東京高等裁判所 昭和48年(ネ)1978号 判決 1975年6月25日
昭和四八年(ネ)一、九七八号事件控訴人兼同四九年(ネ)第二〇七号事件付帯被控訴人(以下、第一審被告という。)
相原運送株式会社こと
相原政次
同
窪田泉
右両名訴訟代理人
小原正列
ほか一名
昭和四八年(ネ)第一、九七八号事件被控訴人兼同四九年(ネ)第二〇七号事件付帯控訴人(以下、第一審原告という。)
小柴博
同
小柴篤子
右両名訴訟代理人
佐野隆雄
ほか四名
主文
一、昭和四八年(ネ)第一、九七八号事件につき、
1、第一審被告らの本件控訴をいずれも棄却する。
2、右事件についての控訴費用は第一審被告らの負担とする。
二、同四九年(ネ)第二〇七号事件につき、
1、第一審原告らの付帯控訴にもとづき原判決をつぎのとおり変更する。
2、第一審被告らは連帯して第一審原告ら各自に対し金七八万二、七八〇円および内金六八万二、七八〇円に対する昭和四六年四月二九日から、内金一〇万円に対する本判決確定の日の翌日から各支払ずみまでの年五分の割合による金員を支払わなければならない。
3、第一審原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4、原審における訴訟費用および付帯控訴費用はこれを七分し、その一を第一審被告らの、その余を第一審原告らの各連帯負担とする。
5、この判決は第一審原告ら勝訴の部分に限りそれぞれ仮に執行することができる。第一審被告らにおいて各自または共同して第一審原告らそれぞれに対し金八〇万円の担保を供するときはその担保提供を受けた者の関係で右の仮執行を免れることができる。
事実
《前略》
一、昭和四九年(ネ)第二〇七号事件についての第一審原告らの主張
本件によつて第一審原告らのこうむつた損害は、各計五四八万〇、〇四七円である。すなわち、
(一) 逸失利益・各五九五万六、五七四円
1、政博に生じた損害・一、三三三〇万五、三七〇円
政博死亡時の一般男子労働者の平均賃金額が年一一七万二、二〇〇円であることは従前主張のとおりであるところ、昭和三八年から同四七年までの間における実質賃金の平均上昇率が6.85パーセントであることからすれば、日本経済の構造上今後ともその上昇率がこれを下廻ることは考えられないので、政博が二〇才に達する一六年後における一般男子労働者の平均賃金額は、つぎに示すとおり三三八万二、一四八円を下廻ることはない。
1,172,200円×(1+0.0685)16
=3,382,148円
そうすると、政博の得べかりし収入の死亡時における現価は、生活費として収入の五割を差し引いたうえ、ライプニツツ方式により中間利息を控除すると、つぎのとおり一、三三〇万五、三七〇円となる。
3,382,148円×0.5=1,691,074円
1,691,074×(18.6985−10.8377)
=13,305,370円
2、養育費・一三九万二、二一一円
政博が二〇才に達するまでの間一年当り六万円(毎月五、〇〇〇円)の養費が必要であり、これが一〇パーセントずつ増加するものとして毎年の養育費を算出し、ライプニツツ方式により中間利息を控除して死亡時の各現価を求めると、その総額が一三九万二、二一一円(正確には、一三九万二、二二一円)となる。
《後略》
理由
一本件事故の発生およびその態様ならびに第一審被告らの責任原因については、つぎに(一)ないし(三)のとおり付加するほか、原判決の説示するところと同じであるから、その関係部分(原判決書理由らん一および二)を引用する。《中略》
二そこで、以下損害額について判断する。
(一) 逸失利益関係
1 政博の得べかりし利益の喪失による損害、養育費の控除および第一審原告らの損害賠償請求債権の相続の関係については、原判決の説示するところと同じであるから、その関係部分(原判決書理由らん三(一))を引用する。したがつて、第一審原告らが相続取得した損害賠償請求権額は各一九七万八、四七六円である。
2 第一審原告らは、当審において政博が二〇才に達する一六年後における一般男子労働者の平均賃金の上昇率は、日本経済の構造上過去の上昇率からすれば少くとも6.85パーセントを下廻ることはない旨主張するが、一六年もの後における日本経済の変動ないしはこれにともなう一般男子労働者の実質賃金の変動等を現在の時点において予測することはとうてい困難であることはいうまでもないところであるのみならず、将来の逸失利益を現在の価額で填補するならば、その現在の価額によつて現わされる経済価値は将来の物価水準の上下に伴つて変動する理でもあるから、右平均賃金の上昇することを前提として政博の逸失利益を算定すべきであるとする第一審原告らの主張は採用することができない。
なお、第一審原告らは、以上のとおり逸失利益の算定に当つては将来における労働賃金の上昇率を考慮すべきであると主張するのに伴つて政博に対する養育費も逐年一〇パーセントずつ増加することを加味した算出方法を採つているが、そもそも逸失利益から養育費を控除するのは、扶養義務者であつた相続人が相続によつて取得する被相続人の逸失利益相当の損害賠償請求権額を定めるについて公平の観念上いわば損益相殺の法理を適用するものにほかならないものと解されるほか、これまた将来を見とおして策定される平均的価額であるから、政博の逸失利益を算出するについては前示のとおり稼働可能期間を通じ一般男子労働者の平均賃金という固定した金額を基準としたので、これより控除すべき養育費も一律月額五、〇〇〇円とするのが相当であると認められるので、第一審原告らの右意見も採らない。
(二) 慰藉料《後略》
(畔上英治 岡垣学 唐松寛)