大判例

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東京高等裁判所 昭和48年(ネ)2465号 判決

一 当裁判所は被控訴人製品である原判決別紙目録記載のスキー靴は、本件特許発明の技術的範囲に属さないものと判断するが、その理由は、以下のとおり附加訂正するほかは原判決の理由と同一であるので、これを引用する。

二 附加訂正する部分は、次のとおりである。

(一)原判決理由一枚目裏二行目と三行目の間に次のとおり加入する。

控訴人は、本件特許請求の範囲の「内皮革と外皮革を一体的に緊締しうるようにした」との記載は、単なる作用効果を記載したものにすぎないのであつて、本件特許発明の構成要件を示したものではない旨主張する。なるほど、成立に争いのない甲第一号証によれば、本件特許発明の明細書中、発明の詳細な説明の記載によれば、「本発明は………特徴とする防寒靴に係るものであるから、靴主体の胛部、足首をその略三角形状の突片を以つて強固に緊締することができると共に内皮革と外皮革をその突片をもつて一体的に緊締することができるので………」(公報二欄二一行より三〇行まで)と記載されているから、内皮革と外皮革を一体的に緊締するということは、本件特許発明の作用効果であるといつて差支えない。しかしながら、そもそも、特許出願人は特許請求の範囲には発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならないのであるから(特許法第三六条第五項)、元来は作用効果に関する事項であつても出願人においてこれを特許請求の範囲に記載することによつて発明の構成を機能的に限定したものというべく、その記載のままで特許を受けた以上、当該特許権者は、後に至り第三者に対し自らの権利を主張するに当り、特許請求の範囲に記載されたこのような限定を無視し、この記載をもつて単なる作用効果の記載にすぎず発明の構成要件に属するものではないと主張することは、信義則上許されないと解するのが相当である。そして、本件においては、特許請求の範囲のうち「内皮革と外皮革を一体的に緊締しうるようにした」との記載は、元来は本件特許発明の作用効果に関する事項であること前記認定のとおりであるが、これが特許請求の範囲に記載されることにより、本件防寒靴における三角形状の突片を延設した内皮革と対向する外皮革との連結が機能的に限定されたものというべきである。してみれば、控訴人としては本訴において被控訴人に対し、この記載が単なる作用効果の記載にすぎなく余事記載であると主張することは、信義則上許されないものというべきである。

(二)原判決理由二枚目表一〇行目以下理由末尾までを次のとおり訂正する。

控訴人は、両者はその作用効果において差異のないものであるから、前記構造の相違は、当業者であれば容易に想到実施しうる設計的変更にすぎない旨主張する。

本件特許発明が略三角形状の突片をもつて内皮革と外皮革を一体的に緊締することができることをその作用効果の一つとすることは,当事者間に争いがない。ところで、ここにいう「内皮革と外皮革とを一体的に緊締する」とは、控訴人が主張するように予め足首、胛部を緊締しうるようにしたことをいうものと解すべきではない。このことは、発明の詳細な説明の記載において略三角形状の突片による効果として、靴主体の胛部、足首を強固に緊締することと、内皮革と外皮革を一体的に緊締することとを明瞭に区別して記載している事実よりみても明らかである。むしろ、「内皮革と外皮革を一体的に緊締する」とは、当事者間に争いのない本件特許発明の作用効果および前記甲第一号証の記載によれば、「内皮革1の内胛部側に延設した略三角形状の突片4を胛保護体3の外面に被覆され、その突片4の先端に鋲着した掛具5をその対向位置の外皮革2の外胛部Sダッシュに鋲着した緊締金具6に引掛けて、その緊締金具6を外方に回動して略々三角形状の突片4を外皮革2の外胛部Sダッシュに重合させ」(公報二欄五行目より一〇行目まで)ることにより、突片4を延設した内皮革とその内皮革と対向する外皮革とを、あたかも両者が同体をなすように緊密にむすびつけることをいうものと解するのが相当である。

これに対し、被控訴人製品における緊締バンド13は、前記のような構成であるから、緊締バンド13の掛具14とその対向位置にある外皮革の緊締金具15とを引掛けて結合するときは、その形状、巾に応じて、このバンドを鋲着した外皮革側の内皮革とこの内皮革に対向する側の外皮革および胛部保護体を押圧し、このバンド13の鋲着された外皮革の内胛部とこの外皮革に対向する外皮革の外胛部とを調整可能に連結し、緊締するものにすぎず、内皮革とこれに対向する外皮革を一体的に緊締することができるものではない。

控訴人は、緊締バンド13はその基端が外皮革の内胛部の裏側深く、くるぶし部の下方にある硬質部分に鋲着されているため外皮革に何らの影響を与えるものではない旨主張する。しかし、たとえ緊締バンド13の鋲着されている外皮革部分が伸縮性を有しないからといつて、このバンドによつて外皮革のこの内胛部とこの外皮革に対向する外皮革の外胛部とを緊締することができないということはできない。また、この緊締バンド13は、内外皮革間にはさまれ、内皮革の内側胛部を押圧し、その端部が外皮革2の外胛部に締付け固定されるのであるから、このバンドによつて、予め足首、胛部を緊締することは控訴人主張のとおりであるとしても、「内皮革と外皮革を一体的に緊締する」ことが、単に予め足首、胛部を緊締しうるようにしたことをいうものと解すべきでないこと前記説示のとおりであるから、このことから、緊締バンド13に内皮革とこれに対向する外皮革とを一体的に緊締する作用効果があるものとすることはできない。

なお、控訴人は、本件特許発明において、「略三角形状の突片」を「延設」したとは、内皮革の外縁がそのまま延長してほぼ三角形状の突片を形成する場合のみでなく、その突片が、内皮革内側胛部の適宜の個所に取付けられ、外皮革の内側より該内皮革と対向する外皮革方向に延長突設されている場合をも包含する旨主張する。しかし、かりにその主張のとおりであると解してみたところで、そのことによつては前記結論に何らの影響を及ぼさないことは勿論である。

そうだとすると、本件特許発明の構成要件Bと被控訴人製品のB1の構造の相違に基づく両者の作用効果は同一のものとはいい難く、前記構造の相違が控訴人の主張するような単なる設計変更であるということはできない。したがつて、被控訴人製品は、本件特許発明の技術的範囲に属さないものというべく、控訴人は、被控訴人に対し、登録第五九八一〇五号特許権に基づいて被控訴人の原判決別紙目録記載のスキー靴を販売する行為を差止める権利はない。

三 そうすると、被控訴人の本訴請求は正当であるから認容すべく、これと同趣旨の原判決は正当であつて、本件控訴は理由がないから棄却することとする。

当事者双方の主張、立証は、次のとおり附加、訂正するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一 控訴人の主張

(一)訂正する部分は、次のとおりである。

1 原判決一〇枚目表五行目を次のとおり訂正する。

「(四)同四の項について。

(1)本件特許発明の特許請求の範囲における「その内皮革と外皮革を一体的に緊締しうるようにした」との記載は、本来特許請求の範囲に記載すべき事項ではない。なぜならば、この記載部分は、本件特許発明の構成を、

イ 内皮革、外皮革をもつて靴主体を二重に形成し、

ロ その内皮革の内側胛部にほぼ三角形状の突片を延設し、該突片に掛具を固着するとともに、その掛具と対向する

外皮革の外胛部分に緊締金具を固着したことにより生ずる作用効果であつて、本件特許発明そのものを構成する要件ではないからである。

したがつて、本件特許発明の要旨は、前記イとロとの構成要件を結合した点にあるものとして把握すべきである。

(2)四(二)記載の作用効果は認める。」

2 原判決一三枚目裏七行目に「Cの構成要件を充足する」とあるのを「Cの作用効果と同一の作用効果を有する」と訂正する。

3 原判決一三枚目裏末行から一四枚目表一行目までに「A、B、Cの各」とあるのを削る。

(二)附加する部分は、次のとおりである。

本件特許発明におけるB要件と、被控訴人製品におけるB1構造とがその具体的構造において相違することは認める。

しかし、両者はその作用効果において差異のないものであり、前記構造の相違は、当業者であれば容易に想到実施しうる設計的変更にすぎない。このように、特許発明の主要な構成要件について、これとその作用効果において特段の差異がない設計的変更手段をもつて置き換え、しかも、その置換たるや当業者であれば容易にこれをなしうるものであるときは、このような設計的変更手段をもつて均等手段ということができる。以下これを詳説する。

1 本件特許発明における「ほぼ三角形状の突片」と被控訴人製品における「緊締バンド13」とは、その作用効果において異なるものではない。

本件特許発明におけるほぼ三角形状の突片は、図面には、ほぼ正三角形状のものが示されているが、図面は実施例の一を示すもので、細長い二等辺三角形その他の変形三角形をも包含する概念である。

また、ほぼ三角形状の突片を「延設し」たとは、内皮革の外縁がそのまま延長してほぼ三角形状の突片を形成する場合もありうるが、このような場合のみに限定されるものではなく、内皮革内側胛部の適宜の個所に取付けられ、外皮革の内側より該内皮革と対向する外皮革方向に延長突設されている場合をも包含する概念であることは勿論である。なんとすれば、請求範囲には、「突片を延設し」とのみ記載され突片の取付方法、取付位置等についてはなんらの限定がないからである。

そこで、B要件におけるほぼ三角形状の突片と、B1構造における緊締バンド13とを対比してみると、B要件において突片をほぼ三角形状としたのは、内皮革の表側から胛部保護体を押圧する際三角形状の突片の裾部の幅広い部分でこれを押圧し、その押圧の効果をより大ならしめるためである。

そうだとすると、同じく内皮革の表側から胛部保護体を効果的に押圧する目的で押圧部分を特に幅広き長方形に拡大して形成したB1構造における緊締バンド13は、単なる設計変更にすぎないもので、ほぼ三角形状の突片とはその形状に基づく作用効果の点からみて全く同一技術思想に属するものである。

2 本件特許発明における三角形状突片と被控訴人製品におけるB1構造の緊締バンド13との取付位置は相違するが、両者は外皮革と内皮革とを一体的に緊締するという作用効果に差異はない。

本件特許発明において、「内皮革と外皮革とを一体的に緊締する」とは、内皮革1の内胛部側に延設した略三角形の突片が、(1)胛保護体3の外面を被覆し、(2)該突片4が外皮革2の外胛部S1に重合され、(3)このことにより予め足首、胛部を緊締しうるようにしたことをいうものと解さねばならない。このことは、本件特許発明の公報における発明の詳細な説明の欄に「内皮革1の内胛部側に延設した略三角形状の突片4を胛保護体3の外面に被覆され……略三角形状の突片4を外皮革2の外胛部S1に重合させ予め足首胛部を緊締」(公報第二欄第五行から一一行まで)し、そのことによつて、「靴主体の胛部、足首をその略三角形状の突片を以つて強固に緊締することができると共に内皮革と外皮革をその突片をもつて一体的に緊締することができるので……運動中にその靴の中に雪、砂利等がみだりに侵入することなく」(公報第二欄第二七行から三二行まで)と記載されているところより見ても明らかである。

そこで、被控訴人製品のB1構造における緊締バンド13についてみると、該バンドの基部は、外皮革の内胛部の裏側深く、しかも、くるぶし部の下方にあたる硬質部分に鋲着されているのであるから、該バンドにより足首、胛部を緊締した場合においても、外皮革には何らの影響を与えることがない。しかも、被控訴人製品も内皮革、外皮革をもつて二重に形成されているものであり、被控訴人製品を着用した場合、内皮革は足で押し拡げられ、内、外皮革は強く密着する。緊締バンド13は内、外皮革間にはさまれ、まず、内皮革の内側胛部を押圧し、足の胛部形状に沿つて彎曲し、次いで、内皮革の内・外胛部、胛部保護体3の外面を幅広く拡大された長方形部分で強く押圧し、さらに、その端部が外皮革2の外胛部Sに締付固定されることによつて、予め足首、胛部を緊締する。このように、緊締バンド13は内、外皮革間にはさまれ、内皮革の内胛部にぴつたりと密着し、内皮革をその上方から押圧するのであるから、この緊締バンドは、B要件におけるほぼ三角形状の突片とその作用効果において実質的に何ら差異がない。

すなわち、緊締バンド13はその基端が前述した如く外皮革の内胛部の裏側深く、しかも、くるぶし部の下方にあたる硬質部分に鋲着されているため、着用時に外皮革に何らの影響を与えることなく、内皮革に取付けられたと同様に内皮革の内胛部にぴつたりと密着して、これを足の胛部に押し付けると共に、対向する外皮革の外胛部に重合させ、金具を緊締することにより本件特許発明のB要件にいうところの「内皮革と外皮革とを一体的に緊締する。」という作用効果を奏することとなる。

以上要するに、B1構造において緊締バンド13の胛部保護体を押圧する部分を幅広く拡大した長方形としたことは、B要件におけるほぼ三角形状の突片と同一技術思想であり、また、緊締バンド13の基端を外皮革内側のくるぶし部に鋲着したことにより、B要件における内皮革の内側胛部にほぼ三角形状の突片を延設したことによる作用効果となんらの作用効果上の相違を示すこととはなつていない。

そして、B要件におけるほぼ三角形状の突片は、その基端の取付位置について特段の限定をしていないから、該基端を内皮革の内側の奥深くくるぶし部にあたる部分に取付けることもその技術思想の範囲を逸脱することとはならないことが明かである。そうだとすると、外観的には一応内皮革内側胛部にほぼ三角形状の突片を延設するという技術思想を逸脱するかにみえるが、しかし、その作用効果においては全く差異がない外皮革内側くるぶし部に緊締バンドを鋲着するという技術思想にB要件を設計変更することは、当業者であればいとも簡単になしうることといわねばならない。B1構造は、このような発想のもとに形成されたものと推認するほかはない。

二 被控訴人の附加する主張

(一)本件特許請求の範囲には「その内皮革と外皮革とを一体的に緊締し得るようにした」との記載があるが、この記載の技術的意義は、本件特許明細書の記載に基づいて定めるべきものである。すなわち、本件特許明細書第二欄第五行から一〇行までには「先ず、内皮革1の内胛部側に延設した略三角形状の突片4を胛保護体3の外面に被覆され、その突片4の先端に鋲着した掛具5を…緊締金具6に引掛けて、外方に回動して略三角形状の突片4を外皮革2の外胛部S1に重合させ予め足首、胛部を緊締した後」との記載があるが、この記載によれば、「略三角形状の突片4」は、内皮革1の内胛部側に延設したものといえる。そして、この延設したということの意味は、明細書添付第一図から第三図までの記載よりみて、内皮革を延長したものを意味すると解して差支えない。

(二)この内皮革1の延長物である略三角形状の突片4で胛保護体3の外面を被覆する。突片4で被覆する程度は、胛保護体3の外面の足首部から足先部にわたる。したがつて、「胛保護体3の外面に被覆され」とは、胛保護体3の外面の足首部から足先部までの全面にわたつて被覆するとの意味である。

胛保護体3の外面の足首部から足先部まで被覆するところの、内皮革1の延長物である略三角形状の突片4は、その先端に掛具5を有し、この掛具を外皮革の緊締金具6に引掛けて、緊締金具6を外方に回動して、略三角形状の突片4を外皮革2の外胛部S1に重合させ、予め足首及び胛部を緊締する。

前述のように、略三角形状の突片4は内皮革の延長物であり、内皮革の一部分である。したがつて、本件特許請求の範囲の記載における「内皮革と外皮革とを一体的に緊締しうるようにする」という場合における内皮革とは、この意味における内皮革の延長物である略三角形状の突片4を含むものと解せられる。そして、この略三角形状の突片4をつうじて内皮革が外皮革と一体的に緊締されるのである。

そして、「一体的に緊締する」とは、略三角形状の突片4の掛具5を外皮革の外胛部S1に鋲着した緊締金具6に引掛けて、緊締金具を外方に回動して、略三角形状の突片4を、突片を延設した内皮革に対向する外皮革の外胛部S1に重合させた場合に得られる緊締作用をいうのである。換言すれば、内皮革の延長物である突片4を延設した内皮革が、この内皮革と対向する外皮革の外胛部S1と重合して、突片4を延設した内皮革と該外皮革とをあたかも両者が同体をなすように緊締することをいうものである。

ところで、一般の防寒靴においては、外皮革と外皮革とを緊締する場合が大部分であるのに対し、本件特許発明では、略三角形の突片を延設した内皮革と外皮革とを重合させて、あたかも内皮革と外皮革とが同体であるかの如く緊締している点で、他の防寒靴にない独自の構造を採用しているところから、本件特許発明においては、特に「内皮革と外皮革とを一体的に緊締しうるようにする」と表現したものである。これに対して、被控訴人製品においては、本件特許発明にいう略三角形状の突片を有しない。被控訴人製品で靴主体を緊締する緊締バンドは、最も巾広い部分で約四・六センチメートル、その余は二・二センチメートルにすぎず、しかも、この緊締バンドは、内皮革とこれに対向する外皮革とを緊締するものではなく、外皮革と外皮革とを緊締するものである。したがつて、被控訴人製品の緊締バンドによつては、内皮革と外皮革とを一体的に緊締することはできない。

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