大判例

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東京高等裁判所 昭和48年(行コ)27号 判決 1976年5月27日

控訴人

飯島産業株式会社

右代表者

飯島恒治郎

右訴訟代理人

鈴木稔

外一名

被控訴人

千葉県地方労働委員会

右代表者

新垣進

右訴訟代理人

田口二郎

外二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一当裁判所もまた結論において原判決と同一に判断するものであり、その理由は次に附加訂正するほか原判決の理由と同一であるから、これをここに引用する。

二当事者の追加について

控訴人は、本件救済命令手続において、被控訴人がすでに各解雇退職の日から一年以上経過した角田謙治郎、石橋健をその当事者として追加したのは労働委員会規則(以下労委規則という)三四条一項三号に違反し、したがつて、本件救済命令は取消されるべきであるという。

前記引用の原判決認定の事実によると、角田に対する懲戒解雇は昭和三九年三月三一日、石橋に対する退職の取扱いは同年二月一六日であり、本件救済命令手続は当初飯島産業労組が申立人となり右各日時より一年以内に申立てられて開始され係属したが、その後昭和四〇年三月三〇日本件組合及び角田、石橋両名から当事者として右両名を追加する申立がなされ、被控訴人が同年九月九日労委規則三二条の二に基づきこれを認容し、申立人として角田、石橋を追加する旨決定したものある。労委規則三二条の二による当事者の追加は、すでに申立によつて開始された救済手続中に、当事者その他の関係者から申立があつたとき又は労働委員会の会長が必要と認めたとき公益委員会議の決定によりなされるものであるが、いずれの場合も当該事件開始後の情況、審理の経過、事情の変更等により事件の解決に予定される救済命令の実効性を期するためその命令の効力を直接に受けてその履行を実現するべき地位にある者を申立人又は被申立人たる当事者として確保するとともに、この者にも当該手続において陳述、立証等の機会を保障する必要があるところから定められたものと解される。従つて右当事者の追加があつたとしても、もとよりあらたに別個の救済申立事件が追加開始されるものではなく、当該事件の同一性は前後変らないものというべきであるから、追加されるべき当事者の関係で、労委規則三四条一項三号の救済申立期間すなわち行為の日から一年以内であるかについては、当該事件の当初の申立の時を基準として判断すべきであり、申立又は職権による追加決定の時を基準として判断すべきではないと解するのが相当である。本件において、前記事実によると、本件救済命令申立時は、角田、石橋ともなお解雇、退職取扱の日から一年以内であるから、右説示により、被控訴人のした当事者追加決定に違法はない。この点についての控訴会社主張は失当である。

三角田の本件救済命令申立に関する

組合代表資格について

控訴会社は、角田には飯島産業労組を代表して本件救済命令申立をする代表資格がないのにそれがあるとしてした本件救済命令は違法で取消を免れないという。

原判決理由第二の三1の冒頭証拠摘示のうち<原判決中要訂正部分省略>と訂正するほか、この点の認定判断は原判決理由と同一である。なお、木村、山崎両課長が控訴会社代表者の失脚を策した事実があつたとしても、飯島産業労組の昭和三八年八月一七日の大会の役員選挙の効果を左右するものではない。もつとも組合は発足したばかりであり、幹部も未熟であつたため右大会の招集、役員の選出手続等において若干不備の点があることは否めないが、当時穴澤執行委員長が組合の役員としての地位を放棄し控訴会社にも出勤せず、伊藤芳明ら四名の執行委員がその任務を怠り事実上その地位から離脱し、その他引用の原判決認定の状況の下でなされた緊急の大会であり、役員の選出であつて、たとえその間組合規約の明文には字義どおりそわない点でかしがあつたとしても実質的に違反するものではなく、その意味でこれが当然無効であるとする理由はなく、その大会は有効に開催され、役員として角田執行委員長ほか執行委員等を選出したこともまた有効であるというのを妨げない。そして、後述四のように、昭和三八年九月一〇日に開かれた組合の大会は本件組合の組合員の多くが分離して別に事実上いわゆる第二組合として分裂した組合に結集して開かれた大会であるから、それによつても角田は分裂前の本件組合の執行委員長の地位を失わず、本件救済命令申立の当時本件組合につき角田以外の者が執行委員長に選任されていないので、任期終了後も引続き本件組合の執行委員長の職務を行ない、その代表資格を有していたものというべきである。したがつて、角田が飯島産業労組の代表者として本件救済命令申立をしたのは適法であり、前記控訴会社主張は失当である。

四本件救済命令手続の通知聴聞について

控訴会社は、被控訴人が本件救済命令手続を進めるにつき飯島産業労組の正当な代表者である穴沢竜男に対し通知をせず聴聞の機会を与えなかつた違法があり、本件救済命令は取消されるべきであるという。

この点に関する認定判断は、原判決理由第二の四1冒頭及び末尾記載の証拠関係を前記三と同一に訂正するほか、原判決理由第二の四1ないし3と同一に判断する。

五角田の懲戒解雇、石橋の退職取扱について

控訴会社は、角田に対しては、昭和三八年一〇月ころから五か月余にわたる無断欠勤をしたことが、就業規則五三条二号の正当な事由がなく引続き一〇日以上欠勤したときは懲戒解雇できる旨の規定に該当するため懲戒解雇したものであり、また、石橋は昭和三九年二月一六日自らの意思で任意に退職届出をしたので退職取扱いをしたのにすぎないから、本件救済命令には事実誤認の違法があり取消を免れないという。

原判決理由第二の五1冒頭の<要訂正部分省略>を前記三と同様に訂正し、原判決理由第二の五1の(一)ないし(五)と同一の事実認定をする(但し、(四)の八行目の「伊藤千明」とある部分を「伊藤芳明」と訂正する。)<証拠判断省略>。その他控訴会社の立証をもつてしても、右引用の認定を左右することはできない。

右引用の事実によると、控訴会社代表表者飯島恒治郎は、角田が飯島産業労組を結成した中心人物で、書記長としてのちには執行委員長として熱心に組合運動をしていたのを嫌悪し、その組合運動を阻止するためたまたま組合結成の当初でまだ十分その組織が固まらず、組合員にも動揺があつたところから「眼をさます」と称して同人ら積極分子を休職とし、休職期間経過後出勤した角田を、業務上の組織変更を名目として従前の販売係長見習から年令体力に不相応で激しい肉体労働を要求される配達兼倉庫係に配置転換した上厳しくその作業状況を監視し、角田が休職、配置転換の不当を訴え地域の上部労組機関である地区労の応援を得て団交をしたところ、角田の出勤を妨害しいやがらせを行ない、控訴会社の意を体する穴澤などにいわゆる第二組合を作らせて角田の従業員に対する発言力を封じ、角田を事実上企業外に排除し、欠勤するほかない状況に追い込んでこれを放置した後、その欠勤を無断欠勤として懲戒解雇したもので、控訴会社側の右のような態度がなければ角田の欠勤もなかつたであろうことは明らかである。したがつて、右解雇は、結局において角田が正当な労働組合の行為をしたことを理由に不利益差別をしたものであり、労働組合法七条一号の不当労働行為にあたり無効であるといわざるをえない。同旨の判断の下に角田に対する関係で本件救済命令を発した被控訴人の処分には何らの違法はなく、この点についての控訴会社主張は理由がない。

次に、石橋の退職取扱いについてみるのに、控訴会社代表者飯島恒治郎は、石橋が昭和三八年八月一七日の臨事大会以来角田とともに組合執行委員として活発な組合活動をし、控訴会社代表者の石橋に対する組合脱退勧告を同人が拒否したことから同人を嫌悪し、前同様組織変更を名目として販売課主任から業務課配達係に配置転換し、角田と同様、他の者よりも厳しい監視をし、第二組合分裂後は控訴会社内で組合活動をしえなくし、出勤を妨害し事実上企業外に排除し欠勤するほかない状況に追い込み欠勤させ、石毛や控訴人の意を体した従業員などを通じ退職を強く求め、家族に強迫的言辞を用いて畏怖させ、そのため、石橋はやむを得ず退職届書を作成し郵送するにいたつたものであり、本来このようなことがなければ引続き控訴会社に止まるべきところで退職はその本意でなかつたことは明らかである。従業員が正当な労働組合活動をしたことを理由に、使用者から不当な配置転換、出勤妨害、退職強要などを受けて、事実上企業外に排除され、欠勤のやむなきにいたつた後不本意ながら退職届を提出した場合には、使用者が、従業員の提出した退職届に基づき退職の取扱いをしたとしても、それは労組法七条一号の組合の正当な行為をしたことを理由として不利益な取扱いをしたことにあたり不当労働行為として無効であると解するのが相当である。思うに、右のような場合の退職の申出は使用者の組合活動嫌悪に起因し、それなければなかりし関係にあるものであつて、結果的に使用者の組合運動を理由とする懲戒解雇とほとんど同一の効果を有するものである。本件において、前記事実によると、控訴会社が石橋の提出した退職届に基づき任意退職の取扱いをしたことは、右説示の点から労組法七条一号の不当労働行為にあたり無効であるというのを妨げない。これと同旨の判断をして被控訴人が石橋に関する本件救済命令を発したことは何らの違法もなく、この点の控訴会社主張も理由がない。

六結論

よつて本件救済命令の取消を求める控訴会社の本訴請求は失当として棄却すべきところ、これと同趣旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないのでこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(浅沼武 田嶋重徳 高木積夫)

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