東京高等裁判所 昭和47年(行ケ)55号 判決
一、原告の主張する請求の原因のうち第一項から第三項までの事実については当事者間に争いがない。
二、そこで、取消事由の有無について判断する。
(一) 取消事由(二)について
本願考案における耐熱繊維布帛も先願考案における耐熱性薄板を積層した芯体もともに耐熱芯という概念に包括することはできるといえよう。しかし、同じく耐熱芯ではあつても、材質いかんによつてその作用効果が異なることはいうまでもない。のみならず、成立に争いのない甲第二号証の一、二および同第三号証によれば、本願考案において耐熱繊維布帛を用いることは、他の構成要件である芯体の上縁を三角状の山部と谷部との連続縁に形成したことと山部は縦方向の糸条のみで形成したこととの前提要件となるものであつて、これら三つの構成要件が有機的一体となつて原告主張の効果(本件審決を取消すべき事由(四)に記載した効果)を奏するものであること、これに対し先願考案は、本願考案で用いているような繊維布帛を用いた芯体では幾つかの欠点があるので、これらの欠点を除去するために特に耐熱性薄板を積層したものを用いた点に考案上の特徴を有し、その芯体を繊維布帛と置換えたのではかえつてその目的効果が失われることが認められ、他に以上認定を左右するに足りる証拠はない。そうだとすると、本願考案の耐熱繊維布帛を単に耐熱芯として把握して、その考案性を否定した本件審決は誤りであるといわなければならない。
被告は、本願考案における耐熱繊維布帛と先願考案における耐熱性薄板の積層体とは耐熱芯という点で同一機能を有するものであり、互換性を有するから、この点についての両考案の相違点は単なる均等物の置換にすぎない旨主張するが、この主張の理由のないことは、前記認定に徴して明らかである。
(二) 取消事由(三)について
前掲甲第二号証の一、二および同第三号証によれば、本願考案が芯の火口縁を三角状の山部と谷部との連続縁に形成しているのに対し、先願考案はこのような三角状の山部を有しないで、芯体の上縁部にV字状の切込を複数個離間して設けている点で差異があること、本願考案はこのような構成をとることによつて原告の主張するような作用効果を奏するものであること、これに対し先願考案は前記の構成によつて芯体の点火が速くなり、また燃焼面積が広くなつて火力が強くなる等の作用効果は有するけれども、本願考案の奏するその他の作用効果を奏するかどうかは明らかでなく、さらに芯の切断を正確にする必要がなく切断作業が容易であるとか、山部・谷部の高さに相当する幅だけ素地幅を節約し得るとかいう効果を期待できないことが認められる。してみれば、本願考案は前記構成によつて先願考案の奏し得ない作用効果を有するものであり、先願考案との構成上の差異は単なる構造上の微差ということはできない。したがつて、この点についての本件審決の判断は誤りといわざるを得ない。
(三) 取消事由(四)について
既に述べたところによつて明らかなように、本願考案において「山部を縦方向のみの糸条で形成した」点は芯体の構成材料が耐熱性「繊維布帛」であることと芯体の上縁に「三角状の山部」を設けたこととに基づくものであつて、このように芯体の材料の特定と芯体上縁部の形状とを除外しては考えられない構成要件である、これに対し、先願考案は芯体の構成材料が繊維布帛であることをことさら避けて特に耐熱薄板の積層体としたものであり、しかもこの芯体の上縁部には山部を有しないものである。したがつて、先願考案の場合、右のような構成材料の芯体の上縁部にたとえ三角状の山部を設けたとしても、必ずしもこの山部が縦方向のみの上縁部で形成されるものではないから、山部を縦方向のみの糸条で形成するという構成が先願考案の芯体の構成から必然的に導き出されるとはいえない。したがつて、本件審決が「織布体で構成した芯体の上縁部に三角状の山部を形成すれば、横糸は簡単に脱落して縦糸のみとなる」というのは、芯体の構成材料や芯体の上縁の形状を無視した誤つた判断といわざるを得ない。
三、以上のとおり、本件審決には違法があつて取消を免れない。よつて原告の本訴請求は正当であるから認容する。
〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。
耐熱繊維布帛よりなる芯の火口縁を三角状の山部と谷部との連続縁に形成し、しかも山部は縦方向の糸条のみで形成したことを特徴とする液体燃焼器用芯