東京高等裁判所 昭和48年(行ケ)47号 判決
事実及び理由
審決に原告主張の取消事由があるか否かについて審究する。
(一) 前示一の本願考案の要旨のうち、ポリエチレンテレフタレート又はポリカーボネート又はポリアミドからなる耐熱性合成樹脂フイルムを外層とし、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの耐熱性ポリオレフインフイルムを内層とし、もしくは右両層間にアルミ箔を中間層として用い、各層間を接着剤を用いて接着して形成した積層材を、耐熱性ポリオレフイン(内層)面が相接するように重ね合わせ、周囲を熱封緘した包装体の構成が審決認定のように本願出願前から周知の技術であることは原告の認めて争わないところである。したがつて、審決の当否は、本願考案の要旨のうち、接着剤としてイソシアネート系の接着剤を用いる構成が審決のいうように第一ないし第四引用例から推考容易か否かにかかつている。
(二) ところが、一般にイソシアネートの接着剤としての性質が既に周知であつたこと、本願出願前公知の第一、第二引用例に、審決認定のように、ポリオレフイン薄板とポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)、ポリカーボネート、ポリアミド又はアルミニウムの薄板とを結合して結合薄板を作る際、中間層を形成させるため有機イソシアネートを塗布して接合したものが包装用の合成物質結合薄板すなわち積層板として記載されていることは原告の自認するところであり、成立に争いのない甲第五号証によると、第一引用例には、そのほか、結合薄板の接触表面の一つに中間層を形成させるため分子中に少なくとも二個の反応性イソシアネート基を含む難揮発性の多価有機イソシアネートを使用し、圧着して接着することが記載され、これにより、本願考案におけると同様、合成樹脂フイルムとポリオレフインフイルムとを接着するためイソシアネートを接着剤として使用する技術が開示されていることが認められ、また、成立に争いのない甲第六号証によれば、第二引用例には、前記の記載のほか、右同様に用いる有機イソシアネートに酸化剤を加えて品質良好な積層板を得ること、この方法によれば、シート間の接着強度が煮沸によつても低下しないことが記載され、結局、本願考案におけると同様イソシアネートを積層板の接着剤として使用する技術が開示されていることが認められる。
原告は、右各引用例には微量のイソシアネートをポリオレフインフイルムの熱融着促進剤として使用する技術が開示されているにすぎない旨を主張するが、右甲号各証によつても、右各引用例のものにおいては、結合薄板を圧着した後、その接着を一そう強固にするため加熱することが認められるだけであつて、イソシアネートをポリオレフインフイルムの熱融着促進剤として使用することが示されているものとは解し難いから、原告の右主張は採用することができない。
また、本願出願前公知の第三引用例に、審決認定のように、イソシアネートが木、硝子、ゴム、金属、プラスチツクなどの同一種類の材料又は他の材料の間を接着するのに使用されること、本願考案におけるイソシアネート系接着剤と同様のことが記載されていることは原告の自認するところであり、成立に争いのない甲第七号証によると、第三引用例には、そのほか、イソシアネートが普遍的応用性を有する接着剤であるが、接着すべき積層が弾性を有するとき、例えばポリイソブチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアセタル等又はそれらの成分の混合重合体もしくは多硫化アルカリと低分子ヂクロル化合物との縮合生成物から成るときは、特に良好な接着効果を示し、接合された積層材の耐熱水性にすぐれた効果があることが記載され可撓性積層材の接着にイソシアネート接着剤が適していることが開示されていることが認められ、右認定に牴触する原告の主張は理由がない。
してみると、本願考案のイソシアネート系接着剤は第三引用例により公知であり、第一、第二引用例記載のものにおいてはイソシアネートの薄膜が被接着層間の結合作用を果すものというべきであるから、審決が第一ないし第三引用例の技術内容を右のように把握して本願考案のような積層材料のフイルムもしくは箔の接着にイソシアネート系接着剤を用いることを当業技術者が極めて容易にできることとした判断には誤りがない。
(三) なお、本願出願前公知の第四引用例に、審決認定のように、ポリエチレン(内部)、箔、ポリエステル(ポリエチレンテレフタート)(外側)からなる積層材料を用いたフレキシブル包装体が罐詰と同効の、蒸気及び水処理に耐えるものであることが記載されていることは原告の自認するところであり、成立に争いのない甲第八号証によると、第四引用例には、そのほか、右包装体が食品の長期保存に耐える耐熱性のものであることが記載されていることが認められ、右認定に牴触する原告の主張は排斥のほかないから、審決が、第四引用例における罐詰と同効のフレキシブル包装体の技術との対比により、本願考案の罐詰同効の食品包装体に新規性がないとした判断は、積層材料を接着するため使用される前記のような公知の接着剤の存在を前提としたものである以上、正当といわなければならない。したがつて、第四引用例自体に積層材料の接着剤ないし接合手段の記載がないことから審決の右判断を誤りとする原告の主張は的外れである。
(四) また、上記各引用例の記載によると、本願考案の原告主張のような作用効果は積層材料の接着にイソシアネート系の接着剤を用いる構成により当然生じるものであることが認められるから、右作用効果を本願考案に特有のものということはできない。
(五) 果してそうだとすれば、本願考案を、当業技術者が第一ないし第四引用例及びイソシアネート系接着剤に関する周知事項に基づいて極めて容易に考案することができたものであつて、実用新案法第三条第二項の規定により実用新案の登録に値しないとした審決の判断には誤りがなく、したがつて、審決に違法はないというべきである。
よつて、本件審決の違法を主張してその取消を求める本訴請求を理由がないものとして棄却する。