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東京高等裁判所 昭和48年(行ケ)14号 判決

事実及び理由

一  請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、審決を取消すべき事由の存否について判断する。

1  本件考案の構成とその特徴について

成立に争いのない甲第四号証(本件考案の実用新案公報)によれば、本件考案は、「表面層が核心層より美しいかつ薄い小木片からなつていて、結合剤によつて加圧加熱の状態の下にプレスによつて結合される小木片からなる二枚の表面層及び一枚の核心層からなる表面強化繊維板に関するもの」であり(一頁右欄二二行ないし二六行)、「核心層が低比重で熱及び音響の高い不伝導性をもつ一方、表面層は比較的高い機械的強度を有し耐水性高く表面の平滑な板(一頁右欄下から二行ないし二頁左欄二行)を得ることを目的として、「登録請求の範囲」の記載のとおり、「核心層5は、小裂木片あるいは小砕木片7が各方面に不規則に集合配置されて相互の間に幾分の空隙8を残し、結合剤はその空隙を充満しないように小木片を相互に接着」する一方、「表面層6は、核心層5より薄い層をなし、幅広い鉋屑状の小削木片6が幅広い面が水平になるように水平方向に不規則に集合配置され核心層に比し高含有量の結合剤はその小木片を相互の間のみならず核心層に強く密着して耐水性の強い抗張力の大なる表面を有する」表面強化繊維板の構造にあるものと解される。そして、本件考案においては、第一引用例の「細長木片」のようにのちに指摘する如き切断の方向性をもたない小木片(核心層には小裂木片あるいは小砕木片、表面層には小削木片)を素材とし、これを、核心層においては各方向に不規則に集合配置し、しかも、表面層を核心層より薄く、かつ、幅広い鉋屑状の小削木片が幅広い面が水平になるように水平方向に不規則に集合配置され、その表面層に核心層に比して高含有量の結合剤を用いるという特定の構成としたことによつて、前記の如き核心層が低比重で熱及び音響の高い不伝導性をもつ一方で、表面層は比較的高い機械的強度を有し耐水性も高い平滑な人工木板を実現したところに、本件考案の特徴があるものと認められる。

2  第一引用例の木質板の素材と構成について

成立に争いのない甲第二号証(英国特許第四八〇一二九号明細書―第一引用例)によれば、第一引用例は、フエリクス・フオールの一九三六年一一月二〇日出願、わが国特許局陳列館昭和一三年七月受入に係る「家具建具用木質板及びその製法」に関する明細書であるが、第一引用例には、「従来の家具、建具用合板は、木材が均質でないためにそりやすい欠点がある。その木目の方向においては、木材は非常に大きな抵抗を有し、僅かに収縮するにすぎない。しかるに、幅の方向においては、僅かの強度を有するにすぎず、著しい収縮性を有している。」(一頁八行ないし一六行)、「従来の合板に代わるものとして、本件発明により、長さの割に幅及び厚さが非常に小さい木片のみを使用して、新しい木質板を作ることによつて、これらの欠点は除去することができる。この方法によつて、木質板の収縮は、極小にまで低減されるとともに、この木質板は木目に沿つて切断(Cut)された木片によつてほとんどすべてが形成される。さて、かかる素材が巧みに結合されると、木目に沿つて切断された木片の優れた性質により、木質板は大きな強度や変形に対する抵抗を賦与され、そりにくくなり、かつ、収縮しにくくなるであろう。」(一頁二六行ないし四二行)と記載され、更に、「この木質板は、……細長木片の三層から形成され……、内層の木片は両側の外層の木片より粗大であり、かつ、これらの細長木片は膠などの接着剤で潤し、形成すべき木質板の表面とほとんど平行にしてかつ互いに交差をなして重なり合うように配置され」(一頁四八行ないし五八行)あるいは「細長木片は、プレスの枠内に落下されて、落下の際に互いに交差して重なり合うようにされるが、同時に目的とする板面と大体平行になるようにされる。……細長木片が形成される木質板の表面とほとんど平行になつているために、この木質板は大きな強度をもつことになる。」(一頁六七行ないし八〇行)との記載が認められる。

右の記載から明らかな如く、第一引用例の木質板の素材は、木目に沿つて切断された細長木片であり、その切断の方向性が限定されてつくられた素材である点で、本件考案の小木片とは異なつたものというべきである。しかも、そのように切断の方向性が限定されてつくられた小木片が、木質板の表面とほとんど平行になるように配置堆積される(この点は、第一引用例の請求の範囲の記載にも明示されている。)ものと認められるから、この配置の仕方の点でも、核心層においては各方向に不規則に集合配置する本件考案の表面強化繊維板における構造と相違する。

ところで、原告は、本件考案と第一引用例の木板の表面層について、これに用いられる小木片の形状、大きさは同一ではない旨主張するので、まず、この点を検討する。

前記の如く、第一引用例の木質板に用いられる細長木片は、木目に沿つて切断してつくられた、切断の方向性が限定されたものではあるが、その形状、大きさについては、「長さの割に幅と厚さが非常に小さい木片」(一頁三〇行ないし三二行)であり、これらの細長木片のうち内層(本件考案の核心層)の木片は両側の外層(本件考案の表面層)の木片より粗大である(一頁五〇行、五一行)とされ、具体的には「外層には、例えば、長さ五〇mm、幅四mm、厚さ〇・五mmの細長木片」が使用され(一頁一〇五行、一〇六行)、また、「もし、木質板の表面を特に平滑にしなければならないときは、およそ長さ二五mm、幅三mm、厚さ〇・二mmの非常に薄い細長木片で板の表面を被覆することができる。」(二頁二一行ないし二四行)と記載されている。一方、本件考案に係る木板の表面層に用いられる素材については、前記のとおり、「登録請求の範囲」に「幅広い鉋屑状の小削木片」とのみ記載され、また、「実用新案の説明」の欄にも「表面層は、核心層より美しいかつ薄い小木片からなつている」(一頁右欄二二行、二三行)、「薄い鉋屑状の小削木片」(二頁左欄八行ないし九行)などと記載されているのみであり、「実用新案の説明」全体を精査しても、表面層に用いられる「幅広い鉋屑状の小削木片」の具体的な大きさを特定して理解しうる記載を見出すことができない。

しかしながら、本件考案の実施例1においては、核心層に用いる小木片の大きさに関して「長さ五~五〇mm、幅五~一〇mm、厚さ一~五mm程度」とする記載があるほか、「実用新案の説明」には、圧合したのちの製品における表面層の厚さが、一ないし高々二mmである旨記載されている(三頁左欄下から一二行)ことなどを勘案すると、第一引用例の木質板の外層(表面層)に用いられる細長木片と本件考案の表面層に用いられる「幅広い鉋屑状の小削木片」とは、その形状、大きさにおいては一致する場合のあることを否定することはできない。

次に、原告は、審決が第一引用例の木質板の表面層も本件考案と同じく核心層に比し高含有量の結合剤が用いられているとした判断が誤りである旨主張する。

前掲甲第二号証(第一引用例)によれば、第一引用例には、「より大なる細長木片は、その一定体積当りの面積が小さいため、木片接合用の接着剤が少なくてすむであろう。」(二頁一二行ないし一六行)との記載があるものの、第一引用例には、木質板を形成する両側の外層と内層との厚さの割合が明記されていないから、審決がいうように表面層には核心層に比し相対的に高含有量の接合剤が加えられていると断定することはできない。けだし、第一引用例の木質板において、外層より内層が厚ければ、用いられる結合剤の総量をみるとき、必ずしも外層の方が結合剤の含有量が多いと断言できないことは明白である。

しかも、第一引用例には、本件考案の表面層と核心層とにおける結合剤含有量の高低差に関する限定及びこれに基づく前認定の如き効果については、その示唆も見出すことができない。

したがつて、この点の審決の判断は誤つているといわざるをえない。

3  第二引用例において公知のものとして記載された人造木材板の構成について

成立に争いのない甲第三号証(ドイツ特許第六六六四四七号明細書―第二引用例)によれば、第二引用例は、オツト・ローラーの発明に係る一九三八年九月二九日公告、わが国特許局陳列館昭和一四年一月受入の「閉鎖された中間層及び表面単板を有する合板」に関する明細書であるが、審決が第一引用例の木質板の内層(核心層)として転用しうる既知の人造木材板を示す記載として指摘した第二引用例の一頁三九行ないし二頁二〇行には、次の二種類の人造木材板に関する記載のあることが認められる。すなわち、<1>木材切片(Holzschnitzeln)を集めてビスコース溶液で接着して作る絶縁用の人造木板と、<2>天然の軟質木材から機械的に製造された長い削片(Iange Sp<省略>ne)を素材として作る固い網目状を呈する木板である。

ところで、本件考案に係る木板の核心層に用いられる素材は、その表面層用の「小削木片」と対比されるところの「小裂木片あるいは小砕木片」であることは、「登録請求の範囲」の記載から明らかであるから、第二引用例において既知の人造木材板として記載されたもののうち前記<2>の木板を第一引用例の木板の内層(核心層)に転用したとしても、本件考案の木板における核心層とはならない。けだし、「小裂木片あるいは小砕木片」と「長い削片」とは、素材としても異なるものと解さざるをえないからである。一方、第二引用例に既知の木板として記載された前記<1>の木板を構成する素材の形状、大きさについては、「木材切片」と記載されているのみであり、第二引用例全体の記載からもその具体的な大きさは明確に理解できない。この点、原告は、第二引用例が前記<1>の木板として紹介したものが、サミユエル・カボツトの出願に係る木板を指している旨主張するので、その点を検討する。

前掲甲第三号証及び成立に争いのない甲第九号証(米国特許第九九一二七一号明細書)によれば、甲第九号証は、サミユエル・カボツトの一九一〇年七月二二日出願、一九一一年五月二日特許に係る「絶縁板」に関する明細書であるところ、第二引用例の一頁三九行ないし四七行までの記載(前記<1>の木板に関する。)は、甲第九号証の明細書の表現とほぼ同じであり、就中その「請求範囲」の記載とほとんど一致していることが認められる。そして、甲第九号証の明細書には、絶縁板の図2(別紙図面(二)参照)の木質切片について「図2は木質切片(Shreds of Wood)の一つを示すものである。aは木質切片を示しこ、れは板の製造に用いられる。本発明に関するかぎり、これらの切片は適当な方法でどのように作つてもよいが、このような切片は屋根葺用板を鋸で切る際にできる屑として(この屑は時にShingle hairと呼ばれている。)屋根葺板工場において容易に入手できる。」(一頁二三行ないし三二行)と記載され、更に、これらの木質切片の塊にビスコースを浸潤させたのちの圧縮の程度についても、「適度にあまり強くなく圧縮される。手で押す位の圧力で十分であるが、強すぎると空隙をつぶしてしまい、できあがつた板は絶縁性を幾分失つてしまうことになる。」(一頁五四行ないし五九行)(本件考案の表層と中核層との全体の集合体は、より強い圧力で作られる。―実施例1及び実施例2参照)と記載されているところからみても、第二引用例に既知のものとして記載されている前記<1>の人造木板の素材は、本件考案の木板の核心層に用いられる「小裂木片あるいは小砕木片」とは相違するものとみるのが相当である。

4  第一引用例の木板の内層(核心層)として、第二引用例に既知の人造木材板として記載されたものを転用することの容易性について

これまでの検討の結果から明らかなように、第一引用例の木質板は、木目に沿つて切断されてできた細長木片を素材とし、内層の木片はその両側の外層の木片より粗大であり、かつ、これらの細長木片は形成すべき木質板の表面とほとんど平行に配置堆積する構成とした点に特色のある三層構造の木質板であるが、第二引用例に既知のものとして記載されている各人造木板の素材たる木片は、その切断の方向性が限定されたものではなく、かつ、その素材の集合配置の方法も第一引用例の木質板にみられるような特殊なものに限定されてはいないのであるから、この点だけからも、第一引用例の木質板の内層(核心層)に、第二引用例に記載されている既知の人造木板を転用することは、当業者の容易に想到しうるものではないとするのが相当である。もともと、第二引用例は、表面単板として利用することが適当でないものとして既知の前記<1><2>の人造木板を記載したにすぎず(甲第三号証一頁六一行ないし二頁二〇行参照)、更に、それらに用いられる素材である木片が、本件考案の表面強化繊維板の核心層に用いられている「小裂木片あるいは小砕木片」と同じものとも解されないうえ、第二引用例全体を通してみても、ここに記載された既知の人造木板が、三層構造の合板の内層として利用しうることについての何らの示唆も存しない。

また、第一引用例には、表面層に核心層よりも高含有量の結合剤を加えるという本件考案の構成及びこれに基づく効果について、何らの示唆もないことは、既に述べたとおりであるから、本件考案の前記の如き特徴ある構成は、各引用例の記載から当業者が容易に推考しうるものとはいえず、かつ、本件考案の奏する効果も各引用例からは予測しえない格別顕著なものとみるのが相当である。

以上のとおりであるから、審決が、本件考案は、第一引用例の核心層として第二引用例に記載された同様の性質を備えた人造木材板を転用したものにすぎないと判断したのは、第一引用例の木質板の特徴ある構成と第二引用例が既知の人造木板としたものの構成及びそれらの関連性を正確に認識しなかつたことによる誤つた判断といわざるをえない。

この点で、審決は、違法であり取消を免れない。

三  よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は正当であるから、これを認容することとする。

〔編註その一〕本件登録実用新案に関する事項は左のとおりである。

1  特許庁における手続の経緯

フレツド・フアールニは、名称を「表面強化繊維板」とする登録第五八九〇四〇号考案(一九四二年四月二五日のドイツ国への特許出願に基づく優先権を主張して昭和二八年六月二六日にした特許出願を昭和三〇年一一月二一日に実用新案登録出願に出願変更、昭和三九年一〇月二八日登録―以下「本件考案」という。)についての実用新案権者であるところ、被告ドクトル・オスワルド・ウイス、同株式会社岩倉組、同東北ホモボード工業株式会社は、昭和四二年五月一二日、フレツド・フアールニを被請求人として右実用新案登録無効の審判を請求し、昭和四二年審判第三五四九号事件として審理された結果、昭和四七年八月三一日、「登録第五八九〇四〇号実用新案の登録は、これを無効とする。」との審決がされ、その謄本は同年一二月二日原告に送達された。この審決に対する原告のための出訴期間として三か月が附加された。

なお、フレツド・フアールニは、右審判手続の係属中である一九七〇年九月二七日に死亡し、原告が相続人としてその地位を承継したものである。

2  本件考案の要旨

核心層5は小裂木片あるいは小砕木片7が各方向に不規則に集合配置されて相互の間に幾分の空隙8を残し、結合剤はその空隙を充満しないように小木片を相互に接着して熱及び音の絶縁性の高い層を作り、表面層6は核心層5より薄い層をなし、幅広い鉋屑状の小削木片6が幅広い面が水平になるように水平方向に不規則に集合配置され核心層に比し高含有量の結合剤はその小木片を相互の間のみならず核心層に強く密着して耐水性の強い抗張力の大なる表面を有する表面強化繊維板の構造。(別紙図面(一)参照。)

〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。

図面(一)

<省略>

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