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東京高等裁判所 昭和48年(ネ)2348号 判決 1975年6月26日

控訴人<第一審原告>

吉野八五郎

ほか五名

右控訴人六名訴訟代理人

阿部三郎

ほか三名

被控訴人<第一審被告>

西野道之助

右訴訟代理人

上野操

被控訴人<第一審被告>

東京都江戸川区

右代表者江戸川区長

中里喜一

右指定代理人

半田良樹

ほか一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担する。

事実《省略》

理由

一被控訴人西野に対する請求について《省略》

二被控訴人江戸川区に対する請求について

(一)  控訴人らは、被控訴人江戸川区が森と被控訴人西野間の本件田の本件売買による所有権移転につき農地法三条に基づく知事の許可に関し、許可相当の意見を付した行為が国家賠償法一条の公権力の行使にあたる旨主張するので判断する。

国家賠償法一条一項にいう「公権力の行使」には、国の統治権に基づく優越的ないし高権的意思の発動のほか、私経済作用に属する行為および同法二条にあたる行為を除き、広く非権力的な行政作用をも含むものと解するのが相当であり、被控訴人江戸川区所属の農業委員会が農地法三条に基づく知事の許可に関し同法施行規則二条三項による意見を進達する行為もまた同条にいわゆる公権力の行使にあたるものということを妨げない。

(二)  また、被控訴人江戸川区は、特別地方公共団体たる都の特別区で、本件の意見進達をした農業委員会を設置しその費用を負担する者であるから、国家賠償法三条により賠償責任者たりうべきものと解する。

(三)  控訴人らは被控訴人江戸川区所属の農業委員会が森と被控訴人西野間の本件農地売買につき許可相当の意見を進達する以前に、十分に本件農地の耕作状況を調査すれば、菊五郎が森から本件農地を買受け控訴人らが耕作していたことを知りえたはずであり、それを看過して右意見を進達したことは被控訴人江戸川区の過失である旨主張するのに対し、被控訴人区はたとえ、農業委員会が控訴人主張のように調査をせずに意見進達をしたとしても違法性がないと主張するので、この点について判断する。

一般に、土地を二重に売買した場合、特段の事情がないかぎり、各売買とも実体法上は有効であるが、先に対抗要件たる登記を取得した方が、いわゆる背信的悪意の場合等を除き、他方に対しその取得した所有権を対抗できる関係に立つ。ところで、農地を二重に売買し、同一売主と異なる買主それぞれとの連名で農地法三条の許可申請が競合的にされた場合でさえ、知事は、農地法上の買受適格等の要件を審査できるのに止まり、二個の売買の実体法上の効力の優劣を決することはできないから、各売主、買主につき農地法上の要件を具備するかぎり、各売買による所有権移転につきそれぞれ許可をすべきであり、その結果一つの農地につき二個の知事の許可がある状態を生じてもやむを得ず、両者間の実体法上の対抗力については、登記の先後など実体法上の判断に従うものというべきである。本件では、森と菊五郎間の本件農地売買による所有権移転につき農地法三条による知事の許可申請はされていないけれども、その申請が、森と被控訴人西野間の本件農地売買による所有権移転に関する農地法三条の知事の許可申請の前後を問わず、されていた場合でさえ、東京都知事は農地法上各買主が買受適格を有し売主についても問題がないかぎり、各売買による所有権移転につき各別に許可すべきこととなる関係に立つ。したがつて、いわんや本件の如く森と菊五郎間の第一次売買による所有権移転につき知事の許可申請がされていないときに、被控訴人江戸川区所属の農業委員会が、森と菊五郎間の本件農地の第一次売買(およびそれに基づく控訴人らの耕作)を看過して、森と被控訴人西野間の本件農地売買による所有権移転につき東京都知事に対し許可相当の意見を進達したとしても、もともと森と菊五郎間の売買を知つているとしても、同様の進達をすべき場合であるというべきことを考えればそのこと自体をとつて、違法とすることはできない。

したがつて、右農業委員会の進達が違法であることを前提とする被控訴人江戸川区に対する控訴人らの請求はその他の点について判断するまでもなく失当に帰する。

三結論《省略》

(浅沼武 加藤宏 高木積夫)

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