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東京高等裁判所 昭和48年(行ケ)108号 判決 1974年3月28日

原告 小林喜代治

被告 埼玉県選挙管理委員会

主文

本件訴中原告が被告に対し金四万円の支払を求める部分を浦和簡易裁判所に移送する。

原告のその余の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

原告は、「被告が昭和四八年六月一二日付でした裁決を取消す。被告は、昭和四八年二月四日執行の埼玉県秩父郡荒川村長選挙の投票を再点検すべし。被告は原告に対し金四万円を支払うべし。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、被告は「本件訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二当事者の主張

(原告の主張及び被告の本案前の抗弁に対する答弁)

一  昭和四八年二月四日執行の埼玉県秩父郡荒川村長選挙(以下たんに本件選挙という。)につき原告が被告に対してした審査の申立に対する審理において、被告は投票の再点検を行わず、事情聴取のみで裁決したことは、憲法及び公職選挙法に違反するものであるから、本件裁決の取消を求めるとともに被告に対し投票数増減の事実を確認するため、荒川村役場に保管されている本件選挙の投票の再点検をすべきことを求める。

また原告の本件選挙における得票数は法定の数に達しているので、没収された供託金四万円の返還を求める。

二  本件訴が公職選挙法所定の出訴期間を徒過したものであるという被告の主張事実は認める。しかし原告はもともと右足の機能障害による身体障害者であるが、本件訴提起準備中昭和四八年六月二七日夜半、さらに左足首を捻挫したため、だるま同然となり、訴提起が遅延し、また原告居住地は弁護士払底のため、訴提起について代理人を依頼することができなかつたものであるから、原告には右出訴期間の徒過を宥恕されるべき正当な事由がある。

(被告の答弁)

一、本案前の答弁

(一) 本件訴は、出訴期間経過後の訴であり、不適法である。すなわち、本件は、昭和四八年二月四日執行の本件選挙に関する原告の審査の申立に対し、被告が同年六月一三日付でした裁決を不服とし同年八月二五日付で訴を提記したものであるから、被告は原告に対し同年六月一三日に本件裁決書を交付しており、かつ公職選挙法第二一五条の規定により裁決書の要旨を六月一二日付埼玉県報に告示した。

ところで、地方公共団体の議会の議員及び長の選挙の効力又は当選の効力に関する訴訟の出訴期間は、公職選挙法第二〇三条第一項、同第二〇七条第一項により決定書若しくは裁決書の交付を受けた日又は同法第二一五条の規定による決定書、裁決書の要望の告示の日から三〇日以内とされている。この規定は強行規定であり、行政事件訴訟法に対する特別の定である。したがつて、同法第二一九条の規定に拘らず選挙訴訟には行政事件訴訟法第一四条の規定は準用されないと解すべきであり、期間を経過した訴は民事訴訟法第一五八条第二項及び同法第一五九条の適用の余地はなく宥恕できないものである。

よつて、原告の本件訴は、右出訴期間を徒過した同年九月四日に受理されているから不適法であり、却下されるべきものである。

(二) 原告は本件訴において、本件選挙の投票数の再点検を求めているが、右請求は公職選挙法第一五章所定の選挙訴訟ないし当選訴訟の対象となるものでなく、その他法律中に右のごとき訴を認めたものはないから、原告の請求は不適法であつて却下されるべきものである。

二、原告の主張に対する答弁

原告の請求原因はいずれも争う。

理由

一、本件記録によれば、原告は訴外荒川村選挙管理委員会に対し異議の申出をしたところ、同委員会は原告の異議の申出の趣旨を相手方候補者新井博治の当選の効力に関する不服申立と判断した上で申出棄却の決定をしたのに対し、被告は右決定に対する原告の審査の申立の趣旨について、本件選挙の効力に関し不服を申立てているものと思料した上で申立棄却の裁決をしていることが認められる。当裁判所も原告の請求原因を総合的に判断した結果原告の右請求は本件選挙の効力に関し不服を申立てているものであり、従つて右裁決の取消を求める本件訴の出訴期間については公職選挙法第二〇三条の規定を適用すべきものであるところ、本件訴のうち原告の審査の申立てに対し被告が昭和四八年六月一二日付でした裁決の取消を求める部分が同法所定の出訴期間経過後のものであることについては記録上明らかであり、原告もこれを認めて争わないところである。ところで同条は行政事件訴訟法第四三条第一四条の規定と異なつた出訴期間を規定しながらその期間を不変期間とする旨の規定を置いていない。したがつて、右期間は不変期間ではなく、民事訴訟法第一五八条第二項及び第一五九条の適用は排除され、出訴期間徒過後の訴については宥怒の余地がないものと解せざるを得ない(もつとも公職選挙法第二一九条は選挙関係訴訟が行政事件訴訟法にいう民衆訴訟であることを当然の前提としつつ行政事件訴訟法第四三条によつて本来準用されるべき同法取消訴訟に関する規定のうち一定のものについてはその準用をしない旨を定めているところ、同法第一四条についてはその制約を規定していないから、同条については出訴期間を定めた第一項のみが別段の定めあることとなり、出訴期間が不変期間であることを定めた第二項は選挙関係訴訟の出訴期間についても準用されるべきものとの解釈も可能である如くである。しかし他の法律において特別の出訴期間を定め、それを不変期間とする場合には、その旨明文の規定を置くのが例であるところからすれば、選挙関係訴訟にその規定を缺くことは選挙関係訴訟の性質にかんがみこれを不変期間としないとしたのが立法の趣旨であるというべく、行政事件訴訟法第一四条第二項の準用があるとする解釈は採用し得ない)。よつて原告のこの点に関する主張は主張自体失当というべく、本件中裁決の取消を求める請求は不適法であるから、却下しなければならない。

二、次に原告は本件選挙の投票数の再点検を求めているが、右請求は原告の請求原因を勘案すれば、要するに本件訴の対象たる被告の裁決において被告がその裁決手続中にこれをしなかつたことを指摘するに止まるものというべきであつて、一個独立の請求というべきではないと解せられる。従つて右請求を訴訟上一個の請求として本件主たる請求に併合し得るか否につき判断するまでもなく、なんらの裁判をもすべき要はない。

三、次に原告は供託金の返還を求めているところ、これもまた主たる請求に含まれるものと解する余地もないではないが、その主張にかんがみれば供託金没収の理由のないことを前提としてその返還を求めるものであつて、結局金銭の支払を求める通常訴訟というべきであり、その右請求の当否はともかく右訴については当裁判所にその管轄がないこと明白であるから、これを管轄裁判所である浦和簡易裁判所に移送すべきものである。

四、よつて、本件訴中被告のした裁決の取消を求める部分を却下し、供託金四万円の返還を求める請求を管轄裁判所に移送し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 浅沼武 加藤宏 園部逸夫)

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