東京高等裁判所 昭和48年(ネ)1233号 判決 1978年5月25日
控訴人
株式会社コマチ
右代表者
伊藤米三
右訴訟代理人
右田政夫
右訴訟復代理人
松本博
被控訴人
ヘヤー・インダストリー・リミテツド
右代表者
ジヨージ・ローゼン
右訴訟代理人
大橋光雄
外一名
主文
原判決中、控訴人敗訴の部分を取消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第一・二審とも、被控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
一本件契約の成立
被控訴人は洋鬘の製造販売を業とするものであるところ、被控訴人が昭和三六年五日ころから控訴人に対して洋鬘の製造等に関する技術指導を行い、同年一二月一〇日被控訴人と控訴人との間で本件契約が締結されたことは当事者間に争いがない。
二本件契約締結に至る経緯
この点に関する当審の認定判断は、次に付加、訂正、削除するほか、原判決理由(二〇枚目表九行目から二六枚目表一行目まで)のとおりであるから、それをここに引用する。
1 原判決二〇枚目裏六行目の「現在の代表取締役である」を「前代表取締役であつた」と、二一枚目表三行目の「三三」を「三二」と改め、二二枚目表二行目から三行目にかけて「カーニバル、演劇用として」、同一〇行目から一一行目にかけて「証人伊藤勝三の証言、被告代表者本人尋問中の右認定に反する各部分は採用し難く、他に」、二二枚目裏九行目から一〇行目にかけて「(以下単に「ローゼン」という。)」、二四枚目表三行目の「後記認定の如く」、同五行目から六行目にかけて「後記認定の如き」、二六枚目表二行目から同八行目までをいずれも削除し、二三枚目表三行目「そのころ」の次に「ジエトロ(海外市場調査会)又はニユーヨークの日本」を挿入する。
2 原判決二四枚目裏六行目冒頭から二五枚目裏九行目「ないこと」までを金部削除し、これに代えて次の文章を挿入する。
「(9) そしてローゼンから提示された原案を池上が翻訳して米三に示したところ、同人は、「本件に関すると関せざるとにかかわらず、被告の製造販売品にして、日本国以外との取引については、被告の従来の取引先との取引は、被告はなんらの制約も受けない。」という特約条項の挿入を申入れたが、ローゼンの容れるところとならず、結局、「本件契約は、被告が、原告の知識及びノウハウの寄与を受けていない製品の販売についてはなんらの制約を受けるものではない。」という原案に副つた内容について合意に達したこと、(10) 本件契約については、英文と和文による二通の契約書が作成され、同月一四日原告の代表者としてのローゼンと被告の代表者としての米三がそれぞれ署名したこと、英文の契約書には右合意の内容がそのまま記載されているのに反し、和文の契約書には前記特約条項がそのまま記載されているが、それは、右契約締結の場に立会つていなかつた被告会社の従業員今泉京子が米三の作成したメモに基づいて清書した契約書に、日本語の全く解らないローゼンが当然英文の契約書と同一内容のものであると信じて署名したことによること、(11)しかしながら、右和文の契約書はもつぱら米三の手控えとするために作成されたものであるにすぎず、それによつて本件契約の内容が変更されたものでないこと、」
三本件契約の効力
まず、控訴人は、本件契約には前記特約条項が付されていた、仮に同特約条項が付されていなかつたとすれば、本件契約の要素に錯誤があつて無効である、と主張する。
しかしながら、本件契約締結の経緯についての前記認定の事実に照らすと、本件契約については同特約条項が付されなかつたこと、そして控訴人は本件契約に同特約条項が付されていないことを了解しており、したがつて契約の要素に錯誤があつたといえないことが明らかであるから、右主張は採用できない。
次に、控訴人は、本件契約は、外資に関する法律(以下「外資法」という。)第一〇条、外国為替及び外国貿易管理法(以下「外為法」という。)第四二条に違反し、無効である、と主張する。
本件契約成立時における外資法(昭和二五年法律第一六三号)第一〇条によると、外国投資家及びその相手方は、技術援助契約でその期間又はその対価の支払の期間が一年をこえるもののうちその対価を外国へ向けた支払により受領しようとするものを締結しようとするときは、通商産業大臣の認可を受けなければならない、とされている。そして、被控訴人が米国ニユーヨーク州法に基づいて設立された法人であり、かつ、同州に本店を有することは本件記録上明らかであつて、本件契約によれば、被控訴人が洋鬘製造に関する技術を控訴人に提供し、控訴人が右技術を使用する権利を有することも明らかなところである。右の事実によれば、被控訴人が外資法第三条第一項第一号にいう外国投資家に、本件契約が同条項第三号にいう技術援助契約に該当するものというべきであり、また、本件契約の存続期間が一〇年とされていたことも前記のとおりである。しかしながら、本件契約には、技術援助の対価としての支払に関する約定は含まれていないのであるから、同契約はその締結について前記認可を受けなければならない契約に該当しないものというべきである。なお、外資法第一〇条は昭和三九年に改正され(同年法律第三三号)、前記「対価を外国へ向けた支払により受領しようとするもの」という文言が削除され、同条及び同条による政令の規定、すなわち外資に関する法律の規定に基づく認可の基準の特例等に関する政令第三条の二の規定によれば、本件契約のような技術援助契約の締結及び更新等については通商産業大臣の認可を受けなければならないことになるが、右改正前に既に締結され、効力を生じている契約については右改正法になんらの規定もおかれなかつたから、本件契約は右改正によつてなんらの影響をうけないものと解すべきである。
また、外為法第六条によると、被控訴人は非居住者、控訴人は居住者として扱われるところ、同法では、その規定又は政令で定める場合を除いて、非居住者に対する支払又は非居住者からの支払の受領が禁止され(第二七条第一項)、政令で定める場合を除いて、居住者と非居住者間の債権の発生、弁済等の当事者となることが禁止され(第三〇条)、更に、政令で定める場合を除いて、同法の適用を受ける支払、決済その他の取引を伴う役務に関する契約をしてはならない、とされている(第四二条)。
ところで、外為法は、外国貿易の正常な発展を図り、国際収支の均衡、通貨の安定及び外貨資金の最も有効な利用を確保するために必要な対外取引の管理を行うことを主たる目的とするものであるが(第一条)、同法及びこれに基づく政令による諸制限を漸次緩和ないし廃止する目的をもつて再検討するものとしており(第二条)、同法は、本来自由であるべき対外取引を国民経済の復興と発展に寄与する見地から過渡的に制限するための取締法規である、と解される。したがつて、同法第四二条に違反して締結された契約は、刑事法上は違法であるが、私法上は有効であると解すべきである(最高裁判所昭和三五年(オ)第六六二号同四〇年一二月二三日第一小法廷判決・民集第一九巻第九号二三〇六頁参照)。
以上により、外資法、外為法違反を事由とする控訴人の主張は、理由がない。
かような次第で、本件契約が有効に成立したことは明らかである。
四本件契約に基づく控訴人の債務及びその債務不履行の存否
さきに認定した本件契約締結の経緯に照らすと、本件契約の目的は、控訴人が被控訴人の技術指導及びノウハウ等を得て製造した洋鬘製造品を被控訴人に対してのみ販売し、これを買受けた被控訴人はその製品を世界の洋鬘製品市場において再販売し、その市場において卓越した地位を獲得することであつた、ということができる。
ところで、本件契約にあつては、控訴人は被控訴人の技術指導及びノウハウ等によつて製造した洋鬘製品を被控訴人に対してのみ売渡し、被控訴人の書面による同意がない限り、右製品を第三者に売渡してはならないとされたことは、前記のとおりであるが、被控訴人が控訴人から常に右製品を買取らなければならない旨の定めはない。したがつて、右契約の趣旨からすると、被控訴人は、控訴人が被控訴人の技術指導及びノウハウ等によつて製造した洋鬘製品を独占的に買取る権利を有するにとどまり、必ずしもこれを買取る義務を負わないのに反し、控訴人は、被控訴人の同意なしには、その製品を第三者に売渡すことができないというのである。かくして、控訴人が被控訴人に対し製品の見本を提供して製品の買取を求めたにもかかわらず、被控訴人がその製品に満足できないなどといわれなき理由をもうけてその買取要求に応じないような場合であつても、控訴人がこれを第三者に売渡したときは、契約上の義務違反に問われることにならざるをえないが、そうだとすれば、かような場合に、控訴人は、被控訴人が買取りを拒否した製品をそのまま手許にとどめておくのほかなく、徒に在庫品をかかえてやがては倒産のやむなきに至ることも考えられ、結局、控訴人に対してのみ著しい不利益を課することとなつて、取引上の信義則にも反し、甚だ不合理であるといわざるをえない。
かような見地に立つて考えてみると、本件契約の解釈として、控訴人が被控訴人の技術指導及びノウハウ等によつて製造した洋鬘製品を、被控訴人の同意なしに、第三者に売渡してはならない義務は、事情の如何を問わず、無制限に課されたものではなく、被控訴人が控訴人の右製品を買取る意思を表明し、あるいは又、その意思があるものと解される状況のもとにおいて、控訴人がその製品を第三者に売渡すことを禁じた趣旨であるにすぎず、控訴人が被控訴人に対して製品の買取を要求したにもかかわらず、被控訴人がその要求に応ぜず、しかも要求に応じないことに合理性が認められない場合あるいは被控訴人に右要求に応ずる意思のないことが明らかな場合にまで、控訴人にその製品を第三者に売渡すことを禁ずる趣旨でではないものと解するのが相当である。
ところで、<証拠>によれば、次の事実が認められる。
1 本件契約成立後、控訴人はローゼンの技術指導及びノウハウ等による洋鬘製品の製造を開始するとともに、工場設備の機械化、従業員の増員、新工場の建設等の計画をすすめて逐次量産体制をととのえていつた。
2 昭和三七年に入つて、ローゼンは、来日しては再三帰国したが、帰国の都度相当数の控訴人の洋鬘製品見本を持帰り、他方、控訴人は同年一月から同年四月にかけて二〇〇台以上の同見本を被控訴人のもとに送付したが、被控訴人は控訴人に対してその製品の買取りのための協議の申出又は注文をしたことが全くなかつた。
3 昭和三七年九月六日、被控訴人と控訴人との間で、本件契約の所期の目的を達成するために、ローゼンが控訴人の顧問となつて直接機械設備の操作上の監督、洋鬘製造のための技術指導、控訴人会社の経営管理等にあたり、控訴人は、ローゼンの右存任中、同人が日本国内にあると否とを問わず、同人に対し週給一〇〇〇ドルを支給することを骨子とする修正契約が成立した。
4 控訴人は、本件契約成立後、前記のとおり洋鬘製品の量産体制をととのえるために巨額の資本を必要としたが、ローゼンは、控訴人のために資金の援助を約しながら、その履行をしなかつたばかりでなく、被控訴人は、控訴人の洋鬘製品見本を受領するばかりで、その製品を買取るための注文をしなかつたことなどから、前記修正契約成立後も、ローゼンと米三との関係は円満を欠いていたが、昭和三七年一一月三〇日ころ米三がローゼンに対して信用状の開設及び控訴人の洋鬘製品の発注を要求したところ、ローゼンが曖昧な態度を示したので、立腹した米三はローゼンに対し被控訴人との関係を終了させる旨を言明し、そのためローゼンは同年一二月一日「日本にはもう来ない。用事があつたらニユーヨークに来るように。」と米三に言い残して帰国したまま、爾来被控訴人と控訴人との関係は断絶状態となつた。
5 被控訴人は、本件契約成立後ローゼンが昭和三七年一二月一日帰国するまでの間に、本件契約の趣旨に則り、みずから控訴人に対して洋鬘製品の買取りの前提として見本の先給付を求めたことはなく、また、その間、被控訴人が米国内において右製品の販路の開拓等契約の所期の目的を達成するために必要な営業活動をした形跡はない。
6 昭和三七年八月ころ以降、控訴人の製造にかかる洋鬘製品については、米国をはじめ諸外国の洋鬘製品販売業者から控訴人に対してその買取りの申出が相次いだが、その都度控訴人は、被控訴人との間に独占販売契約を締結していることを理由に、右申出には応じられない旨の回答をつづけてきた。
7 昭和三八年一月控訴人の洋鬘製品の量産体制がととのつてフル操業が可能となり、控訴人は同年二月ころ以降本格的に輸出向け洋鬘製品の製造を始めたが、被控訴人との関係が断絶状態となつていたので、やむなく控訴人はその製品を主として米国内の他の洋鬘製品販売業者に輸出販売するに至つた。
以上のとおり認められ、前掲被控訴人会社代表者の供述のうち右認定に反する部分は、他の前掲証拠関係に照らして、信用しがたく、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
右認定の事実によれば、控訴人は、本件契約が成立して以後、被控訴人の技術指導及びノウハウ等による洋鬘製品の製造にとりかかり、右契約の目的を達成するために多大の犠牲を払つて同製品の量産につとめ、同製品を被控訴人に対してのみ売渡そうとしてきたということができるが、昭和三七年中に、控訴人の被控訴人に対する再三にわたる洋鬘製品見本の提供による製品の買取要求に対して、被控訴人は終始これに応じなかつたものであり、しかも右買取要求に応じなかつたことについて首肯しうる事由を見出すことができない。もつとも、この点に関して、前掲被控訴人会社代表者の供述中には、被控訴人が控訴人の右買取要求に応じなかつたのは、控訴人から送付された製品見本が粗悪品ばかりであつたことによるものである旨の部分がみられるが、前記認定の事実関係に照らすと、右供述部分はたやすく信用しがたく、他に被控訴人が控訴人の前記買取要求に応じなかつたことを首肯させる事由を認めるに足りる証拠はない。
なお、被控訴人が、昭和三九年三月二四日、控訴人に対し、被控訴人の技術指導及びノウハウ等によつて製造した洋鬘を第三者に引渡すことの禁止を求めて本件訴を提起したことは本件記録上明らかであり、その訴訟の係属中に、控訴人が、昭和四一年一一月二八日付準備書面をもつて、被控訴人に対し、控訴人の洋鬘製品の一手買取り及び買取価額決定のための協議を求め、被控訴人がこれに応じないことを条件として本件契約を解除する旨の意思表示をしたこと、更に、控訴人が、昭和四二年六月七日ころ到達の書面をもつて、被控訴人に対し、控訴人の洋鬘製品のサンプルブツクと価格表を同封するとともに、それによつて一四日以内に被控訴人が買収注文及び信用状の開設をすることを求め、被控訴人がこれに応じないことを条件として本件契約を解除する旨の意思表示をしたことは、いずれも当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、被控訴人は、控訴人の前記昭和四一年一一月二八日付準備書面に対して、同年一二月二三日到達の書面をもつて、控訴人に対し、洋鬘の種類・サイズ・価額を明らかにすること及び洋鬘製品の見本の送付を求めたことが認められ、また、<証拠>によれば、被控訴人は、昭和四二年六月七日ころ被控訴人のもとに到達した控訴人からの書面に対応するものとして、同年一一月一六日到達の書面をもつて、控訴人に対し、その製品見本の送付を求めたことが認められる。しかしながら、前記認定の事実関係及び昭和三九年三月二四日被控訴人が控訴人に対する本件訴を提起し、その訴訟が係属中であつたことに照らして考えると、控訴人が被控訴人に対して昭和四一年一一月及び同四二年六月の二回にわたり前記条件付契約解除の意思表示をしたことは、控訴人が被控訴人との間の取引の実現を意図していたというよりも、むしろ被控訴人との契約関係を終了させることに真意があつたというべきであるし、このことは被控訴人としても十分了知していたものと解されるから、控訴人の前記条件付契約解除の意思表示に対する被控訴人の前記見本送付要求をもつて、控訴人の被控訴人に対する製品買取要求があつたとして、被控訴人が買取意思を表明したものと推認するのは相当でない。
以上により、被控訴人は終始控訴人の製品を買取る意思を表明せず、しかも被控訴人にはその意思がなかつたものと解するのが相当であるから、かような状況のもとにおいては、本件契約の存続中に、控訴人がその製品を、被控訴人の同意なしに、第三者に売渡したとしても、本件契約に基づき控訴人が負担した義務に反するものではなく、したがつて、控訴人に本件契約に基づく債務の不履行はなかつたものといわざるをえない。
五本件契約の終了
本件契約がその期間を一〇年とする約定であつたことは、前記のとおりである。
まず、控訴人は、昭和三七年一二月一日ローゼンが帰国するに際し、本件契約は合意解除されたと主張するが、前掲控訴人会社代表者の供述中右主張に副う部分は、たやすく信用しがたく、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。
次に、控訴人は、昭和三八年一月五日ころ到達の書面をもつて、被控訴人に対し、控訴人の製品の買取義務不履行を理由として本件契約及び前記修正契約を解除する旨の意思表示をした、と主張するところ、<証拠>によれば、控訴人の被控訴人に対する「昭和三七年九月六日付修正契約は、ローゼンが同年一二月一日帰国したときに終了し、その効力を失つたことを確認したいと思う。」という趣旨の書面がそのころ被控訴人のもとに到達したことが認められるけれども、この事実だけでは控訴人の右主張事実を認めるに十分でなく、そのほかに右主張事実を認めるに足りる証拠はない。
更に、控訴人は、昭和四一年一一月二八日付準備書面及び昭和四二年六月七日ころ到達の書面をもつて、被控訴人に対し、控訴人の洋鬘製品の買取要求をし、これに応じないことを条件とする契約解除の意思表示をしたが、その条件成就によつて本件契約は解除された、と主張し、右各書面が被控訴人のもとに到達したことは前記のとおりである。しかしながら、本件契約の条項からすると、被控訴人は、控訴人の洋鬘製品を独占的に買取る権利を有するが、必ずこれを買取らなければならない義務を負担しているものとは解されないから、被控訴人が控訴人からの製品の買取要求に応じないことによつて、直ちに控訴人が契約解除権を取得するいわれはないものというべきである。
以上により、本件契約が解除された旨の控訴人の主張はすべて採用できない。
ところで、本件契約は、その期間満了後、自動的に更新される旨の約定であつたことは前記のとおりであるが、その期間満了時である昭和四六年一二月一〇日をもつて契約を更新しない旨の格別の意思表示が、控訴人及び被控訴人のいずれかから相手方に対してされたことについての主張立証はない。しかしながら、控訴人は、本件訴訟において、終始本件契約が右期間満了前に解除により終了したと主張し、右契約に基づく控訴人の義務の存在を争つてきたことは前記のとおりであるから、弁論の全趣旨からして、控訴人は、期間満了に先立ち、期間満了後本件契約を更新する意思がない旨を訴訟上表明しているものと解するのが相当である。したがつて、本件契約は昭和四六年一二月一〇日をもつて終了したものというべきである。
六結論
まず、被控訴人は、控訴人に対し、控訴人が被控訴人の技術指導及びノウハウ等によつて製造した洋鬘製品(原判決添付目録(一)、(二)記載の様式のもの)を第三者に引渡すことの禁止を求める、というのである。本件契約によれば、控訴人は被控訴人の同意なしに右製品を第三者に売渡してはならない義務を負つているが、その義務は、被控訴人が右製品を買取る意思を表明し、又はその意思があるものと解される状況のもとにおいて存するものと解すべきことは、さきに説示したとおりである。ところが、本件にあつては、控訴人が、本件契約成立後同契約が終了した昭和四六年一二月一〇日までの間に、被控訴人の技術指導及びノウハウ等によつて製造した洋鬘製品が現存すること、そして被控訴人が右製品を買取る意思を表明し、又はその意思があつたことについてはなんらの主張・立証がないから、被控訴人の前記請求は失当であるといわざるをえない。
次に、被控訴人は控訴人に対し契約違反によつて生じた損害の賠償を求める、というのであるが、控訴人に契約違反、すなわち債務不履行がないものというべきことはさきに説示したとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、被控訴人の右請求も失当であるといわなければならない。
<以下、省略>
(枡田文郎 斎藤次郎 佐藤栄一)