東京高等裁判所 昭和48年(う)744号 判決
被告人 舩木庄三
〔抄 録〕
控訴趣意第一点は、原判決判示第三の一の恐喝の点につき、(イ)被告人舩木が、債権者菅野靖雄から、清水町子を主債務者、広井政勝を連帯保証人とする金三〇万円の債権の取立ての委任をうけた旨の事実主張、および(ロ)被告人舩木が右広井を脅迫していない旨の事実主張を前提とし、(イ)については、菅野靖雄の司法警察員に対する昭和四七年六月五日付供述調書の、(ロ)については、広井正勝の検察官に対する供述調書の信用性を争い、原判決の事実誤認をいうものである。
右(イ)の点についての菅野の司法警察員に対する供述調書を当審取り調べの証人菅野靖雄の証言および原審取り調べの関係証拠と対比検討してみると、右供述調書中菅野が広井に対する債権三〇万円の取立てを被告人舩木に委任していない旨の供述記載部分は、信用性が薄いものであり、証人菅野の当審証言によれば、菅野が清水町子の債務につき連帯保証をした広井に対する右債権の取立てを被告人に委任したものと認めることができ、この証言に沿う被告人舩木の司法警察員に対する供述調書中の供述記載は、その限度においては措信できるものと認められるから、原判決が、「被告人は、清水に対する右債権の取立の委任をうけたが、右清水の所在が判らないことから、これを奇貨として同女の連帯保証人広井正勝より債権取立て名下に金員を喝取しようと企て」と認定している部分には、事実誤認があるものである。他方(ロ)の点についての前記広井の検察官に対する供述調書は、原審取り調べの他の関係証拠と対比検討しても、その信用性に疑いはなく、これを証拠にあげて、被告人が広井に加えた脅迫内容を認定している原判決の措置は相当であり、その脅迫の程度は、債権取立のためにとった手段としては、権利行使の方法として社会通念上一般に忍容すべきものと認められる程度を逸脱したものと認められるから、被告人の所為を恐喝罪にあたるとした原判決の認定は結論において正当として是認できるけれども、権利行使の方法として恐喝手段が用いられた場合と、債権取立て名下に金員を喝取した場合とでは、その犯情に差があることは否み難いから、右(イ)の点についての事実誤認は、判決に影響を及ぼすことが明らかな場合に該当する。
(荒川 谷口 時国)