東京高等裁判所 昭和48年(行ケ)35号 判決
一 請求の原因のうち、本願発明について、出願から審決にいたるまでの特許庁における手続、発明の要旨及び審決の理由に関する前掲事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、右審決に原告主張の取消事由があるか否かについて審究する。
本願発明が電着塗装を施すべき基体に導電性粒子と塗膜形成キヤリヤとを含む導電性塗料を塗装し、この塗装を施すことにより導電性塗膜を形成することを構成の一つとし、引用例のものが非導電性基体に導電性物質を添着させて導電性を付与する構成をとり、したがつて、両者の間に、本願発明によると基体上に塗膜が形成され、引用例によるとこれが形成されないという構成上の相違があることは当事者間に争いがなく、右事実に成立に争いのない甲第二号証、第十号証及び本件口頭弁論の全趣旨を総合すると、いわゆる電着による塗装においては、基体に電着によつて塗膜を形成すると、塗膜が厚いだけ電気抵抗が増大するので、塗膜の厚さを一定の限界に抑えれば、基体に対する保護機能が不十分となり、そうかといつて、たとえば電着の際、電圧を増加することにより塗膜の厚さを得ようとしても、塗膜が破壊されて、基体に対する保護機能に欠けることになるので、従来、電着によつて形成された塗膜上に適宜の方法で上塗りをする方法が行なわれていたが、それでは電着塗装固有の特性が十分に活用されなかつたこと、そこで、本願発明は、事前に基体(導電性のものと非導電性のものとを含む。)の表面上に塗装による塗膜を形成したうえで、電着による塗装を施すこととし、「基体に導電性粒子と塗膜形成キヤリヤとを含む導電性塗料を塗装し、この塗装を施すことにより導電性塗膜を形成すること」をその構成の一つとしたものであること、これに対し引用例のものは、非導電性基体に導電性物質を添着して導電性を付与したうえ、電着による塗装を行うものであること、さようなことから、本願発明と引用例のものとは、前記のように基体上の塗膜形成の有無において構成上相違するものであること、そして、本願発明は、塗膜形成という構成により基体に耐食性を与える保護機能及び基体の地色を隠蔽する美観付与機能において従来の技術より、すぐれた作用効果を奏するものであることを認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。
ところが、審決は、その理由中において、本願発明と引用例のものとの間に右認定のような構成上の相違があることに触れていないから、これを看過したものといわれても、やむをえない。もつとも、審決は本願発明が構成上導電性粒子と塗膜形成キヤリヤとを含む導電性塗装を施す点で引用例のものと相違すると認定しているが、審決は本願発明が基体に導電性を付与する手段としては、構成上、引用例のものと異なり、導電性粒子と塗膜形成キヤリヤ(前出甲第二号証によれば、導電性粒子相互の間及び同粒子と基体とを結合させて被覆層を形成するため用いられるものであることが認められる。)とを含む導電性塗料を塗付すること自体を指摘したにとどまり、その塗装により基体上に塗膜が形成されることまで引用例のものとの構成上の相違点として指摘してはいないと解するのが相当である。被告は、そのような塗装を施すことにより基体に塗膜が形成されることは自明のことであつて、審決の右認定には当然塗膜形成の有無が含まれるものであると主張するが、仮に右主張の自明の事実が存在しても、それだけで、審決の認定を被告主張のように解することはできない。
しかしながら、導電性粉末粒子と塗膜形成キヤリヤとを含む導電性塗料により導電性塗装を行うことが審決認定のように本願出願前から周知の技術手段であること、これにより基体に導電性物質の付着層が形成されること及び一般に塗料が基体表面に連続した皮膜の形成を目的とする物質であり、塗装が塗料を用いて塗膜または塗膜層を形成するために行う操作であることは当業技術者に周知の事実であることは当事者間に争いがなく、周知技術たる導電性塗装による付着層も基体に対し腐食防止機能、美観付与機能を営むことは、その作用の程度を別にすれば、原告の認めて争わないところであつて、これらの事実に成立に争いのない乙第二号証の一ないし六を参照すれば、本願発明のように基体に導電性塗装を施すことによつて塗膜を形成する程度のことはこの分野における当業技術者にとつて容易に想到しうるところであること、また、さような塗膜により前記のように従来技術よりすぐれた作用効果が生じることも上記の周知事実から当業技術者が容易に予測しうる範囲のものたるにすぎないことを認めるに十分である。
してみれば、審決は前記のように本願発明が基体に塗膜を形成する構成である点において引用例のものと相違することを看過したとはいえ、その相違点も発明の進歩性を誇示しうるものではなく、その存在を根拠に、本願発明を容易に推考しうる程度の特許に値しないものとした審決の判断を誤りとして非難しうる筋合いではないから、審決に違法があるということはできない。
三 よつて、本件審決の違法を主張してその取消を求める本訴請求を理由がないものとして棄却する。