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東京高等裁判所 昭和48年(ネ)478号・昭54年(ネ)99号・昭47年(ネ)2467号 判決

主文

一  本件控訴及び附帯控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人・附帯被控訴人らは各自、

(一)  被控訴人・附帯控訴人X1同盟に対し、金五六万一、二〇五円並びに内金四六万一、二〇五円に対する昭和四二年一二月一日及び内金一〇万円に対する本判決確定の日から

(二)  同X2、同X3に対し、それぞれ金一八万円並びに内金一六万円に対する昭和四二年一二月一日及び内金二万円に対する本判決確定の日から

(三)  同X4に対し、金九万円並びに内金七万円に対する昭和四二年一二月一日及び内金二万円に対する本判決確定の日から

(四)  同X5に対し、金八万円並びに内金六万円に対する昭和四二年一二月一日及び内金二万円に対する本判決確定の日から

(五)  同X6、同X7に対し、それぞれ金五万円並びに内金三万円に対する昭和四二年一二月一日及び内金二万円に対する本判決確定の日から

各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  控訴人・附帯被控訴人らは、

(一)  被控訴人・附帯控訴人X2、同X3に対し、同X1同盟発行の「青年運動」に別紙一記載の内容の謝罪広告を同別紙記載の条件で

(二)  同X4に対し、同X1同盟発行の「民主青年新聞」に別紙二記載の内容の謝罪広告を同別紙記載の条件で

各一回掲載せよ。

3  被控訴人・附帯控訴人らのその余の請求を棄却する。

二  控訴人・附帯被控訴人らの民事訴訟法一九八条二項の申立を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審を通じ二分し、その一は控訴人・附帯被控訴人らの連帯負担とし、その余は被控訴人・附帯控訴人らの連帯負担とする。

四  この判決は第一項の1に限り仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

当裁判所も、本件「民青の告白」における原判決別表(一)上段掲記の各手記等の掲載が被控訴人X1同盟の著作財産権を侵害するものであり、同表A―6上段の手記の掲載が被控訴人X2の同A―7上段の手記の掲載が被控訴人X3の、同B―4上段の手記の掲載が被控訴人X4の各著作者人格権を侵害するとともに、右各手記に付された「編者解説」とともに同人らの名誉を毀損するものであり、右の各「編者解説」は被控訴人X1同盟の名誉を毀損するものであり、同表C―1上段の手記の掲載が被控訴人X5の、同D―5上段の論文の掲載が被控訴人X6の、同D―6上段の論文の掲載が被控訴人X7の各著作者人格権を侵害するものであるが、これに付された「編者解説」と併せても同人の名誉を毀損するものではないと判断する。その理由は、次に付加・訂正・削除するほか原判決理由「第二本案について」の一ないし五の(六)まで(但し三については三一丁表七行目から同丁末行までを、四については三五丁裏二行目の「そして」以下を、五については各慰謝額及び謝罪広告に関する認定部分を各除く。)を引用する。

(附加、訂正、削除)

一原判決二六丁表七行目、同九行目、同二七丁表四行目から五行目、同丁裏二行目及び一一行目の「手記、論文」をいずれも「手記等」と、同二七丁表末行の「創作」を「創作的表現」と各改める。

二原判決三三丁表六行目の「主張するが、」の次に、「前掲甲第五号証によるも出所の明示がなされているものとは認め難いばかりでなく、」を挿入する。

三控訴人らの主張一について

昭和四二年一二月一日単行本「民青の告白」(副題「職場の中から三〇人の手記」)第一刷が控訴人Y1により発行され、同書中に別表(一)下段掲記の題名の文章二七篇が被控訴人らに無断で掲載されたことは当事者間に争いがない。

控訴人らは、仮に本件「民青の告白」に権利侵害がみられるとしても、その責任を負う者は、同書の奥付に「編者」として記載されているA研究所であつて、控訴会社ではない旨、また、控訴人Y2につき同書の奥付に「発行者Y2」なる記載があるのは「発行所株式会社Y1」の代表取締役たることを表示したものであつて、同人が個人として本件著作権侵害等に責を負ういわれはない旨主張する。

当審における証人Mの証言によれば、A研究所は、通称富士アイスグループ(新有楽町ビル内の「富士アイス」で会合することを常としていたM、控訴人Y2ら数名の思想を同じくする者の集まり)を母体として、昭和三九年九月頃、共産主義運動を批判するために、右Mをいちおうの代表者、Ⅰを顧問とし、ほかに専従者三名の協力を得て発足したものであるが、その組織については格別の定めはなく、特に事務所を設けず、その構成員の範囲も明確ではなく、「研究所」と称するものの特段の機構を有しない研究者数名の集まりをいうものであつて、控訴人Y2は同研究所の正式メンバーではなかつたものの、相談役的立場にあつたこと、同研究所は、右Y2及び同人が代表取締役である控訴人Y1と密接に連携して活動してきたものであつて、昭和四三年頃解散して、その仕事は右控訴会社に引継がれたこと、昭和四〇年以降同研究所名義で「新版進歩的文化人」「恐るべき民青」「経営細胞」「恐るべき労音」「日本共産党本部」そして「民青の告白」なる書物が編集著作されているが、これらの書物は全て控訴会社によつて出版発行されたこと、の諸事実が認められ、これによれば同研究所とこれと志を同じくする控訴会社及び控訴人Y2とは極めて緊密な関係にあつたことが推認できるうえ、前記証言によれば、本件「民青の告白」の出版の企画及び編集は右Mと控訴人Y2が相談してきめたものであつて、同書の編集解説等の執筆は主として右Mとその補助者によつて行われたが、登載された本件手記・論文等の引用につき控訴人Y2は、原著作者あるいはX1同盟の了解を得ていないこと及びその引用において原文の見出しが変更されたり、内容が加除されたりしていることなども承知しており、また、同書において掲載されている手記・論文の量が多いことなどから、著作権法に違反するのではないかとの疑念を抱き右Mの意見を徴したが、慣習上著作権侵害にはならない旨のMの言を受けたのみで、なんらの調査をすることなく敢えて同書の出版発行に当り、控訴会社において発売頒布するに至つたことが認められる。以上によれば、本件「民青の告白」の奥付(成立に争いのない甲第五号証)には編者として「A研究所」なる記載があるが、同研究所なるものは著作者としての独立した存在の実質を具有するものではなく、本書の実際の編集者は右M及び控訴人Y2と認めるのが相当であり、同書に本件手記等を収録しこれを発行したことによる第三者の権利の侵害については、控訴会社及び同人らは少なくとも過失による共同不法行為責任を負うものというべきである。また、右奥付には「発行者Y2、発行所株式会社Y1」と記載されていることは認めることができるものの、右「発行者Y2」を控訴人ら主張の趣旨に解することはその記載自体から困難であり(これに反する鑑定人米川猛郎の鑑定の結果は採用できない。)、右の記載は控訴人Y2が本書の出版元である控訴会社とともに本書の発行につき民事上、刑事上の責任を負う旨を表示したものとみるのが相当であり、自ら右のような表示をした以上、右の発行が被控訴人らの権利を侵害した場合に、控訴人Y2は自己が控訴会社の代表者に過ぎないとしてその責任を回避することは許されず、控訴会社と共同してその損害賠償の責に任ずべきものであると解される。

四控訴人らの主張二について

1  控訴人らは、被控訴人X1同盟は、著作権の譲受につき適法な登録をしていないから、その権利を控訴人らに対抗できない旨主張するが、不法行為者に対し権利を主張するについては何らの対抗要件をも要しないから、右主張は採用できない。

2 控訴人らは、本件手記等は雑報時事の報道に当り、あるいはその引用は正当な範囲内の節録引用に当り、著作財産権及ぶ人格権の侵害はない旨主張するが、右主張の失当であることは、既に述べたとおりであつて(原判決理由二ないし四)、<証拠>によれば、本件「民青の告白」に登載された本件二七篇の手記等が、単なる資料としての引用ではなく、同書の主要な構成資料であることは、同書の全体の構成、同書の副題及び「はしがき」の記載自体からみて、また、その引用の分量、体裁からみて明らかであり、正当な節録引用とはとうてい認められない。なお、原判決別表(二)の一ないし六の上段に記載の各手記等の原題名についても、仮りにそれが各著作者によつて付されたものでないとしても、著作者が右題名を付することを青年運動編集委員会又は民青新聞編集委員会に明示又は黙示に承諾したものと認めるのが相当であるから、右題名は著作権法にいう「題号」であつて、その改変が正当な社会慣行として許容されているということはできず、また、引用した各本文の加除、変更が原文の趣旨を歪めるものであることは既に述べたとおり(原判決理由四及び五)であつて、原著作者が容認すべき範囲を逸脱しているものと認められ、X1同盟を除く被控訴人らが有する著作物の同一性(完全性)保持権に対する侵害は明らかである。以上と異なる鑑定人米川猛郎、同梅原一雄の鑑定の結果及び証人梅原一雄の証言並びに控訴人らの所論はいずれも採用できない。

3  控訴人らは、被控訴人X2、同X3、同X4の名誉を毀損していない旨主張するが、同被控訴人らに対し名誉毀損の成立することは、X2につき原判決三七丁裏六行目「なんらかの陰謀団体」を「日本共産党の青年行動組織」に改め、X3につき同三九丁裏二行目の「さらに」から七行目の「と摘示して、」まで及び同一〇行目の「、同党の」から一一行目の「活動をし」までを削除し、X4につき同四一丁表二行目の「民青の告白では、」の次に「原文中の父親を説得して激励された部分、会社側が要求を受容れた部分、仲間の励ましを受けた部分を削除し」と挿入するほかは、原判決説示のとおりであつて、所論のように、原文の文意を歪曲するものではなく、あるいは公正な批判であり事実の摘示にすぎないということはできず、控訴人らの主張は採用できない。

4  次に、控訴人らは、被控訴人X1同盟の名誉を毀損していない旨主張するので、これにつき判断する。

<証拠>によれば、「民青の告白」は、第一から第六までの節に分けられているが、その第一から第四までの部分に、被控訴人X1同盟に無断で、原判決別表(一)下段掲記の二七篇の手記等が、そのまま、または一部削除もしくは変更して収録、復製されていることは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、「民青の告白」においては、前記のように右手記等の一部に削除、変更を加え、右著作物の趣旨を歪め、これに対する「編者解説」を付して、被控訴人X1同盟は日本共産党に指導された同党の下部組織か青年行動隊であるかのように記述し、また、X1同盟員は、被控訴人X1同盟の指導と強制の下で、困難と悩みをかかえ、無理な活動を強いられている犠牲者であるような印象を読者に与える記述がなされていることが認められる。

しかし、<証拠>によれば、被控訴人X1同盟は、青年の生活と社会的地位の向上、民族的民主的文化の守護育成、スポーツ、レクリエーション活動、日本の独立・平和・民主・中立の実現を目的とするものであるが、その前身は大正一二年に創立された日本共産青年同盟及び戦後これを承継した日本民主青年団であつて、日本共産青年同盟以来の革命的伝統を受継ぎ、マルクス・レーニン主義を理論的基礎とする日本共産党のみちびきを受け、その綱領を学び、ともにたたかい、マルクス・レーニン主義を学び、これを実践する青年組織であること、被控訴人X1同盟の幹部及び同盟員の多数が日本共産党員であり、また、同盟員から同党員になつた者が多数あることなど、被控訴人X1同盟と日本共産党とが密接な関係にあることが認められる。

以上によつてみれば、「民青の告白」における、被控訴人X1同盟は日本共産党に指導された同党の下部組織か青年行動隊であるかの如き記述は、その表現に多少適切を欠くところがあるとしても、被控訴人X1同盟が社会一般から受けるべき評価すなわち社会的名誉を害するものということはできず、右記述がその名誉を毀損したとする被控訴人らの所論は採用できない。しかしながら、一般に、政治団体又はこれと密接な関係を有する団体に対し、これと異なる思想、政治理念を有する者が右団体の実態、運動方針等を批判することは、それが相当な資料に基づくものであるかぎり、言論の自由に属し、許されるべきものであり、このような場合にある程度強い表現がとられることも、常識的な範囲においては許されるものと解されるところではあるが、本件の「民青の告白」においては、前記のように被控訴人X1同盟の同盟員の手記の一部を改ざんして、原作の趣旨と異る印象を与えるものとし、これに基づき「編者解説」として被控訴人X1同盟の実態、運動方針等を論評し、右被控訴人が同盟員に対し社会の実情を無視した無理な活動を強制し、犠牲者をも出しているような記述をしていることは、作為を加えた資料に基づき被控訴人X1同盟を誹謗する不公正な論評であつて、右の記述は、同被控訴人の名誉を毀損したものというべく、これにつき控訴人らに少くとも過失があつたものとすべきは前認定の諸事情から明らかである。

5  控訴人らは、「民青の告白」の発行は社会公共のためのやむをえない行為であるから、被控訴人らに対する権利侵害があつても、違法性が阻却される旨主張するが、本件全証拠によるも、右発行につき正当防衛その他の違法性阻却事由に該当する事実の存在することを認めることができないから、右主張は採用できない。

五以上のとおり本件「民青の告白」の発行により被控訴人らはそれぞれその権利を侵害されたものであつて、控訴人らはこれにより被控訴人らのこうむつた損害を賠償すべきであるから、この点につき判断する。但し、被控訴人X1同盟に対する著作財産権侵害についての損害賠償についてはさきに(原判決理由三)認定したとおりである。

前記のとおり被控訴人X2、同X3、同X4はその著作物に対する同一性(完全性)保持権を侵害され、これと前記「編者解説」とによつてその人格及び名誉を害され、精神的苦痛をこうむつたものであるところ、前認定の事実からすると、これを慰謝するには、被控訴人X2、同X3に対しては控訴人らは各金一六万円を支払うとともに、右両被控訴人のために別紙一掲記の謝罪広告を同別紙記載の条件で被控訴人X1同盟発行の雑誌「青年運動」に一回掲載するのが相当であり、被控訴人X4に対しては控訴人らは金七万円を支払うとともに、同被控訴人のために別紙二掲記の謝罪広告を同別紙記載の条件で被控訴人X1同盟発行の「民主青年新聞」に一回掲載するのが相当と認められる。また、被控訴人X5、同X6、同X7は前記のとおりその著作物に対する同一性(完全性)保持権を侵害され、精神的苦痛をこうむつたものであるところ、これを慰謝するには、控訴人らは被控訴人X5に対し金六万円、同X6、X7に対しては金三万円を支払うのが相当であるが、右侵害の程度からみて謝罪広告は必要がないものと認める。被控訴人X1同盟は前記のとおり名誉を毀損され、無形の損害をこうむつたものであるところ、これを回復させるには控訴人らは金三〇万円を支払うのを相当と認めるが、右名誉毀損の程度、態様からみて、謝罪広告についてはその必要はないものと認める。

六被控訴人の主張する弁護士報酬相当の損害については、被控訴人X1同盟については金一〇万円、その余の被控訴人については金二万円が相当と認められ、その理由は原判決理由六と同じであるからこれを引用する。

(結論)

以上の次第であつて、控訴人らは、連帯して、(一)著作財産権侵害の損害賠償として被控訴人X1同盟に対し金一六万一、二〇五万円、(二)著作者人格権侵害及び名誉毀損の損害賠償として、被控訴人X2、同X3に対し各金一六万円、同X4に対し金七万円、(三)著作者人格権侵害の損害賠償として、同X5に対し金六万円、同X6、同X7に対し各金三万円、(四)名誉毀損の損害賠償として、被控訴人X1同盟に対し金三〇万円、(五)以上の金員の遅延損害金として、被控訴人X1同盟に対し金四六万一、二〇五円、同X2、同X3に対し各金一六万円、同X4に対し金七万円、同X5に対し金六万円、同X6、同X7に対し各金三万円、の各金員に対する不法行為の日である昭和四二年一二月一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による金員、(六)弁護士費用の損害賠償として、被控訴人X1同盟に対し金一〇万円、その余の被控訴人らに対し各金二万円、及びこれらの金員に対する本判決確定の日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、の各支払をする義務、並びに(七)被控訴人X2、同X3に対し別紙一の著作者人格権侵害及び名誉毀損の、同X4に対し別紙二の著作者人格権侵害及び名誉毀損の、各謝罪広告をする義務があり、被控訴人らの本訴請求は右の限度で理由があるから認容し、その余の部分は理由がないから棄却すべきところ、これと異なる原判決は変更を免かれず、本件控訴及び附帯控訴は一部理由がある。

次に、控訴人らの民訴法一九八条二項に基づく申立につき判断するに、<証拠>によれば、被控訴人らが昭和四七年一〇月一六日原判決の仮執行宣言に基づき控訴会社に対し強制執行をしたこと、そのため、控訴会社は同日右執行を免かれるべく、被控訴人X1同盟に対し金四六万一、二〇五円、同X2、同X3に対し各金一七万円、同X4に対し金八万円、同X5に対し金七万円、同X6、同X7に対し各金四万円、及びこれら金員に対する昭和四二年一二月一日から昭和四七年一〇月一六日までの年五分の割合による金員、の原判決主文一項認容の金員を支払つたことが認められる(控訴人Y2の支払は認められない。)が、原判決は前記のとおり変更され、控訴会社の支払つた右金額をこえる金額の支払を命ずるものであるから、控訴人らの右請求はいずれも理由がなく、棄却することとする。

よつて、民訴法三八六条、九六条、八九条、九二条、九三条、一九六条に従い、主文のとおり判決する。

(外山四郎 清水次郎 鬼頭季郎)

別紙一、二<省略>

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