大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和48年(ネ)754号 判決 1974年11月27日

昭和四八年(ネ)第七五四号事件控訴人

同年(ネ)第九六〇号事件被控訴人

第一審原告

久保田又夫

昭和四八年(ネ)第七五四号事件被控訴人

同年(ネ)第九六〇号事件控訴人

第一審被告

伊勢崎高圧コンクリート企業組合

昭和四八年(ネ)第九六〇号事件被控訴人

第一審原告

松村節夫

昭和四八年(ネ)第九六〇号事件被控訴人

第一審原告

高柳繁雄

主文

一、第一審原告久保田又夫の本件控訴に基き、原判決中第一審原告久保田と第一審被告組合とに関する第一審原告久保田の敗訴部分を取り消す。

二、第一審被告組合は第一審原告久保田又夫に対し金一、二四六万九、四六〇円、並びに右金員に対する昭和四四年七月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三、第一審被告組合の本件控訴を棄却する。

四、昭和四八年(ネ)第七五四号事件について、第一審原告久保田又夫と第一審被告組合との間に生じた訴訟費用は、第一、二審とも第一審被告組合の負担とし、昭和四八年(ネ)第九六〇号事件について、控訴費用は第一審被告組合の負担とする。

五、この判決は、第二項に限り仮りに執行することができる。

六、この判決は第一審被告組合において第一審原告久保田に対し金四〇〇万円の担保を供するときは前項の仮執行を免れることができる。

事実

第一審原告久保田又夫(以下単に第一審原告久保田という)訴訟代理人は、昭和四八年(ネ)第七五四号事件につき「原判決中第一審原告久保田の敗訴部分を取り消す。(当審において請求を減縮し)第一審被告組合は第一審原告久保田に対し金一、二四六万九、四六〇円及びこれに対する昭和四四年七月一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告組合の負担とする。」との判決を求め、昭和四八年(ネ)第九六〇号事件につき、控訴棄却の判決を求めた。

第一審被告組合訴訟代理人は、昭和四八年(ネ)第七五四号事件につき、控訴棄却の判決を求め、昭和四八年(ネ)第九六〇号事件につき「原判決中、第一審被告組合の敗訴の部分を取り消す。第一審原告らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審原告らの負担とする。」との判決を求めた。

第一審原告松村節夫、同高柳繁雄両名訴訟代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠関係は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

第一審被告組合訴訟代理人は次のとおり述べた。

一、第一審被告組合の資産及び負債が、土地の評価および以下に付加するところを除き、第一審原告ら主張の原判決添付別表一の一、二のとおりであること、原判決末尾添付の第二、第三目録記載(ただし、第三の(二)記載の土地を除く)の土地につき、第一審被告組合名義で、条件付所有権移転の仮登記がなされていることは認める。

二、なお、出資持分払戻についての算定は、第一審被告組合の定款一九条の規定により第一審被告組合の事業の継続を前提とする会計原則により帳簿価額によるべきであつて、この算定に当つては土地の再評価は許されないものである。その額は結局原判決末尾添付別表一の一ないし三の括弧内の数字で計算したとおり(ただし、持分価額については金一、〇〇〇円未満切捨。)である。

三、協同組合の組合員が組合から脱退した場合、払戻持分の基礎となる組合財産の評価が、かりに帳簿価額でなく客観的価額によるとしても、組合と脱退組合員との間の財産関係の整理のため行なわれるものであれば、組合の負債の算定についても組合と脱退組合員との財産関係の整理として算定さるべきである。

第一審被告組合の昭和四四年三月三一日(以下当期末という)現在の負債は原判決末尾添付別表一の二に記載されたとおり金一億二〇二〇万〇四五九円であるが、これらの負債は顕在化されている負債であり、第一審被告組合はなお、当期末までに生じた事由により将来組合解散時までに具体化して支払うべき債務を負担しているのである。このいわば潜在的負債を持分払戻に際し負債として算入しないと、この潜在的負債は解散時に残存する組合員のみが負担することとなり均衡を失する。

(一)  即ちまず、退職金および退職慰労金は、通常勤続年数に応じて算出されるべき性算の負債である。しかして当期末の第一審被告組合の役員および従業員は、組合の解散時までに必ず退職するものであり、その退職時には当然当期末までの勤続年数を含んだ全勤続年数に応じて退職金が支払われるのであるから、当期末現在の各役員及び従業員についての当期末現在で算出した退職金および退職慰労金相当額は、第一審被告組合の当期末現在における未計上の潜在的負債である。

第一審被告組合には当期末で七一名の従業員と七名の役員が居り、この従業員及び役員に対する退職金は、通常退職時の月額給料に本判決末尾添付別表四記載の支給率を乗じた同記載の金額であつて、その金額は同表記載のとおり合計金二、七三六万三、五一二円である。

(二)  つぎに清算所得に対する公租公課は、第一審被告組合が解散したときに組合に課せられる公租公課であるが、その課税所得は組合資産の処分による処分価格と帳簿価格の間に生じた差益が中心となるものである。即ち組合の清算時における残余財産の価額から資本(出資金)等の金額と利益積立金との合計額を控除した金額を清算所得として課税対象とするものであり(法人税法九三条一項)、組合資産の売却益即ち、処分価額から帳簿価額を控除した差益が中心となるものである。しかして第一審被告組合が支払うべき解散時における清算所得に対する公租公課は、当期末における同組合資産の値上りによる利益を含む解散時の残余財産の価額から、資本等の金額と利益積立金との合計額を控除した金額に対して課せられるものであり、当期末で算出した清算所得に対する公租公課相当額は、当期末における未計上の潜在的負債であり、脱退組合員と組合員との財産関係の整理としては、この潜在的負債も組合の負債として算入さるべきである。このような公租公課相当額は合計金一、七五八万八、三一〇円で、その内訳は次のとおりである。

(イ)  法人税相当額 金一、一二三万八、六〇〇円

即ち原判決末尾添付別表一の四記載の原判決認定の正味資産額金九、一三六万四、九五五円が正当としても、右金額から前記退職金二、七三六万三、五一二円を控除した残余財産額六、四〇〇万一、四四三円から出資金二〇〇万円及び利益積立金である利益準備金二〇〇万円、別途積立金一、六〇〇万円の納税引当金五一九万一、六八〇円、繰越利益剰余金一三四万七、六三六円の合計額を差引いた残額金三、七四六万二、一二七円の清算所得相当額に三〇%の税率により算出した金一、一二三万八、六〇〇円

(ロ)  事業税相当額 金四四九万五、四〇〇円

右清算所得相当額三、七四六万二、一二七円に対する二一%の税率による事業税相当額

(ハ)  県民税相当額 金六五万一、八〇四円

右法人税相当額金一、一二三万八、六〇〇円に対する五・八%の率による県民税相当額

(ニ)  市民税相当額 金一二〇万二、四六六円

右法人税相当額一、一二三万八、六〇〇円に対する一〇・七%の率による市民税相当額

以上の全額を、かりに原判決認定の組合の純資産額九、一三六万四、九五五円を正当としてもこれから、役員賞与金三〇〇万円、配当金二〇万円などとともに控除した残額は金四、三二一万三、一三三円となるからこの残額を出資持分総数二、〇〇〇口で除すると持分一口当りの払戻金は二万一、六〇六円となる。然るときは第一審原告久保田の持分三二四口の払戻金額は金七〇〇万〇、三四四円、第一審原告松村の持分二一六口の払戻金額は金四六六万六、八九六円、第一審原告高柳の持分一七九口の払戻金額は金三八六万七、四七四円となり、第一審原告久保田に対しては金四九一万八、七〇〇円の反対債権をもつて相殺したので、同人の残債権は金二〇八万一、六四四円となる。

四、第一審被告組合が第一審原告久保田に対し相殺の自働債権として主張している不当運賃表原判決末尾添付の別表二の一最下段四月一四日から同表二の二 一七段目同月三一日分までは、いずれも五月分として訂正する。

五、第一審原告久保田の再抗弁の主張は争う。第一審被告組合の理事会は合議体であり、その存在は法律上の必須要件である。したがつて、その決議は招集手続を経た合議体として決議が必要であつて、第一審原告久保田と第一審被告組合との間には、このような意味の承認決議は存在しない。

六、第一審原告久保田の時効の主張について、自働債権と受働債権が相殺適状にあるときは、そのいずれかがその後時効期間を経過してもその相殺の主張は認められる。第一審原告久保田の組合脱退の効力は昭和四四年三月三一日生じたから、この時点で受働債権である第一審原告久保田の持分払戻請求権は具体化し、その時に第一審被告組合主張の自働債権と相殺適状にあつたものであるから、その後自働債権である第一審被告組合の不当利得返還請求権について時効期間が満了したとしても、相殺は認められるべきである。

第一審原告三名訴訟代理人は第一審原告三名の主張として次のとおり述べた。

一、第一審被告組合の資産及び負債は、原判決末尾添付別表一の一及び二、出資持分価額は同表一の三(ただし括弧内の数字を除く)のとおりである。

二、第一審被告組合の役員従業員の退職金及び退職慰労金に関する計算関係が、第一審被告組合の主張するとおりであることは争わない。

三、第一審被告組合は組合の潜在的負債として当期末における従業員及び役員の退職金及び退職慰労金、清算所得に対する公租公課の控除を主張するけれども、出資持分払戻の清算は、組合の存続を前提としてなされるものであるから、将来解散した場合に発生する従業員に対する退職金、理事等に対する退職慰労金、組合の清算所得に対して課される法人税その他公租公課を本件において算入すべきでないことは言うまでもない。

第一審原告久保田訴訟代理人は次のとおり述べた。

一、第一審原告久保田の払戻請求権のうち、請求の趣旨記載の金額を請求する。

二、第一審被告組合主張の運賃表の訂正箇所がその主張のとおりの月分であることは認める。

三、第一審原告久保田と第一審被告組合との間の砂、砂利、砕石等の運搬契約は昭和三四年一月頃、同組合の理事会において正式に承認決議されている。

右取引は第一審被告組合の理事全員が第一審原告久保田に頼み込んだ結果第一審原告久保田がこれを承諾したものであるので、形式的に理事会が開かれなかつたとしても、実質的には理事会の決議があつたと同一に看做すべきである。

(証拠関係省略)

理由

一、第一審原告らが第一審被告組合に対する組合員の脱退による持分払戻請求権を有すること、および右持分の価額の算定については、当裁判所は原判決と同様に、判断するものであつてその理由は、次のとおり付加するほか原判決一四枚目表二行目から一七枚目裏一〇行目までの説示と同一であるから、ここにこれを引用する。

原判決一五枚目裏八行目「別表」の前に「原判決末尾添付」を、同一〇行目「別紙」の前に「原判決末尾添付」を、同末行「組合所有であること」の次に「及び同目録記載第二、三の各土地(ただし第三の(二)を除く)につき第一審被告組合名義に条件付所有権移転の仮登記のなされていること」を、同一六枚目表一行目「鑑定」の前に「原審」をそれぞれ付加する。

二、第一審被告組合代理人は、組合資産の評価にあたつては帳簿価額によるべく、土地の再評価は許されないとして、その評価は別表一の一および三の括弧内の数字のとおり評価すべき旨主張するけれども、当裁判所は前述のとおり、組合員の脱退による持分の払戻は、いわば組合の一部清算ともいうべき性質を持つものであるから、その価額は真実の客観的な価額によつて算定すべきものと解するものであつて、右第一審被告組合の主張は採用できない。

三、つぎに第一審被告組合代理人は、組合財産の評価にあたり組合と脱退組合員との間の財産関係の整理のため行なわれるものであれば、組合の潜在的負債についても負債として算入すべきであるとし、その算入すべき潜在的負債として、(1)当期末現在における第一審被告組合の役員および従業員の当期末現在の退職金および退職慰労金相当額(2)第一審被告組合が当期末で算出した、清算所得に対する公租公課相当額を主張するので判断すると、(1)の当期末における従業員および役員の退職金ならびに慰労金が第一審被告組合主張のとおりの額になることについては当事者間に争がなく、当審証人高橋邦夫の証言によれば、(2)の企業組合解散の場合の事業税、県民税、市民税の税率が第一審被告組合主張のとおりであることが認められるけれども、右(1)の退職金および退職慰労金ならびに(2)の解散の場合の諸税は、いずれも企業が解散により事業活動を停止し、すべての積極財産を換価し消極財産全部の清算を行なうときに始めて債務として具体化するものであると解せられる。然るに、協同組合の組合員脱退の場合、組合財産の評価にあたつては、前叙のように協同組合として事業の存続を前提としてなるべく有利にこれを一括譲渡する場合の価額を標準とすべきものである以上、組合の全面的な清算の場合と同列に、将来取得を予想される財産や発生を予想される債務のすべてを評価し、あたかも当期に実在する積極資産もしくは負債の如くに資産に算入すべきものとは解し得ない。よつて、この点に関する第一審被告組合の主張も採用し難い。

四、つぎに第一審被告組合は第一審原告久保田が第一審被告組合設立当初からしてきた砂利等運搬取引につき同組合から不当に高額な運賃を受領しているが、これは不当利得となるので、これと同原告の持分払戻請求額とを対当額で相殺する旨主張するので、この点について判断する。

(一)  第一審原告久保田と第一審被告組合が同組合設立当初から砂利砕石等の運搬取引を行なつていたこと、その取引経過については原判決末尾添付別表二の一ないし一三六(ただし同表二の一のうち昭和三六年五月一二日付項以後の項の同年四月一四日ないし三一日付各項目はいずれも同年五月一四日ないし三一日の誤記であることは当事者間に争いがない。)の年月日欄記載の日時に、同請求数量欄記載の請求数量について、同請求運賃欄記載のとおりの運賃を第一審原告久保田が第一審被告組合に請求したことは当事者間に争いがなく、右取引の経緯を月毎に整理し、その総計を求めると原判決末尾添付別表三の一ないし三のとおりとなる。

(二)  ところで、第一審被告組合は、第一審原告久保田は第一審被告組合の理事であるから、理事と組合との間の取引につき理事会の承認を受くべきところ、第一審原告久保田は第一審被告組合との取引につき同組合の理事会の承認を得ていないから右取引は無効であると主張するので判断すると、第一審原告久保田が右取引の期間中、第一審被告組合の理事であつたことは当事者間に争いがなく、成立について争いのない甲第一号証(乙第一号証に同じ)当審証人板垣岩吉、原審証人林満の各証言原審における第一審被告組合代表者小此木茂雄および当審における同組合代表者小此木実(昭和四八年三月二二日就任)各尋問の結果の各一部、原審および当審における第一審原告久保田本人尋問の結果の一部を総合すると、第一審被告組合は昭和三三年一二月六日設立され、コンクリート半製品の製造販売及び加工並びにこれらに附帯する事業を目的とし、昭和三四年二月から操業を開始し、砂利、砂等を材料として当初はタイルを、昭和三五年三月頃からはヒユーム管を製造していること、第一審被告組合は設立当時不況になつていた繊物業者らが経済再建のため集まつて始めたもので、組合の設立後毎日のように理事全員が組合事務所に集まつて組合の事業の遂行について協議し、繊物業者であつた代表理事の小此木茂雄が主として金融面を担当し、運送業者であつた第一審原告久保田が生産経理等の業務を担当し、生産に必要な原料である砂利、砂等の運搬は全面的に第一審原告久保田に委せることを全員が諒解して操業が開始されたこと、を認めることができる。右事実によれば、右取引については、第一審被告組合の事業開始当初の理事会において承認したものと認めざるを得ない。もつとも、前掲原審および当審における第一審被告組合各代表者尋問の結果、ならびに原審における第一審原告久保田本人尋問の結果中には第一審原告久保田と第一審被告組合との右取引について第一審被告組合の理事会の承認を得ていない旨の供述部分があり、また、第一審被告組合の定款(甲第一号証)によると、理事会の招集は理事長が会日七日前までに日時および場所を各理事に通知してなすべく(三六条一項、三七条本文)、議事の結果は議事録に記載される(四〇条)ことが定められているところ、第一審原告久保田との右取引について右取引の承認を付議するための適式の理事会の招集手続がとられたこと、および取締役会において右取引を承認し、これを組合議事録に記録したことを認めることのできる証拠はない。しかしながら、右取引は第一審被告組合の事業開始後長期にわたつて継続的に行なわれたことは前記認定のとおりであり、前掲各証拠によると、右取引については事業開始後二年を除き前記第一審原告久保田の請求どおりすべて代表理事から支払がなされたこと、右取引期間中の第一審被告組合の各期末定時総会において、第一審被告組合の組合員全員は右取引を知りながら異議を述べなかつたこと、しかも第一審原告久保田の運搬した砂利等は第一審被告組合の事業遂行にとつて不可欠の原材料であつたことが認められ、右第一審原告久保田および第一審被告組合代表者の各供述は、右取引を承認した理事会につき適式の招集手続のなされなかつたことを意味するに過ぎないものと解されるので、前記認定を左右するに足りないものと判断される。さらにまた、前記定款第三七条但書によれば、理事の招集は理事全員の同意があるときは、招集の手続を省略することができる旨定めており、前記認定によればすくなくとも、組合設立当初は理事全員が所定の招集手続を省略することに同意していたものと推認することができるので、適式の招集手続の欠如をもつて理事会の開催の事実を否定することはできないし、また、事実上理事全員が集会して右取引を承認した以上、議事録の欠如をもつて、この理事会の承認を否定することも相当でない。なお、右各取引につき第一審原告久保田が、事前に月ごとあるいは年ごとの契約に理事会の承認を個別的に得ていたことについてはこれを認めることの証拠はないけれども、前記認定の継続的運搬契約の趣旨に照らし、かかる取引に対する理事会の承認はその取引開始の当初に概括的に爾後の継続的取引に対する承認をもつて足ると解される。よつて、右取引については第一審原告久保田は第一審被告の承認を受けていたものと判断される。

然るときは、第一審被告組合の、第一審原告久保田と第一審被告組合との間の砂利等の運搬契約を、理事会の承認を欠くゆえに無効であることを前提として第一審原告久保田に対し、不当利得返還請求権を有する旨の主張は理由がない。

(三)つぎに第一審被告組合の、第一審原告久保田の第一審被告組合に対する忠実義務の不履行に基づく損害賠償請求権の主張について判断すると、中小企業等協同組合の理事たる者は組合と委任および準委任の関係にあるから、組合に対して委任の本旨にしたがつて、善良なる管理者の注意をもつて業務を遂行し義務を負うことは中小企業等協同組合法三八条の二(前掲第一審被告組合の定款二四条もこのことを規定する)によつて認められる。このように組合の業務執行について善良なる管理者の注意義務を負担する理事が、組合の業務執行にあたつて、組合に損害を蒙らしたとすれば、組合に対してその賠償責任を生ずる場合もあると考えられる。しかしながら、前記認定した事実によると、第一審原告久保田は第一審被告組合の理事の資格を有すると同時にまた、理事会の承認を得て第一審被告組合と砂利等の運搬契約を締結した運送業者であり、本件取引は、第一審原告久保田が運送業者として第一審被告組合との間に締結した契約に基づいて継続的に砂利等の運搬を行ない、その運賃を請求し、かつ、その支払を受けたものと認められ、第一審被告組合の理事の資格において、組合の業務の執行としてこれを行なつたものとは認め難い。然るときは、第一審被告組合との取引に基づき、同組合に対し第一審原告久保田のなした運賃請求に不当ないし不正なものがあつたとしても、それによつて、右取引についての不当利得返還もしくは不法行為責任の生ずるは格別、運送業者としての不当運賃の請求が、ただちに理事としての善管注意義務違反になるものとは解し得ない。然るときは第一審被告組合の、第一審原告久保田に対し、債務不履行に基づく損害賠償請求権を有する旨の主張も理由がない。

(四) 以上のとおり、第一審被告組合が第一審原告久保田に対し、その主張の自働債権を有するものとは認められない以上、第一審被告組合の相殺の抗弁は理由がない。

五、然るときは、第一審被告組合は、第一審原告らの同組合脱退による出資持分払戻請求権に基づき、第一審久保田に対し、一、二四六万九、四六〇円、第一審原告松村節夫に対し金八三一万二、九七〇円、第一審原告高柳繁雄に対し金六八八万八、九九〇円、並びに右各金員に対する遅延損害金のうち、本訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかである昭和四四年七月一日から右各金員支払ずみに至るまで、それぞれ民法所定年五分の割合による金員を支払う義務があるものと判断される。

以上の次第であるから、第一審原告久保田の請求、第一審原告松村及び第一審原告高柳の各請求につき前記認定の各部分は理由があるからこれを認容すべく、その余は理由がないからこれを棄却すべきである。

よつて、第一審原告久保田の請求について、右と判断を異にして請求の一部を棄却した原判決は不当であるから、第一審原告久保田の控訴に基づき同原告の敗訴部分を取り消して、その請求を認容すべく、その余の第一審原告の請求につき右と同旨の原判決は相当で、結局、第一審被告組合の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、民事訴訟法第三八四条、第三八六条、第八九条、第九五条、第九六条、仮執行の宣言につき第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(別表四)

退職金等計算表

昭和44.3末現在

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

1.月16日以上は勤続月数は1ヶ月とする。

2.2年以上の勤続者で、1年に満たない端数の月数に対する支給率は、当該年数と次の年との支給率の差を月割する。

3.支給率

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例