大判例

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東京高等裁判所 昭和48年(行ケ)65号 判決

事実及び理由

一  前掲請求の原因のうち、原告を権利者とし、アメリカ国における特許出願に基づく優先権の主張のある登録実用新案について、登録無効審判請求から審決の成立、その謄本の送達にいたる手続の経緯、考案の要旨、審決の理由に関する事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、右審決の取消事由の有無について判断する。

(一)  本件考案の要旨に成立に争いのない甲第三号証(その実用新案公報)及び第七号証の一、二を併せ考えると、本件考案は、溶融金属の冷却曲線を求め、その凝固点を測定する装置において熱電対(感温装置)とともに成形した容器を工業用の消耗品たるユニツトとして提供することを特徴とし、その考案の要旨のような構成によつてこれを一回使用した後、電気接合部から簡単に取り外して新らしいものと取り替える操作を必要に応じて迅速かつ連続的に行い、精確な凝固点を測定することができるという効果を奏するものであることが認められ、右の認定を左右するに足りる証拠はない。

そして、成立に争いのない甲第五号証の第一引用例には、容器の底部に、その壁面から離して熱電対を置き、そのリード線を、壁面を貫通して挿入し、上から流し込んだ溶融金属の温度を測定する装置の記載があるが、さらに同号証に前出甲第七号証の一を併せて考えると、第一引用例のものは、溶融金属の凝固点温度ではなく、単にこれが流し込まれた時点における溶鋼温度を測定することを目的とし、また、熱電対を、容器(鋼製ルツボ)と別体の支持台の底部中央に直立して設け、かつ、その上半部を取替え可能な金属製の被覆管でおおい、その被覆管を容器の底部中央に設けられた穴に篏入して熱電対を支持台上に定置する構造とし、一回の温度測定を終えると、容器から溶融金属の凝固した金属塊を被覆管が固着したまま取り出して、再び新しい被覆管で熱電対をおおい、容器を水で急冷した後、支持台に定置して操作するものであること(別紙第二図面参照)、これを推せば、第一引用例のものにおいては、熱電対の取付構造が本件考案と著しく異るばかりでなく、そもそも、容器を熱電対とともに形成し、消耗品たるユニツトとして提供するという本件考案のような技術思想を欠き、そのため、本件考案における前記のような作用効果を奏しないことが認められる。

してみると、右審決が、本件考案と第一引用例のものとを、感温装置の取付構造の点で一致するとしたのは誤りであるといわざるをえない。被告は、本件考案の要旨において、感温装置が容器と一体とされること、感温素子の先端(接点)が溶融材料と直接接触することは要件とされず、また、感温素子の先端と溶融材料とを直接接触させるか否かは設計上の変更にすぎない旨を主張するが、右考案の要旨にも、容器は感温装置を備え、感温装置はコツプ形のもの(容器)の中に入れた溶融材料で常に完全に取り囲まれるように配置されるとうたわれているうえ、前記のように、溶融材料の冷却曲線を求めて、凝固点を測定する本件考案の装置においては、その目的を達するため、感温装置を溶融材料に完全に取囲ませ直接接触させることはいたつて当然の手段であることを推量するに難くないから、被告の右主張が当らないことは明らかである。

なお、右審決は、第一引用例のものも凝固点温度を測定する装置であるとの認定に立つているが、右装置の使用目的に関する前記認定を覆して、右審決の認定を正しいものと認むべき証拠はない。被告は、この点につき、本件考案と第一引用例のものとは、溶融金属の温度測定を目的とする点において一致し、その凝固点温度を測定すると、溶鋼温度を測定するとの差異は連続測定の能否にかかる使用上のものに過ぎない旨を主張するが、本件考案は連続測定の可能な構造によつて溶融金属の凝固点温度を測定しようとする点に特徴と意義を有するものであつて、これをもつて単なる使用上の差異とする被告の主張は妥当を欠くものである。

(二)  次に、本件考案における容器が熱電対とともに成形された工業用消耗品たるユニツトとして提供されることとも関連し、その考案の要旨によると、容器は安価で使用後は捨ててしまうものであり、また、熱電対との電気接続は容器の外部のプラグイン電気接点によるものであるが、成立に争いのない甲第四号証の二(第二引用例)には、本件考案と同じく、溶融金属の凝固点を測定する装置において、その容器は中子砂で作成されることが記載され、その限りでは、安価で使い捨てできる容器材料の一つが示されているということができ、また、成立に争いのない甲第六号証(第三引用例)には、溶融金属の温度を測定する温度計において、その消耗する先端を交換可能にし、その導線の接続をプラグイン接点によるようにすることが記載されていて、この点、右審決が認定したとおりである。しかしながら、第二、第三引用例(甲第四号証の二、第六号証)のいずれからも、熱電対を溶融材料の容器と一体として成形し、これとともに使い捨てにするという本件考案のような技術思想を窺うことはできず、他に、さような技術思想が本件考案の出願当時すでに開示されていたことを認めるに足りる証拠はない。さりとて、これらの周知例を第一引用例のものに加えれば、極めて容易に、さような考案をすることができたものと認めることもできず、この点に関する右審決の認定は誤りであるといわねばならない。

(三)  それならば、右審決は、右のような事実誤認に基づき、本件考案の進歩性を否定したため、その登録を無効とすべきであるとする誤つた結論を下した点で違法であるという外ない。

なお、原告は、溶融材料の容器が本件考案においては、熱伝導の悪い非金属の難溶融性材料で造られた円筒状のコツプ形のものであるのに、第一引用例のものにおいては、熱伝導の良い鋼製の上広椀形のものである点で、両者は相違し、また、本件考案の要旨に規定されたコツプの深さ、冷却速度、感温素子の液面からの位置等が第一引用例にみられない構成要件である旨を主張するが、容器の材質の点については、本件考案においても、その要旨によれば、非金属の難溶融性のもの(熱伝導が悪い)が要件とされているのは容器の底部に限られているのみならず、前出甲第三号証によれば、本件考案の明細書中には、実施例として容器の内側に薄い金属の管を挿入することを許容する旨の記載があるので、必ずしも熱伝導の良いものが排除されるとは考えられず、容器の形状については、本件考案の要旨においても、コツプ形というだけで、それが円筒状のものであることまでは規定していないうえ、第一引用例のものにおける容器のように上広椀形のものも、コツプ形のものに含まれると解され、また、コツプの深さ、冷却速度、感温素子の液面からの位置等については、本件考案の要旨も、抽象的に規定しているだけで、具体的形状又は構造として示すところがない以上、原告の右主張を、たやすく肯認することはできない。しかしながら、これがため、本件考案の進歩性に関する前示認定が左右されることはないものと考えるのが相当である。

三  よつて、本件審決が違法であるとして、その取消を求める原告の本訴請求を理由があるものとして認容する。

〔編註〕本件に関する図面は左のとおりである。

別紙第一図面

<省略>

別紙第二図面

<省略>

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