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東京高等裁判所 昭和47年(行コ)15号 判決 1974年10月29日

東京都台東区元浅草二丁目八番一一号

控訴人

朴尚根

右訴訟代理人弁護士

松山正

古波倉正偉

有賀功

安藤壽朗

東京都台東区東上野五丁目五番一五号

被控訴人

下谷税務署長

鈴木和

右指定代理人

中村勲

平塚慶明

和泉田三喜造

剣持哲司

右当事者間の昭和四七年(行コ)第一五号更正決定取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対して昭和四〇年九月二一日付で、控訴人の昭和三九年分所得税についてした更正処分は、所得金額一一〇万円をこえる限度において、これを取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上、法律上の陳述、証拠の提出、援用、認否は次に記載するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

(控訴人の陳述)

一、本件更正処分は、日韓条約成立以来、朝鮮民主主義人民共和国系である在日朝鮮人台東商工会に対する態度を一変し、「朝鮮征伐・民商退治」のスローガンのもとに、同商工会の組織破壊を目的として、同会会員である控訴人外一八名に対する集中的、かつ、前年度の納税額の数倍となる巨額の徴税攻撃を加えたもので、もつぱら政治目的を果たす手段として更正処分が行なわれたものであつて、課税処分とその実態を欠くものである。

二、本計処分は、被控訴人において、更正処分をなし得るに足る調査をすることなく、もつぱら巨額の政治的徴税行為に出でたものであつて、採取盃数の計算等による理由づけは、本件訴訟になつて急拠行なわれたものにすぎない。

被控訴人は銀行調査を行なつたり、仕入先の佐々木酒店等の反面調査を行なつたと主張するが、右銀行調査によつては控訴人の所得を明らかにする資料は存しないし、佐々木酒店に対する調査は訴訟が始まつてから行なわれたものであつて許されない。また、差益率が合理的であるかどうかについての根拠も存しない。そして、本件のごとく更正時と本訴とで理由づけが全く異なり、しかも、更正時においては、更正するに足りる調査・資料もないのに、訴訟において急拠採取盃数等を計算してつじつまをあわせようとするが如き場合には、理由のさしかえは許されないものである。

三、控訴人の申告売上額は四四二五万円であり、被控訴人の認定した売上金額は四四四〇万二三四九円であつて、申告額との差額は僅か一五万二三四九円である(被控訴人が違算と称して酒類の売上金を八一万一五七八円、ジュース類の売上金を三〇万六〇〇〇円、合計一一一万七五七八円を加算訂正した総売上金四五五一万九九二七円との差額も一二六万九九二七円にすぎない。)

被控訴人は、他方、仕入金額と必要経費は「控訴人の申立てた金額をそのまま採用した」と主張しているから、被控訴人の主張自体からみても、更正により加算すべき金額は一五万二三四九円(訂正後においては、一二六万九九二七円)にしかならない。申告所得金額一一〇万円に対し、更正された所得金額は三二九万七七八九円であり、その差額は二一九万七七八九円となつているから、右の被控訴人の計算そのものから考えても更正は過大である。

また、被控訴人が主張している、仕入金額、必要経費は控訴人の申立てた金額をそのまま採用したとの点も事実に反する。即ち、減価償却等が否認されているのである。結局、更正の段階における理由と、その後の審査段階(もしくは訴訟段階)における更正の理由との間には大きな矛盾があり、同一官庁のした処分としては首尾一貫しないばかりか、各段階における認定には合理的疑問をさしはさむ余地が充分あつて、合理的推計とはいえないのである。

(被控訴人の陳述)

控訴人の右主張事実中、被控訴人の従前の主張に反する部分は争う。

(証拠関係)

控訴人は、甲第一一号証の四、第一七号証の一ないし一三、第一八号証を提出し、甲第一七号証の一ないし一三は、上野界隈の控訴人と同業者の店舗の店頭写真であると述べ、当審証人宮本幸男の証言および当審における控訴本人尋問の結果を援用し、乙第一〇号証の一、二、第一一号証の一ないし三の成立を認めた。

被控訴人は、乙第一〇号証の一、二、第一一号証の一ないし三を提出し、当審証人宮本幸男の証言を援用し、甲第一一号証の四の成立は認める。甲第一七号証の一ないし一三が、上野界隈における控訴人と同業者の店舗の店頭写真であることは認める、甲第一八号証の成立は知らない、と述べた。

理由

一、当裁判所の認定、判断は、次に付加するほかは、原審のそれと同一であるから、原判決の理由の記載をここに引用する。当審において取調べた証拠によつても、右認定、判断は左右するに足りない(但し、原判決理由七枚目表四行目から五行目にかけて「証人秋山昇」とあるのは「証人秋本昇」と、同八枚目表一〇行目に「前提証人」とあるのは「前掲外山証人」とそれぞれ訂正する)。

(付加部分)

(1)  控訴人は、当審において、本件更正処分は、台東商工会の組織破壊を目的としたものであると主張するが、そのような事実を肯認するに足りる証拠はない。

(2)  控訴人は、当審において、本件更正処分が充分な調査をすることもなく行なわれたものであり、また、本件推計に使用された差益率は合理的な根拠をもたないとも主張する。しかし、これらの点についての、当裁判所の判断は、原判示のとおりであり、本件処分は、調査なしに行なわれたものでもないし、また、差益率算出の根拠となつた売上金額が高きに失するということもできない。よつて控訴人の右主張も採用できない。

(3)  控訴人は、当審において、本件のように更正時と、本訴との間で処分の理由づけが全く異なつている場合には、理由のさしかえは許されないと主張するが、理由のさしかえが許されることは、原判決引用の最高裁判所の判例の示すとおりであり、これにつき、所論のような制限を加えなければならない合理的根拠は見出せない。所論は結局独自の見解であつて採用できない。

(4)  そのほか、控訴人は、当審において、被控訴人の更正額が過大であるとか、推計方法が合理的でない等の点を指摘するけれども、これらの点については、いずれも原判決の認定、判断のとおりであつて、更正額は本訴における推計の範囲内であつて過大なことはなく、また、推計方法も合理的でないということはできない。

よつて、この点に関する控訴人の主張も採用できない。

二、以上のとおりであつて、控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないので、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浅賀栄 裁判官 小木曽競 裁判官 深田源次)

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