東京高等裁判所 昭和48年(行ケ)106号 判決
一、本願各発明と引用例との構成上の差異について
成立に争いのない甲第二号証(本願明細書)、同第三号証(手続補正書)、乙第一号証の一・二・三(本願各発明の優先権証明書)、甲第四号証(引用例)によつて、本願各発明と引用例との、逆洗の過程を経たのちの濾過床の定常的配置およびその形成方法について対比検討すると、つぎのように認められる。
(一)、粒子の粒径と比重との逆比例関係について
まず本願各発明についてみると、特許請求の範囲には「粒子の相対的粒径が粒子の比重にほぼ逆比例する関係にあり」と記載されているが、数値的限定はない。発明の詳細な説明にも「比重毎に粒子はそれぞれ限定された粒径範囲にあつて、その相対的粒径範囲が粒子の比重に逆比例し」「若し選んだ粒子が、例えば、比較的低比重の物質の比較的大きな粒子、及びその中間比重の物質の中間大きさの粒子からなるものであるとすると」あるだけであつて数値的に限定した記載はない。また各実施例をみても、異なる比重の粒子につき、その粒径がそれぞれ相当範囲の幅をもつて分布しており、またその粒径範囲の平均値をとつてみても、いずれにしても粒径と比重との間に数学的逆比例の関係はみられない。そうしてみると、本願各発明における粒子の粒径と比重とのほぼ逆比例関係とは、結局、数学的な逆比例ではなく、たかだか逆に変化していることを意味するに過ぎないものといえる。
ところで引用例においても粒子の粒径(大きさ)と比重とが逆に変化していることは当事者間に争いのないところである。したがつて濾過床形成の前提となる粒子の粒径と比重との関係において本願各発明と引用例との間には差異はないといわねばならない。
(二)、粒子の連続的増加について
1. 本願各発明についてみると、特許請求の範囲には「水の流れる方向に単位断面積あたりの粒子が連続的に増加している」とある。そして、これに関する発明の詳細な説明として、従来の濾過機の例に砂または無煙炭のいずれか単独なものと砂と無煙炭との二重濾材からなるものを挙げてつぎのように記載している。「従来粒度の異なる物質を多層にした濾過機においては層を独立に保ち各層が混合しないように注意が払われている。これは濾材の混在が要求される本発明の濾過機とは正に対照的である。」「この混在というのは実際望み得べくもない粒子の均一混合ではなく、流れの方向に漸進的に床の単位容積あたりの粒子数が大きくなつているような混合である。このような粒子の傾斜は、濾材粒子の粒度と比重とを選定して容器に入れ濾過床を形成させた後粒子の分布がほぼ一定の配列をとるまで濾過床を逆洗することにより極めて容易に達成できる。若し選んだ粒子が、例えば、比較的低比重の物質の比較的大きな粒子、比較的高比重の物質の比較的小さな粒子、およびその中間比重の物質の中間大きさの粒子からなるものであるとすると、逆洗後の極く頂部は比較的大きな粒子の数が比較的大、中間粒子の数が小、さらに細かい粒子の数はさらに少くなる。濾床の中間部は中間大きさの粒子の数が支配的で、小さい方の粒子の数は頂部より多いがそれでも小さい方および大きい方の粒子の数は中間大きさの粒子の数より遥かに少いであろう。濾床底部では小さい方の粒子の数が支配的で、中間粒子は少く、大きい方の粒子はさらに少いであろう。」「任意特定の瞬間における正確な粒子分布は相対密度、粒径、粒子形状および逆洗速度に支配されることは明かである。」これらの記載からみると、定常の配列を得るための因子としてあげられるものは第一に逆洗と第二に各濾材粒子の大きさと比重が逆の関係に変化していることと、第三に粒子形状の三つである。また逆洗前頂部・中間部・底部の三層に配した三種類の各濾材粒子が逆洗後もそれぞれの部分に支配的な量で残存していることを示している。
そうして本願各発明における濾材粒子の連続的形成とは主として隣接した異なる比重粒径をもつ濾材粒子が混合によつて漸次多数の面を形成する意味であることは、当事者間に争いのないところである。
そうすると、粒子の連続的増加といつても、その内実は異種の粒子が全体としてみて層状配列していてその境界領域で混合して層間の遷移が形成されている状態、いいかえれば増加の勾配が比較的ゆるやかな領域と急な領域が連設形成されている状態といえよう。
しかも定常の配列を得るための因子としてあげられた三つの要件のうち粒子形状については特許請求の範囲に示されておらず、本願各発明の構成要件にふくまれないし、また濾材粒子の比重と粒径が逆に変化している点では引用例と同一であることは、さきに認定したとおりであるから、結局定常配列のための因子は構成要件からは引用例と共通するものということができる。したがつて、引用例が逆洗後層状になるものとすれば、本願各発明でも層状配列を形成する場合があるものと考えられ、これを排除する要件は構成要件としては認められない。
2. ところで引用例についてみると、クレームには「比重の異なる物質の層より構成され、該層は一方の層が他方の層の上に直接置かれ、かつ、最も重い物質がフイルターの出口に接して置かれていることを特徴とする」「該物質は一層の層が他方の層の上にあるように、重晶石が底部にあり、コークスがその頂部にあるように確然と層状に配列されていることを特徴とする」と記載されているので、この発明が各濾材粒子毎の層状形成を目的としていることは否めない。しかしながら、発明の説明をみると、「濾過床の洗浄中、その粒子は制限された程度にかきまぜられるが、しかしそのかきまぜの程度は各層の物質が相互にその適正な関係を失う程大きくはない。」「かくして、上記した物質の関係は、該床を洗浄する際に用いられる水の流入によつて起こされるかきまぜにもかかわらず、保持される。」と記載されている。したがつて層の間で粒子の混合が起らないのではなく、混合は起るけれども層状配列を崩す程度の混合ではない趣旨のものといえる。そして異種の濾材の比重と粒径とが逆に変化する関係について数値的限定がなく、濾材の形状についても要件とするところではないので、それらの数値如何によつては層の境界において粒子が混合してある程度連続した状態が形成されるものといえよう。
3. そうしてみると、本願各発明と引用例との間には、粒子の連続的増加という構成において大きな隔りがあるといい難いし、濾過床形成の因子としては構成要件として互いに共通するものといわざるを得ない。
二、本願各発明と引用例との作用効果の違いについて
甲第二号証によると、本願各発明の実施例としてあげられているものが示す効果は、その対比するものが、濾過床が二重濾材からなる構成のもので、各濾材粒子の比重と大きさとの逆比例といつたその他の条件を前提要件としないものに限られているので、異種濾材の三層からなる引用例のような構成のものとの対比の例とはなしがたい。
また成立に争いのない甲第五号証(ウオルター・アル・コンレイの宣誓口述書)を検討すると、本願明細書の実施例二(第二発明)によつて製作された濾過機とされるものの各濾材粒子の体積百分率は、そこに示された各物質の密度・粒径から計算してみると、粒子間空隙の大小を考慮しても、その写真として示された証拠Bの各層の高さからみられるその比率とかけ離れたものとなつていて符合しないし、またその証拠Bの濾過機を逆洗後撮影したものとされる証拠Cにおける濾過機がその下端の管接手状部分でBのものとくいちがつていて別個の濾過機と疑わせるものがある。また同口述書中には「私たちの発明は、単に、大きさと比重との間に逆関係を有し、逆洗で混ざり合わない粒子から成る濾過機ではありません。これとは反対に、私達の発明は、濾過材料の選択が、逆洗で粒子の混ざり合いを達成するようにあるべきこと」との記載があることから、その実験には本願各発明の構成要件外にわたる濾材粒子の材質・形状などの条件を加味している疑いがある。したがつて、本願各発明と引用例の各構成ないし実施例に忠実にしたがつて比較した実験結果とは直ちに認めがたく、その間の作用効果の差異を示す証拠とはし難い。
そうすると、前項認定のとおり引用例に比して実質的構成においてさしたる隔りがあるとは認めがたい本願各発明が、引用例に比してとりたてて顕著な作用効果があることを示す資料はないといわなければならない。
そして甲第二・三・四号証および弁論の全趣旨を総合すると、濾過床・濾過機の全体の大きさ、層の厚さの限定もないところから、本願各発明の目する作用効果も、その構成要件による効果として明かに把握できるところは、主として、逆洗の過程を前提とし、なおその上で水の流れる方向に単位断面積当りの粒子が増加している垂直型濾過床の配置(粒径では逆に小さくなる関係)が維持されて、不純物の大きさにしたがつて順次濾過されるところにあつて、引用例のそれとさしたる違いはないとするほかはない。
三、結論
以上のとおり、本願各発明が引用例から容易に推考することができたとする審決の判断に原告の主張するような違法のかどはなく、原告の本訴請求は失当として棄却するほかない。