大判例

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東京高等裁判所 昭和47年(行ケ)74号 判決

一、大豆油の製造温度について

成立に争いのない甲第六号証(補正書)、同第七号証(本願特許公報)によれば、本願発明の補正後の特許請求の範囲には「酸化をさけるための条件下で一〇〇度Cより低い温度で不活性有機溶媒で抽出して製造され」と記載され、発明の詳細な説明欄には「本発明により脂肪エマルジヨンを製造するには一〇〇度C以下に保持した温度で大豆から抽出により得られる大豆脂肪を使用することが必要である」と抽出についての温度の条件が記載されているほか、それより後の工程について温度条件などについて何ら触れるところがなく、また抽出工程と精製工程とが同一でなければならないことをうかがわせる記載もないことが認められる。

以上に認定したところからすれば、一〇〇度C以下という温度の限定は不活性有機溶媒による抽出工程だけの限定であるとみなければならない。そうすると、大豆油の製造過程の温度を一〇〇度C以下に限定する構成は本願発明の構成要件には含まれないものというべく、この点に関する原告の主張は採用できない。

二、大豆油と卵燐脂質の保存条件について

大豆油、卵燐脂質の抽出処理を酸化防止のためアルゴンや窒素のような不活性雰囲気中すなわち非酸化状態で行うことが引用例A、引用例Bにそれぞれ記載され、技術水準として公知であることは、当事者間に争いがない。この事実はとりもなおさず大豆油および卵燐脂質が酸化により変質し易いことが明かなため、処理を非酸化状態で行つてその変質の防止ひいては副作用の防止をはかつていることを示すものといえる。

ところで成立に争いのない甲第二号証(引用例A)、同第三号証(引用例B)によると、引用例Aには、引用例Bの方法により卵燐脂質が精製されているエマルジヨンUをふくめた二二例をあげた「試験した脂肪エマルジヨンと乳化系の比較」という表の注に、エマルジヨンU以外の三例について特に「窒素ガス中で保存しなかつた。」と記載されているので、エマルジヨンUは窒素ガス雰囲気中で保存されたことが推定できる。そしてまた大豆油、卵燐脂質の抽出後の保存を非酸化状態で行うのは酸化防止の目的であることは当事者間に争いがない。

そうすると、大豆油および卵燐脂質の抽出後の保存を非酸化状態で行うことは、当業者であれば引用例A、引用例Bからたやすく推考できるものといわねばならない。

三、大豆油の燐脂質を除去する工程について

甲第六号証、同第七号証によると、大豆油から燐脂質を完全に除去する構成は、補正の前後を通じ特許請求の範囲には全く記載されていないことが認められるので、この点を本願発明の構成要件とみることはできない。なお甲第七号証によると、本願発明の詳細な説明欄に、その一実施例として大豆油を水ついでソーダ溶液で洗浄することが記載されているけれども、これとの照応をうかがわせる特許請求の範囲の記載も認められない。また同号証によれば、発明の詳細な説明欄に「試験が他の燐脂質、例えば大豆燐脂質をふくむエマルジヨンでなされる場合には不都合な副反応が生起する。」と記載されていることは明らかであるが、これは大豆油燐脂質を乳化剤として別途に加えた場合のことをいつているのであつて、大豆油から燐脂質を除くという発明の構成要件を示しているものとはみられない。また本願発明は静脈注射用の脂肪エマルジヨンを得るためのものであるから、使用する大豆油および卵燐脂質は純正なもの、すなわちあらゆる不純物が充分に除去されねばならないことは当然であり、不純物のうちとりたてて大豆燐脂質だけが完全に除去されねばならないものとは考えられない。

いずれにしてもこの点に関する原告の主張は採用できない。

四、作用効果について

甲第二号証によると、引用例Aに示されたエマルジヨンUはどんな場合にもさむけを生じさせない唯一のものであつたことを示している。このエマルジヨンでは、体温上昇は自覚的訴えを伴わなかつたことが記載されていることが認められ、本願発明の詳細な説明欄に記載されている作用効果と格別異なるものとは考えられない。また甲第七号証によれば本願発明の方法で得られた脂肪エマルジヨンは「イントラリピツド」という登録商標名がつけられているとその詳細な説明欄に記載されており、また甲第二号証によれば引用例Aに示されたエマルジヨンUも「イントラリピツド」という名称で市販されているとされているから両者は同一であつて作用効果も違わないものといえる。

他に引用例などに比して作用効果の顕著さを示す立証はない。

五、結論

そうすると、本件審決には原告の主張するような判断の誤りはないから、本訴請求は失当であり、棄却せざるを得ない。

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