東京高等裁判所 昭和48年(行ケ)73号 判決
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び本件審決理由の要点が、いずれも原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 原告は、本件審決は、本願考案と第一引用例との相違点は、第二引用例及び第三引用例により公知の事項から必要に応じて極めて容易にできる設計変更であると誤認し、その結果、本願考案をもつて各引用例から極めて容易に考案することができるものであるとの誤つた結論を導いたものであり、違法として取消されるべきである旨主張するが、この主張は、理由がないものといわざるをえない。すなわち、各引用例の記載内容並びに本願考案と第一引用例との一致点及び相違点が本件審決認定のとおりであることは原告の認めて争わないところであり、更に、本件審決が右相違点に対する判断に当たつてした第二引用例及び第三引用例による公知事項の認定並びに第三引用例の吸引機等が本願考案の収塵ブロワー10等に当たるとする認定は、第三引用例の排気筒が本願考案の吐出筒11に当たるとする点を除き、原告の争わないところであるところ、本願考案の吐出筒11は、当事者間に争いのない本願考案の要旨に徴すれば、収塵ブロワーの吐出口に連結され、その先端を乾燥作業場から離れた適宜場所に導き開放させた構成のものであるに対し、第三引用例の排気筒は、成立に争いのない甲第四号証(第三引用例)によれば、吸引機の吐出口に連結され、その先端を乾燥機の外に開放させたものであり、第三引用例の「塵芥処理を合理化する」旨の記載は、乾燥室内に生じた塵埃を乾燥室外へ排出するまでの処理を合理化することであると認められるから、第三引用例の排気筒は、その先端の構成において、原告主張のように、本願考案の吐出筒と異なるものというべきであるが、成立に争いのない乙第一号証の記載に徴すれば、穀類調整機において、これに装着した排塵機の排塵部に、先端を作業場外遠方に導いて開放させた補助排出筒を連結し、穀類調整機内に発生した塵芥類等を排塵機内に吸塵し、補助排出筒により作業場外の任意の位置に放出させて、作業場の環境を良好にすることは、本願出願当時周知の技術であることが認められる(このことは原告の争わないところである。)。しかるところ、本願考案において、原告主張の(イ)乾燥作業場の環境を良好にし、(ロ)混入する塵埃の少ない穀粒に乾燥し、(ハ)穀粒の乾燥ムラを少なくする、という各効果を奏することは、いずれも成立に争いのない甲第五号証から第七号証(本願明細書並びに昭和四十七年九月十四日付及び同月二十八日付各手続補正書)により、これを認めることができるが、右各証拠によれば、(イ)の効果は、本願考案の吐出筒の先端の構成により、乾燥機内から排出される塵埃を乾燥作業場から離れた適宜場所に放出することによつてもたらされ、(ロ)の効果は、循環流動する穀粒に乾燥風を送給することに起因して吹抜部の吹出口側に塵埃が吹き出されるようになる現象を、穀粒中に混入している塵埃を分離するのに利用することによりもたらされ、また、(ハ)の効果は、分離した塵埃を収集する収塵ブロワーの吸引圧により、塵埃の収集と同時に吹抜部における熱風の供給ムラを防止することによりもたらされるものと認められるところ、右認定の事実から明らかなように、(イ)の効果をもたらす構成と(ロ)及び(ハ)の効果をもたらす構成とは別個のものであり、また、一般に、穀類乾燥機において、乾燥機外に排出される熱風に塵埃が含まれ作業場の環境を悪化することがあつても、そのため、乾燥効率を低下させてまで熱風が強力とならないように調整しなければならないものとはいえないから、本願考案においては、原告主張のように、吐出筒の構成が(イ)の効果を奏し、乾燥風の圧送吸引を十分強力にすることができ、その結果、(ロ)及び(ハ)の効果をもたらすようになつたものではなく、(イ)の効果と(ロ)及び(ハ)の効果とは互に関連がないものと認むべく、他にこれを覆えすに足りる資料はない。しかして、成立に争いのない甲第二号証(第一引用例)及び当事者間に争いのない本件審決認定の本願考案と第一引用例との一致点である第一引用例の構成によれば、第一引用例の穀類乾燥機においては、循環する穀類に熱風を圧送し、熱風通風路に排風と一緒に吹き出された塵埃は、機体の上側に設けられ、熱風通風路に連通された熱風排出筒から機外に放出されるものであり、また、成立に争いのない甲第三号証(第二引用例)及び当事者間に争いのない本件審決認定の第二引用例による公知事項によれば、第二引用例の穀類乾燥機においては、穀類充填室の一側に形成した熱気室内の熱気を送込羽根により穀類充填室に強制的に送り込むとともに、穀類充填室の他側に形成した排気室内の吸引羽根によつて排気を強制的に吸引排出することにより、穀類充填室内に熱気が均等に分配されるものであることが認められるから、本願考案の(ロ)及び(ハ)の各効果と同様のものは、それぞれ、第一引用例及び第二引用例のものによつても奏することができるものであり、更に、前認定の周知技術は、塵埃を作業場外の任意の位置に放出せしめる構成であるから、もとより、(イ)と同様の効果をもたらすことができることは明らかといわなければならない。
以上の事実を総合すれば、本願考案において、吐出筒の先端を乾燥作業場から離れた適宜場所に導き開放させた構成とすることは、第三引用例の排気筒に前認定の周知技術を付加したものに相当するものというべく、更に、本願考案の(イ)の効果と(ロ)及び(ハ)の効果とは互に関連せず、また、それぞれ、右周知技術、第一引用例及び第二引用例のものによつてもたらされうるものであるから、本願考案の吐出筒の先端の構成は、本件審決認定のとおり第三引用例と周知技術とから極めて容易にできる設計変更にすぎないというべきである。
(むすび)
三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却する。
〔編註その一〕 本件における請求原因は左のとおりである。
原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。
一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和四十二年十一月十四日、名称を「穀物通風乾燥装置における除塵を兼ねる通風装置」(のちに「除塵を兼ねる穀物通風乾燥装置」と訂正)とする考案につき実用新案の登録出願をしたところ、昭和四十六年七月十日、拒絶査定を受けたので、同年九月十六日、これに対する審判を請求し、昭和四六年審判第七、三五一号事件として審理されたが、昭和四十八年一月八日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は、同年五月二十九日、原告に送達された。
二 本願考案の要旨
(A)上部に穀粒を装入する装入口1を有し、下部に穀粒を流出せしめる流出口2を備え、その流出口2に排出される穀粒を再び装入口1に戻して循環さす揚穀装置15を具備し、(B)胴部には装入口1より装入されて下部の流出口2に向け上下方向に流動する穀粒層を横切つて空気を通過させる吹抜部5を有し、(C)右吹抜部5の一側には熱風を送風装置7によつて圧送する多孔板または網体4よりなる導風路6が連通している穀槽aの前記吹抜部5の吹出側の網体4aの外側にその外面側を覆う風胴8を連結し、(D)右風胴8を導風路9を介して収塵ブロワー10の吸引口10aに連通し、収塵ブロワー10の吐出口10bには先端を乾燥作業場から離れた適宜場所に導き開放させた吐出筒11を連結したことを特徴とする(E)除塵を兼ねる穀物通風乾燥装置(別紙図面参照)。
三 本件審決理由の要点
本願考案の要旨は、前項掲記のとおりと認められるところ、実公昭四二―三、八〇九号公報(以下「第一引用例」という。)、実公昭三三―一五、〇二八号公報(以下「第二引用例」という。)及び実公昭三三―一三、三五二号公報(以下「第三引用例」という。)には、それぞれ次の事項が記載されている。(1)第一引用例、(A)′乾燥機枠1の上部に穀類を装入する漏斗2を有し、下部に穀類を流出せしめる排出口12を備え、その排出口12に排出される穀類を再び漏斗2に戻して循環さすコンベアー枠18を具備し、(B)′乾燥機枠1の胴部には漏斗2より装入されて下部の排出口12に向け上下方向に流動する穀類層を横切つて熱風を通過させる穀類収容室10を有し、(C)′右穀類収容室10の一側には熱風を熱風導入管17によつて圧送する金網8よりなる熱風室9が連通している乾燥機枠1の前記穀類収容室10の吹出側の金網張の乾燥筒6の外側にその外面側を覆う熱風通路7を連結し、(D)′右熱風通路7を導風路を介して機枠1の上側に設けた熱風排出筒22に連通させた(E)′穀類乾燥機。(2)第二引用例、熱気送込羽根3と排気吸引羽根4を設けた穀類乾燥機。(3)第三引用例、排気室9を通口15を介して吸引翼12とこれを収蔵するケース11からなる吸引機の吸引口に連通し、ケース11の周壁の一部に設けた吐出口、すなわち吸引機の吐出口に排気筒16を連結し、乾燥室内の空気を排気室9を経て吸引し、排気筒16から機外へ排出し、塵芥処理を合理化した穀類乾燥機。本願考案と第一引用例のものとを比較すると、両者は次の(1)の点において一致し、(2)の点において相違する。(1)一致点、上部に穀粒(穀類)を装入する装入口1(漏斗2)を有し、下部に穀粒(穀類)を流出せしめる流出口2(排出口12)を備え、その流出口2(排出口12)に排出される穀粒(穀類)を再び装入口1(漏斗2)に戻して循環さす揚穀装置15(コンベアー枠18)を具備し、胴部には装入口1(漏斗2)より装入されて下部の流出口2(排出口12)に向け上下方向に流動する穀粒層(穀類層)を横切つて空気(熱風)を通過させる吹抜部5(穀類収容室10)を有し、右吹抜部5(穀類収容室10)の一側には熱風を送風装置7(熱風導入管17)によつて圧送する多孔板又は網体4(金網8)よりなる導風路6(熱風室9)が連通している穀槽a(乾燥機枠1)の前記吹抜部5(穀類収容室10)の吹出側の網体4a(金網張の乾燥筒6)の外側にその外面側を覆う風胴8(熱風通路7)を連結して、右風胴8(熱風通路7)とこれに連なる導風路を経て排気するようになした穀物通風乾燥装置(穀類乾燥機)。(2)相違点、本願考案は、風胴8を導風路9を介して収塵ブロワー10の吸引口10aに連通し、収塵ブロワー10の吐出口10bには先端を乾燥作業場から離れた適宜場所に導き開放させた吐出筒11を連結したものであるに対し、第一引用例のものは、前記風胴8に相当する熱風路7を導風路を介して機枠1の上側に設けた熱風排出筒22に連通したものである。なお、請求人(原告)は、当審で通知した拒絶理由に対して意見書を提出し、第一引用例は本願考案の構成要件(D)を備えておらず、第二引用例は熱風を圧送し、吸引排気する以外の点において本願考案と相違しており、第三引用例は本願考案の構成要件(A)、(B)、(C)を備えていないから、本願考案は以上三個の引用例に基づいて極めて容易に考案することができないものである、と主張する。そこで、前記相違点および請求人(原告)の右主張について按ずるに、穀類乾燥機において、乾燥室内へ熱風を圧送するとともに、乾燥室内から熱風を吸引排気することは、第二引用例によつて従来公知であり、更に、排気室(風胴8)を通口(導風路9)を介して吸引翼とこれを収蔵するケースからなる吸引機(収塵ブロワー10)の吸引口に連通し、吸引機の吐出口に排気筒(吐出筒11)を連結し、乾燥室内の空気を排気室(風胴8)を経て吸引し、排気筒(吐出筒11)から機外へ排出し、塵芥処理を合理化することは、第三引用例によつて従来公知であるので、前記相違点は必要に応じてきわめて容易になしうる設計変更であるものと認めるのが相当であつて、請求人(原告)の前記主張は採用できない。以上の理由により、本願考案は、前記三個の引用例に基づいて極めて容易に考案することができたものと認められるから、実用新案法第三条第二項の規定に該当し、実用新案登録を受けることができない。
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
第一図(縦断正面図)
<省略>
第二図(横断平面図)
<省略>