實」を「山口實」と訂正する。

2  同一四枚目裏末行目の「山内」を「山口」と訂正する。

3  同一七枚目表一行目二行目の「これまでその活動が停滞していた安全衛生委員会が同年一二月九日開催され、同会」を「同年一二月九日開催された控訴人会社の安全衛生委員会」と訂正する。

4  同一八枚目表三行目四行目の「事前に記事の内容を委員長および書記長が検閲することとする旨を決議して、」を「委員長及び書記長が右編集に参画することとして、」と訂正する。

5  同一八枚目表七行目八行目の「ダクトはもうすぐ」を「ダタトもうすぐ」と訂正する。

6  同一九枚目表二行目三行目の「うかがわれるから、」を「うかがわれるから(右認定に反する当審証人矢島、同長崎、同藤川の各証言は措信しない。)、」と訂正する。

7  同二一枚目裏三行目の「反発」を「反撥」と訂正する。

8  同二四枚目裏四行目の「申請人の処分」を「申請人に対する処分」と訂正する。

9  同二五枚目表八行目の「記載中右認定」を「記載並びに当審証人長崎利章の証言中右認定」と訂正する。

10  同二七枚目表一〇行目の「証人伊藤、同田中の各証言」を「原審証人伊藤、同田中及び当審証人藤川の各証言」と訂正する。

11  同二八枚目裏七行目の「前記4(三)から(七)までの会社職制らの」を「前記4(三)から(七)までの主任・班長らの」と訂正する。

12  同二九枚目裏三行目の「甲第一〇号証、証人山内」を「甲第四号証の一〇、第一〇号証、証人山口」と訂正する。

13  同三〇枚目表四行目の「を真率に言明する」を「を暗に示す」と訂正する。

14  同三〇枚目表八行目の「右同旨の言明」から同一〇行目の「証人伊藤の証言中」までを、「右同旨の釈明をしたことが一応認められ、乙第一八号証ないし第二〇号証の各記載並びに原審証人伊藤、当審証人長崎、同藤川の各証言中」と訂正する。

15  同三〇枚目裏四行目の「同山内」を「同山口」と訂正する。

16  同三一枚目表八行目の「三名になったが、」から同一〇行目の「望むべくもなかった」までを「三名になり、当審における被控訴人本人尋問の結果によれば、その後検定係には中川某が配転されたが、同人は控訴人会社の愛鷹工場の施設課で電気技師として勤務していたところ、昭和四六年八月の赤嶺政春の配転解雇問題について職場で署名を集めたため東京工場の生産三課に配転され、更にその後検定係にまわされた者であって、体温計の製造工程に携わる生粋の作業職社員ではなかった」と訂正する。

17  同三一枚目裏一行目の「ある旨主張し、」から同四行目の「ほかに疎明はない。」までを、「ある旨主張するが、この点については後記(控訴人の当審における主張に対する判断の二)の理由により採用できない。」と訂正する。

18  同三二枚目裏一行目二行目の「意思表示また」を「意思表示もまた」と訂正する。

(控訴人の当審における主張に対する判断)

一、控訴人は、被控訴人の行なった「えくぼ」編集活動は、その手段方法に徴し労働組合の正当な行為に該当せず、不当労働行為の成立要件とならない旨主張する。

しかし、≪疎明省略≫によれば、被控訴人が昭和四四年四月教育宣伝部長に選任された後、教宣部の活動方針として、「組合員の組合に対する意識を高める活動を通して組合員強化をはかる。執行部と一般組合員との団結のかけはし的役割をになってゆく。」との基本方針を掲げ、執行部の承認を得たこと、組合では従来仁丹テルモ労組機関紙という名称で機関紙を発行していたが、同年九月上旬の執行部及び常任委員会で「えくぼ」という名称に変更し、教宣部七名の合議で隔週に発行することとしたこと、その後右「えくぼ」紙上における水銀問題が尖鋭的であるとの批判から、同年一二月二六日に緊急常任委員会が開かれ、その席で被控訴人の教宣部長解任の意見も出たが、結局委員長と書記長が「えくぼ」の編集に参画することとして、被控訴人に対する統制違反に関する処分はなされなかったことの各事実が一応認められ、右認定を左右し得る疎明資料は存在しない。

右認定事実と前記引用にかかる原判決理由二の3において認定した事実(前記訂正したもの)とを総合して考察すれば、被控訴人は組合の常任委員会において教宣部長に選任され、執行部の承認した基本方針に従って「えくぼ」の編集活動を行ない、また、右「えくぼ」紙上における水銀問題は、水銀を取扱う職場における重要な労働条件に関するものであって、その維持、改善を図る目的で編集されたものであることは明らかであり、その掲載記事はいずれも組合員の意見、要望を編集したものであって、その内容自体についても真実を故意に歪曲したものとは認められず、更に、被控訴人が組合から統制違反による処分を受けた事実も存しないから、被控訴人の行なった「えくぼ」編集活動が、組合の指令又は統制に反して敢行された分派活動又は個人的運動と見ることはできず、結局、被控訴人の右行為は、労働者の立場でなされた行動であり、かつ、労働条件の維持改善を図ることを目的としてなされたものとして、正当なる組合運動の範囲内にあるというべきである。なお、控訴人の右主張は、被控訴人の右編集活動が組合執行部の意向に反したことを前提とするものであるが、右執行部の意向に反した点があるからといって叙上認定を覆して被控訴人の編集活動が正当なる組合運動ではないということはできない。叙上の理由により、控訴人の右主張は採用できない。

二、次に控訴人は、本件配転命令は被控訴人の「えくぼ」編集問題とは何らの関連性がなく、専ら業務上の必要によるものである旨主張する。控訴人の右主張の概要は、(1)従来検定係には、中沢、地下の両名を充てていたが、この両名だけではその業務量を消化し切れず、また右地下の作業能力が低いので、その交替を検討していた。(2)一方、検定業務の能率向上のために証印機の改良を企画していたが、右改良研究に参加しうる者として、機械科出身で体温計製作にも従事したことのある技術者を物色していた。(3)右要件に合致する者として、伊藤工場長代理は昭和四四年一一月に、三名の候補者のうちから被控訴人を人選内定したが、組合内部において「えくぼ」の編集をめぐる紛争が生じたため、その発令を一時延期していた。(4)その後組合内の右紛争もおさまったので昭和四五年一月一三日に被控訴人を検定係に配転する旨の発令をした。(5)検定係は時間的にも余裕があり、被控訴人が「えくぼ」の編集活動を継続するのにも何ら支障がない。(6)控訴人は業務上の正当事由に基づいて被控訴人に対する配転命令を発したものであって、そこには不当労働行為の意思は全くなかった、というのである。

控訴人の右主張を認めるべき疎明資料としては、≪疎明省略≫があるが、これらの資料は、前記引用にかかる原判決理由二の4ないし7において認定した事実(前記訂正したもの)並びに弁論の全趣旨に照らして信用することはできず、とくに、控訴人に不当労働行為の意思がなかった旨の主張は採用できない。なお、控訴人が、被控訴人を解雇してまで検定係に技術者を配置しなければならない業務上の必要性があったのであれば、被控訴人に対して解雇通告をした後、他に候補者もいたのであるから、直ちに他の技術者に対して配転命令を発すべきであるのに、それをしなかったということ(前顕各採用証拠から一応認められる事実である。)は、結局本件配転命令が不当労働行為意思によるものである旨の叙上認定を補強するに足りる。したがって、控訴人の右主張は採用できない。

三、控訴人は、主任、班長らの言動の内容についての原審の判断を非難するとともに、右言動は会社とは何らの関係がない旨主張する。

しかし、原判決挙示の証拠によれば、柏垣、相瀬各生産一課主任、永見、長崎各同課班長の各言動に関する原判決理由二の4の(二)から(七)までの事実はいずれも一応認めることができ、右事実によれば、右主任、班長らが控訴人会社の少くも伊藤工場長代理と意を通じて、被控訴人の配置転換を企図したものであることが推認できる。≪疎明省略≫によれば、会社は、伊藤工場長代理に東京工場内における人事異動の権限を付与していることが一応認められるから、同工場長代理の採った措置につき会社が責任を有することはいうまでもない。したがって、控訴人のこの点に関する主張は採用できない。

四、控訴人は、伊藤工場長代理の言動の内容についての原判決の認定を非難するとともに、右言動は本件配転とは関係がない旨主張する。

しかし、原判決挙示の証拠によれば、伊藤工場長代理の言動に関する原判決理由二の4の(一)の事実は一応認められ、右事実と本件諸般の事情を斟酌すれば、被控訴人の「えくぼ」編集活動と本件配転命令との間に因果関係のあることが推認できる。したがって、控訴人の右主張は採用できない。

五、控訴人は、本件解雇後に行なった藤川総務部長の発言の内容についての原審の判断を非難するが、≪疎明省略≫によれば、原判決理由二の7の(一)の事実(前記訂正した事実)を認めることができるから、控訴人の右主張は理由がない。

六、控訴人は、本件配転命令を、前例をみないもので、かつ、唐突に行なわれたものであるとする原審判断及び検定係の任務に関する原審認定について非難する。

しかし、原判決挙示の証拠によれば、この点に関する原判決理由二の5及び6の事実を一応認めることができ、またその事実にもとづく原審の判断は正当として支持することができる。なお、組合の教宣部長の地位にあった被控訴人にとっては、その職責上、工場内の職場の労働者と日常的にふれあって、その苦しみや悩みを直接肌で感知することが必要なのであるから、控訴人が被控訴人を工場外の職場に配転しようとすることは、たとえそれによって被控訴人に時間的余裕が生ずるとしても、被控訴人の教宣部長としての職責の遂行に障害、不利益を生ずる結果となることが予見されるから、それだけで一つの不利益処分にあたるというべきである。また、≪疎明省略≫によれば、被控訴人が配置転換を拒否した後の検定係の人選に手間取ったが、その理由は、主任の言によれば、被控訴人がいやだと強く断ったその後へ配属されることを誰も好まなかったからであることが一応認められ、この事実によれば、同一部門内の人事異動についても、あらかじめ本人の意向を打診することのありうることがうかがわれる(この点につき、控訴人が被控訴人に対しては柔軟な態度をとらず、いきなり配転命令を発し、被控訴人の強い反対にもかかわらずこれを撤回せず、右配転命令に従わないことを理由として断固解雇処分の挙に出たことについては、前記不当労働行為意思の存在に関する叙上認定を補強するに足りる。)右理由により、控訴人の右主張は理由がない。

叙上の次第であるから、被控訴人の本件申請は理由があり、これを認容した原判決は正当であって、控訴人の本件控訴は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条、第九五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上野宏 裁判官 後藤静思 日野原昌)

<以下省略>

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