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東京高等裁判所 昭和48年(行ケ)38号 判決

一 原告の主張する請求原因第一、二、三項の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由の有無について判断する。

(一) 原告の主張(一)について

1 成立に争いのない甲第一号証の三、四によれば、本願発明の明細書の発明の詳細な説明欄に、次のような趣旨の記載があることが認められる。

(1) 本願発明は、毛髪にヘヤウエーブ、ヘヤストレート及びヘヤカラーを形成せしめることを特徴とする毛髪用溶液及びクリームに関するものである。ところで、このようなヘヤウエーブ、ヘヤストレート及びヘヤカラーの形成は、毛髪に表面活性剤をアルカリ性溶液に溶解した液((イ)剤)に浸潤させるか又は塗布した後、表面活性剤と水溶性金属塩類とを溶解した液((ロ)剤)、すなわち、各種金属イオンを含有する溶液を浸潤させるか又は塗布して行うものであつて、ロールに捲いた毛髪をこの方法により処理してヘヤウエーブを形成した場合のヘヤウエーブの強さと、単にアルカリ処理をするだけでヘヤウエーブを形成した場合のそれとを、このようにしてヘヤウエーブの形成された毛髪を摂氏四〇度の温水に一分間浸漬し、形成されたヘヤウエーブが元の状態に復元する度合を、完全に復元してまつすぐの毛になつた状態、軽いヘヤウエーブの毛になつた状態、中級のヘヤウエーブの毛になつた状態、強いヘヤウエーブの毛になつた状態、ほとんど復元せずに特に強いヘヤウエーブの毛である状態の五段階に分けて観察することにより、形成されたヘヤウエーブの強さを知る実験方法により比較すると、ヘヤウエーブ復元の度合は、前者においては、後に使用された溶液中に含有されていた金属イオンの種類により差があるものの、少くとも中級のヘヤウエーブの毛の状態であり、その大半は特に強いヘヤウエーブの毛の状態であつたのに対し、後者においては、まつすぐの毛の状態であつて、前者の方法により形成されたヘヤウエーブが後者の方法により形成されたそれより格段に強いことが確かめられた。

(2) 上記のように、毛髪を(イ)剤で処理した後、(ロ)剤で処理することにより強いヘヤウエーブを形成することができるのは、ロールに捲いた毛髪をアルカリ溶液に浸漬すると、毛髪の蛋白質ケラチンがアルカリ溶液中で膨潤して原子量の小さいアルカリイオンのナトリウムと結合するが、このような内部変化の生じた毛髪をアルカリ金属と異る原子量の大きい各種金属イオンを含有する液に浸漬すると、さきに毛髪蛋白質に結合していた原子量のより小さいアルカリイオンが原子量のより大きい金属イオンと交換され、この金属イオンの毛髪蛋白質との結合により、各種金属イオンの毛髪蛋白質キレート結合物が形成され、このキレート結合によるヘヤウエーブ、ヘヤストレートとヘヤカラーが形成される。

2 以上の記載が認められるのであつて、これらの記載によれば、本願発明は、毛髪蛋白質に原子量のより小さいアルカリイオンを結合させ、しかる後、このアルカリイオンをアルカリ金属とは異る原子量のより大きい金属イオンと交換して金属イオンの毛髪蛋白質キレート結合物を形成することによりヘヤウエーブ、ヘヤストレート及びヘヤカラーを形成するのに用いる毛髪用溶液又はクリームに関するものであつて、毛髪蛋白質にアルカリイオンを結合させる役割を果すものが(イ)剤であり、このアルカリイオンをアルカリ金属とは異る金属イオンと交換して金属イオン毛髪蛋白質キレート結合物を形成させる役割を果すものが(ロ)剤であるということができる。また、本願発明が期待しているヘヤウエーブ、ヘヤストレートを形成するには、まず、(イ)剤を使用し、次いで右使用による効果の失われないうちに(ロ)剤を使用しなければならないのであつて、逆に、(ロ)剤を使用した後に(イ)剤を使用する場合、あるいは(イ)剤を使用した後に本願発明(ロ)剤を使用する場合であつても、前者の使用による効果が失われてしまつた後に後者を使用するようなときは、毛髪蛋白質に結合させたアルカリイオンをアルカリ金属とは異る金属イオンと交換してキレート化合物を形成することが不可能であるから、本願発明の期待するヘヤウエーブ、ヘヤストレートを形成するに由ないことは明らかである。他に以上認定を左右するに足りる証拠はない。

3 そうすると、本願発明は、特許請求の範囲の記載からは必ずしも明らかであるとはいえないが、その発明の詳細な説明からみて、先に使用すべき(イ)剤と、これに続いて後に使用すべき(ロ)剤とを組合せて成るものと解するのが相当である。

(二) 原告の主張(二)について

1 すでに認定したところによれば、(ロ)剤は、ヘヤウエーブ、ヘヤストレートを形成するのに重要な役割を果している毛髪処理剤であることも明らかである。もつとも、本願発明の毛髪用溶液又はクリームは、前記のようにヘヤウエーブ、ヘヤストレートを形成するほか、ヘヤカラーを形成するのにも用いるものであり、(ロ)剤が染毛剤としての性質をも有するものであることは、原告の自認するところであるが、前掲甲第一号証の三、四によれば、本願明細書の発明の詳細な説明欄には、前記のように毛髪を(イ)剤に浸潤させた後、(ロ)剤に浸潤させて金属イオンの毛髪蛋白質キレート結合物を形成することによりヘヤウエーブを形成するとき、この毛髪が白切髪又は薄色切髪であつたならば、これにヘヤウエーブが形成されると同時に、形成される金属キレート化合物の金属イオンの種類が、(ロ)剤の有する金属イオンの種類に応じて異るに従い、それぞれ異つた一定の色に染色が施され、かつ、ヘヤウエーブの強さとヘヤカラーの強さとは、実験上互いに比例する関係にあることが確められた旨記載されていることが認められ、これによれば、(ロ)剤は、原則としてはヘヤウエーブ、ヘヤストレートを形成する役割を果す毛髪処理剤として使用するものであり、処理する毛髪が白色をはじめとする薄色であるような例外の場合に限つて、同時にヘヤカラーを形成する役割をも果す染毛剤としても使用されるものであり、もつぱら染毛剤として使用するものではないということができる。

2 一方、成立に争いのない甲第六号証の一、二によれば、第一引用例においては、そこに記載されているものがウエーブ剤として使用できる旨、また第二引用例においては、そこに記載されているものが染毛剤として使用することができる旨それぞれ示めされているだけで、本願発明における(イ)剤、(ロ)剤のように第一剤、第二剤として使用し、これに特別の役割を果たさせることにより、格別の作用効果を奏する毛髪処理剤としうることについては全く開示されておらず、また示唆もされていないことが明らかである。

(三) 以上のとおり、本願発明を前掲の各引用例に開示された技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できるものとした審決は認定を誤つた違法があるというべきであるから、取消を免れない。

なお、被告は、かりに本願発明の毛髪用溶液又はクリームが前認定のようなものであるとしても、(イ)剤と組成を実質的に同じくする第一引用例の毛髪処理剤でパーマネントウエーブを施した後、(ロ)剤と組成を実質的に同じくする硝酸銀のような第二引用例の染毛剤を用いて部分的に染毛処理を行うことは、従来から広く好みによつて行われていたところであつて、本願発明のものの奏する作用効果もこの場合に生じていた作用効果と異るところがない旨主張するが、これを認めるに足る証拠は見当らない。

三 よつて、審決の取消を求める原告らの本訴請求は理由があるから、これを認容する。

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