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東京高等裁判所 昭和48年(行ケ)81号 判決

事実及び理由

一  請求原因一ないし三の各事実、すなわち、本件考案についてされた実用新案登録出願から登録無効審判請求に対する本件審決に至る特許庁における手続の経緯、本件考案の要旨並びに本件審決理由の要点は、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の本件審決取消事由が存在するか否かにつき検討するに、本件審決は、本件考案と第一引用例との相違点<1>に対する判断において、本件考案の構成が各引用例から容易に考案できるものではないとし、本件考案には特段の作用効果があると認めて、その進歩性を肯定しているが、以下に述べるとおり、右認定及び判断は誤りというべきであつて、相違点<1>があるとしても、本件考案は、第一引用例、第二引用例及び第七引用例からきわめて容易に考案しうるものであり、その作用効果についても第一引用例のものと同一であるもの、または第二引用例及び第七引用例から当然に収めうる程度のものにすぎないから、結局、本件審決は取消を免れえない。

(一)  本件考案と各引用例との対比判断の誤りについて

1  成立に争いがない甲第二号証、同第三号証の一、二、検乙第一号証(本件考案の実施品である計器函の合成樹脂製カバーであることは争いがない。)、検乙第二号証(被告が製作した計器函の鉄板製カバーであり、第一引用例の実施品と同一の構造であることは争いがない。)によれば、本件考案及び第一引用例の各計器函カバーは、いずれも、カバー本体の裏面(以下、単に「カバー本体」と略称する。)に抑止板を固定させ、この抑止板により透明板をカバー本体の窓孔周縁の受け縁に抑止しているものである点で同一であるが、抑止板をカバー本体に固定する方法として、審決も認定する如く、第一引用例は、カバー本体に熔着した受け金5に抑止板4の両端を嵌入支持させる構成である(別紙図面(〔編註〕省略)B参照)のに対し、本件考案は、先端に大径の頭部を形成した取付け片4、4をカバー本体1と一体に合成樹脂をもつて突設し、抑止板6は取付け片4が嵌まる程度の幅の切込み5を有する板とし、切込み5に取付け片4を嵌めて固定する構成(別紙図面A参照)となつていることが認められる。右認定から明らかなとおり、本件考案と第一引用例とは、透明板を抑止板によつて抑止するということについて何ら差異がないから、相違点<1>は、結局、抑止板をカバー本体に固定する手段の相違にほかならないというべきである。

ところで、成立に争いがない甲第四号証によれば、本件考案の登録出願前国内において頒布された刊行物である第二引用例には、二部材を固定する一般的な技術として、二個の突起を基板と一体に熱可塑性材料をもつて突設し、固定の対象物である他方の板に突起が嵌まる程度の幅の突起受入れ部を設け、この突起受入れ部に突起を嵌めて支持させ、突起の頭部をアイロン掛けして大径の頭部としたもの(別紙図面C参照)が示されていることを認めることができる。そこで、本件考案における抑止板をカバー本体に固定する方法と第二引用例の固定方法とを比較すると、固定の対象物である板の突起受入れ部の構造が、本件考案では「切込み」であるのに対し、第二引用例ではこれが明確でないという点においてのみ相違し、その他においては変るところがない。ところで、成立に争いがない甲第一〇号証によれば、本件考案の登録出願前国内に頒布された刊行物である第七引用例には、機械器具製作における二部材の固定技術として、一方の部材に設けた突起を他方の部材に設けた切込みに嵌める手段が記載されていることが認められるから、第二引用例における突起受入れ部として第七引用例に示されている切込みを採用することは、右各引用例に示されている方法がいずれも二部材間の固定手段として周知の技術である以上、当業者が特段の考案力を要することなく、きわめて容易になしうるものということができる。

したがつて、第一引用例におけるカバー本体に熔着した受け金に抑止板の両端を嵌入支持させる方法に代えて、本件考案のような抑止板の固着方法を採用することは、第二引用例と第七引用例からきわめて容易に考案できるものといわざるをえない。

(なお、被告は、第二引用例及び第四ないし第七引用例がいずれも透明板を抑止板によつてカバー本体に抑止する構造と無関係であるから、相違点<1>はこれらの引用例を合わせてみても容易に考案できるものではない旨主張するが、前判示のとおり、抑止板によつて透明板をカバー本体に抑止する構造自体は第一引用例においても備えており、この点について本件考案と第一引用例との間に差異はなく、相違点<1>は抑止板とカバー本体との固定手段の差異に帰するから、一般的な二部材間の固定手段を示している第二引用例及び第七引用例が相違点<1>に関するものであることは明らかであり、被告の右主張は採用しえない。)

2  本件考案は、(1)抑止板の着脱が容易である、(2)取付け片をカバーと一体に合成樹脂をもつて形成するから製作が簡単である、(3)取付け片の先端は抑止板を嵌めた後に加熱押圧することにより簡単に固定できるという作用効果を有することは当事者間に争いがなく、前掲甲第二号証によれば、本件考案が右の他に、(4)透明板の端縁は長い抑止板で抑えられるから破損が少ない、(5)特に透明板の端縁を抑える枠を必要としないという作用効果をも有することが認められる。

しかしながら、右(1)の効果は、固定の対象物たる抑止板の突起受入れ部として、切込みを採用したことによるものであるから、第七引用例が当然に奏する効果であり、(2)及び(3)の各効果は、いずれも第二引用例の固定手段においても有している効果にすぎないことが明らかである。したがつて、(1)ないし(3)の各効果は、いずれも第二引用例及び第七引用例を合わせることにより当然に生ずる効果であつて、当業者が容易に収めうる作用効果の域を出ないものである。

また、透明板の破損が少ないという(4)の効果は、長い抑止板で透明板を抑えることによるものであるから、第一引用例のものにおいても同じ効果を奏することが前掲甲第三号証の一、二、検乙第二号証から明らかであつて、本件考案に特有のものではない。特に透明板の端縁を抑える枠を必要としないという(5)の効果もまた、抑止板によつて透明板をカバー本体に抑止する構成によつてもたらされる効果にすぎず、第一引用例においても同一の効果を奏することは、(4)の場合と同様である。してみると、(4)、(5)の効果は、いずれも本件考案のような抑止板の固定手段を採ることによつて直接もたらされる効果ということはできない。

(二)  本件考案の作用効果に関する認定の誤りについて

1  審決が、本件考案の作用効果として、抑止板の面積の半分以上がカバー本体裏面に圧着されて大きな摩擦が生ずるため、抑止板が取付け片から脱落し難いとの効果がある旨認定していることは、当事者間に争いがない。しかるに、本件考案の明細書には、抑止板の面積の半分以上がカバー本体に圧着されて大きな摩擦が生ずるということにつき直接の記載がないことは、前掲甲第二号証から明白である。この点につき、被告は、明細書の記載から認めらるべき本件考案の構成から当然にそのようになると主張するので、被告の列挙する根拠につき順次検討する。

(1) 被告は、抑止板の面積の半分以上がカバー本体に圧着されることの根拠の一つとして、本件考案においては、抑止板が取付け片4、4を結ぶ線を軸ないし支点として、梃子の原理により、カバー本体の存する側と透明板の存する側との間にバランスをとつて双方に接触し押圧する構成である旨主張する。しかし、前掲甲第二号証によれば、明細書には、抑止板がカバー本体及び透明板と接触する仕方や力学的な原理につき何らの記載もなく、本件考案が当然に右主張のような構成のものに限定さるべき根拠も認められない。のみならず、右主張の如き構成であることから、当然に、抑止板の面積のうち、カバー本体と接触する部分が半分以上で、透明板と接触する部分がより小さくなくてはならないという必然的な関係も認め難い。何故ならば、抑止板の面積のうち、透明板と接触する部分の方が大きくても、透明板との間に生ずる圧力が取付け片の頭部を結んだ線を軸として抑止板を回転させるように働き、カバー本体に圧着する場合もあり、逆に、カバー本体と接触する部分の方が大きくても、常に右のような回転力が生ずるとは限らないからである。

また、透明板を固定することができて、破損が少なく、特に端縁を抑える枠を必要としないという作用効果を奏するためには、カバー本体に固定された抑止板が透明板と接触して受け縁から透明板が離脱しないよう抑止することができれば十分であつて、抑止板の面積のうち、透明板と接触する部分がカバー本体と接触する部分より小さいことによつて、はじめて右の作用効果が生ずるものではなく、面積比が逆転しても同様の効果が生じうることは明らかである。したがつて、右のような作用効果が明細書に記載されているとしても、これを根拠にして、抑止板の半分以上の部分がカバー本体に圧着されることになると解することはできない。

さらに、被告は、本件考案において抑止板の面積の半分以上がカバー本体に圧着されることになる根拠として、受け縁の上下の幅が小さいものに限定されており、抑止板が受け縁から内方窓孔側にはみ出てはならないことをも挙げている。しかしながら、前掲甲第二号証によれば、右の如き根拠については明細書に全く記載されておらず、むしろ明細書の添付図面第1図及び第2図には、抑止板の端縁が受け縁の内方窓孔側にはみ出ている実施例が示されているから、被告の主張は理由がない。

(2) 被告は、明細書の記載上、抑止板の切込みの深さが限定されていると解されるから、抑止板の面積の半分以上がカバー本体と接触することになる旨主張する。本件考案においては、その構成上、取付け片の位置、抑止板の切込みの深さと挿入の方向、程度等によつて、カバー本体と接触する抑止板の面積が定まることが認められる。しかし、前掲甲第二号証によれば、明細書の記載中には、取付け片の位置、抑止板の切込みの深さと挿入方向等につき記載した部分がなく、かえつて、添付図面の第1図及び第4図には、抑止板が窓孔の外方から内方に向つて挿入されているにもかかわらず、抑止板の切込みは明らかに抑止板の幅の半分以上の深さである構成の実施例が示されていることが認められるだけであるところ、これのみによつては、とうてい、本件考案において、常に抑止板の面積の半分以上がカバー本体と接触するということはできない。

なお、被告は、取付け片は抑止作用の支点となるため抑止板の幅のほぼ中央に位置することになり、また取付け片の突設位置は窓孔周縁部より上下の外側に位置するから、その結果として抑止板がカバー本体と接触する部分は透明板と接触する部分より大となる旨主張するけれども、前判示のとおり、取付け片が抑止板の縦幅の中央に位置しなければ抑止板が透明板を抑止できないわけではなく、また、本件考案の明細書では、取付け片の突設位置が窓孔周縁部より上下の外側でなければならないとの記載もないから、被告の右主張は採用できない。

(3) 被告は、取付け片の大径の頭部により、抑止板が透明板とカバー本体に圧着される旨主張するが、本件考案の明細書にはこのような構成につき明確な記載がない。

もつとも、明細書の考案の詳細な説明の欄には、「取付け片4の先端は抑止板7(6の誤記)を嵌めた後に加熱押圧することにより簡単に固定できる。」との記載部分があり、この記載の意味は、取付け片の先端を加熱するとともに押圧して取付け片の頭部に大径部を形成することを表わしていると解せられるが、さらに、取付け片頭部の加熱押圧により抑止板をも押圧する結果、抑止板を簡単に固定できる、すなわち抑止板がカバー本体に圧着されて固定されることをも表現していると解しうる余地がないわけではない。しかし、同欄には、抑止板の切込みをL字形にしておけば、この屈曲のためにネジに引掛つて簡単に離脱しない効果がある旨の記載もあることや、実用新案登録請求の範囲では、抑止板をカバー本体に固定する方法として、抑止板の切込みに取付け片を嵌める手段が記載されているのみであることに照すと、必ずしも抑止板がカバー本体に圧着されなくても、取付け片に係止され固定しうるから、本件考案は、抑止板がカバー本体に圧着され大きな摩擦が生ずるという構成に限定されているわけではない。

以上のとおりであるから、本件考案において、抑止板の面積の半分以上がカバー本体裏面に圧着されて大きな摩擦が生ずるため抑止板が取付け片から脱落し難いという効果があるとした審決の認定は誤りである。もつとも、前記の明細書の記載からすれば、抑止板が取付け片から簡単に離脱しないことが認められるから、抑止板が取付け片から脱落し難いとした審決の認定部分は格別誤りがないともいえるが、この作用効果は、二部材の固定手段を開示している第二引用例及び第七引用例から示唆されている抑止板とカバー本体との固定方法を採用することにより当然に生ずる効果であつて、審決が、これをもつて、本件考案の有する特段の作用効果であるとしたことは誤りである。

2  審決が、本件考案の作用効果として、大径の頭部を有する取付け片と抑止板とによつて透明板を確実に抑止しうることを認定していることは、当事者間に争いがない。

被告は、取付け片の大径の頭部が抑止板を透明板に平面的に圧着するから、透明板を確実に抑止するとの効果が生ずる旨主張するが、明細書には、抑止板が透明板を平面的に圧着するということにつき直接の記載がなく、抑止板と透明板がいずれも平面的な板であるとの理由から、当然に抑止板が透明板を平面的に圧着するということもできない。また、明細書中の考案の詳細な説明の欄に「加熱押圧」なる文言が記載されていることについても、前示のとおり、これは本来、取付け片の頭部に大径部を形成する手段を表わしているものであり、仮りにこれが頭部を加熱押圧することにより抑止板もカバー本体に圧着されて固定されることをも意味するとしても、実用新案登録請求の範囲の記載からすれば、本件考案がこのような構成に限定されているとは到底解し難いから、本件考案において、常に抑止板がカバー本体や透明板に圧着されるとは限らないというべきである。

ところで、前掲甲第二号証によれば、本件考案の明細書中、実用新案登録請求の範囲の欄には、「長い抑止板を受け縁に嵌めた透明板の端縁に裏面から当てて、切込みに取付け片を嵌めて透明板を抑止するようにした」旨の記載があり、また、考案の詳細な説明の欄には「透明板の端縁は長い抑止板で抑えられるから破損が少ない。したがつて特に透明板の端縁を抑える枠を必要としない。」との記載があることが認められ、これらの記載内容からすると、本件考案においては、被告の主張する如く取付け片の大径の頭部が抑止板を透明板に平面的に圧着するとは限らないものの、取付け片に嵌められてカバー本体に固定された長い抑止板が、受け縁に嵌められた透明板の裏面端縁附近において接触し(但し、前記のとおり、その接触の仕方が必ずしも平面的に圧着されるとは限らない。)、透明板が受け縁から離脱しないよう抑止するものであることが認められるから、本件考案は、右認定の限度において、透明板を確実に抑止する効果を奏するものということができる。

しかしながら、前掲甲第三号証の一、二によれば、第一引用例に示されている計器函においても、カバー本体に熔着された受け金に嵌入された長い抑止板が、受け縁に嵌められた透明板の裏面下端縁附近において接触し(但し、その接触の仕方は本件考案の場合と同様に必ずしも平面的に圧着されるとは限らない。)、透明板が受け縁から離脱しないように抑止することが認められる。したがつて、本件考案と第一引用例との間においては、抑止板をカバー本体に固定する手段方法に差異があるけれども(この点に関しては、すでに判断したとおりである。)、カバー本体に固定された長い抑止板が、受け縁に嵌まつている透明板の裏面端縁附近において接触することにより、透明板を受け縁から離脱しないように抑止するという点においては格別の差異がなく、右の作用効果及びその程度は、本件考案に特有のものであるということはできない。

三  よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容する。

〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。

合成樹脂製のカバー1に設けた窓孔2の周縁に受け縁3を形成し、その窓孔2の周縁部の背側にカバー1と一体に合成樹脂をもつて抑止板6の取付け片4、4を突設し、その先端に大径の頭部4′を形成し、取付け片が嵌まる程度の幅の切込み5を有する長い抑止板6を受け縁3に嵌めた透明板7の端縁に裏面から当てて、切込み5に取付け片4を嵌めて透明板7を抑止するようにした計器函の合成樹脂カバー

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