東京高等裁判所 昭和48年(う)529号 判決
被告人 野口昭二
〔抄 録〕
記録によれば、本件犯行の日時、起訴の日時が所論のとおりであり、その間に五か月余を経過していることは明らかであるが、そのために本件につき公訴時効が完成したものではなく、その他公訴提起の手続が法規に違反して無効とする事由も認められない。所論は、本件の起訴が遅れたために、前刑執行の日時と、本件犯行の日時及び起訴の日時との関係から、被告人は前刑に引続いて本件による刑の執行を受けることができなくなり、右両刑の執行の間に期間を置いて再度刑の執行を受けることにより、業務上甚大な不利益を受け、迅速な裁判を受ける権利を奪われたという。憲法三七条一項は刑事被告人が迅速な裁判を受ける権利を有することを規定しており、裁判所が事件につき迅速な裁判をするべく努め、検察官もその線に沿って迅速な事件処理に努むべきことに異論はないが、各事件の具体的事情により、起訴、判決に至るまでの期間に長短を生ずることは已むを得ないことであり、一律に何日間を超えるときは迅速でないと決し得る性質のものではない。本件の場合、検察官が特別の意図をもって殊更に起訴を遅らせたと認める事情は見られず、前裁判確定による刑執行の始期が、たまたま本件犯行の日の翌日になったことから、本件の起訴、裁判は前刑の執行中に終了しなければならないこととなって、これに沿わないときは被告人の迅速な裁判を受ける権利を侵害し憲法に違反するというべきものではない。
(高橋 寺内 千葉)