東京高等裁判所 昭和48年(ネ)94号 判決 1973年9月27日
控訴人 塩沢孝平
右訴訟代理人弁護士 勝山国太郎
被控訴人 川島哲一
主文
原判決を取消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。被控訴人は当審における口頭弁論期日に出頭しない。
当事者双方の事実上、法律上の陳述、証拠の提出、援用、認否は、次に記載するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。
(控訴人の陳述)
一、控訴人が原審で被控訴人の主張する請求原因事実を認めたのは、真実に反し、かつ、錯誤に基づくものであるから、これを撤回し、次のとおり答弁する。
(一) 請求原因第一項の事実は不知。
(二) 同第二項の事実は否認。
(三) 同第三項の事実は認める。
二、右の錯誤は次の事実によるものである。即ち、裁判所からこの種事件は早期に当事者間で話合い、示談をするよう勧告されたこと、主債務者たる訴外(一審相被告)尾田美鶴が、責任をもって今後は完済を確約すると表明したこと等が相まって、控訴人としてはなんら主債務関係の存否すら知らず、もとより連帯保証をした事実もなかったが、右尾田の言を信用すれば早期に本件訴訟の法廷に出頭する煩わしさから脱却できるものと誤解し、特に反対意見を述べなかったために認めたように扱われたのに他ならない。その後、訴訟手続は控訴人を除いて同訴外人が出廷して解決するものとばかり思っていたところ、控訴人の敗訴判決の送達を受けるに及んで驚いたのである。
(証拠関係)≪省略≫
理由
控訴人が原審でした自白を撤回する旨主張するので、この点を判断する。
当審における控訴本人尋問の結果および弁論の全趣旨によれば、次のように認められる。
控訴人は、訴外(原審相被告)尾田美鶴とも被控訴人とも昭和四五年頃からの知り合いであるが、尾田が被控訴人から借金をした事実は知らないし、いわんや自らその保証人となった事実もなかったところ、突然、原裁判所から本件について呼出しを受け、昭和四六年一〇月一二日の第一回口頭弁論期日に尾田と共に出頭し、法廷で裁判室より本訴の請求原因事実の認否を求められ、尾田は、請求原因事実をすべて認め、借金は分割して支払う積りである旨答えたが、一方、控訴人は、法廷に出頭したことは初めてであったために動揺し、保証した事実はないと答弁した積りであったが、はっきりと述べず、かえって尾田において責任をもって処理して呉れるものと信じて、自白したともとれるような陳述をしたため、尾田と同様自白したものとして扱われた。
以上の事実を認めることができこれを覆すに足りる証拠はない。
以上ような事実と、記録上明らかなように、被控訴人は、控訴人の当審における主張を明らかにした準備書面の送達を受け、かつ当裁判所が控訴人の尋問を嘱託した静岡地方裁判所における証拠調期日に出頭して、控訴人本人の供述を聴取しておりながら、その後の当審口頭弁論期日にも出頭しないで、自白の撤回に異議を述べず、またこのことの許されないゆえんについての反証を提出する等の訴訟上適切な措置に出ていないことを併せ考えれば、控訴人の原審における自白は、真実に反し、かつ、錯誤に基づくものとして撤回が許されるものと解すべきである。
そうであるとすれば、被控訴人の本訴請求は、これを認めるに足りる証拠がないので、失当というほかはない。よって、本件控訴は理由があるので、原判決を取消し、被控訴人の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用のうえ、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中西彦二郎 裁判官 小木曽競 深田源次)