大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

東京高等裁判所 昭和48年(行コ)40号 判決 1974年9月18日

控訴人

株式会社初田製作所

右代表者

福島保一

右訴訟代理人

小松正次郎

被控訴人

特許庁長官

斎藤英雄

右指定代理人

玉田勝也

外三名

主文

本件控訴は、棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

控訴代理人は、「原判決を取り消す。控訴人が昭和四六年二月三日にした特許第四四三、一五七号及び特許第四五二、六六七号に関する各第七年分特許料及び割増特許料並びに各第八年分及び第九年分特許料納付について、被控訴人が昭和四六年一〇月一九日付でした不受理処分は、取り消す。訴訟費用は、第一・二審とも、被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴指定代理人は、主文第一項同旨の判決を求めた。

第二  当事者の主張及び証拠関係

当事者双方の主張並びに証拠関係は、次のとおり付加するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、ここに、これを引用する。

一  控訴人の主張

民事訴訟法第一五九条は、不変期間を懈怠した場合、裁判の確定等重大かつ決定的な効果を生ずることにかんがみ、当事者に不測の事態が発生し、この期間を遵守できなかつたときには、衡平の理念に基づき、「其ノ事由ノ止ミタル後一週間内ニ限リ懈怠シタル訴訟行為ノ追完」をすることを認めたものである。しかして、不変期間とは、法律が特にその旨明記したものとするのが通説であるが、それ以外の期間であつても、例えば上告理由書提出期間や再抗告理由書出期間、更には上訴審における民事訴訟法第二三八条に規定する期間については、その徒過により裁判の確定等の重大かつ決定的な効果を生ずるから、これらの期間についても同法第一五九条の規定の類推適用が認められるべきである(なお、上告理由書の提出期間や再抗告理由書の提出期間については、同条の類推適用を認めた下級裁判所の裁判例がある。)。特許料等の追納期間についても、この期間の徒過が特許権の消滅を来し、重大かつ決定的な効果を招来することを考えると、当事者の責に帰しえない事由により、追納期間を遵守することができなかつたときには、同条の規定の類推適用を認めるべきである。

2 民事訴訟法第一五九条にいう「其ノ責ニ帰スヘカラサル事由」とは、当事者が、当該の場合に行為者として通常すべき注意を払つたにもかかわらず、避けることができなかつたと認められるような事由をいうものと一般に解せられており、これを本件についてみるに、控訴代理人の、控訴会社宛、昭和四五年九月一〇日付、特許第四四三、一五七号及び特許第四五二、六六七号に関する「特許料追納期間の件」と題する文書は、その二、三日後には控訴会社経理課が受領し、同月一四日、同課より同会社の生産技術課に回付され、同課生産技術部長Kの決裁、承認を経て、同課課長代理Sを通じ、当時、同課員であつたTが控訴代理人宛の特許料、割増特許料立替納付方の依頼状案文を作成し、S課長代理の承認を得て、同月一七日午後五時半過ぎに、普通郵便として、投函したものであるところ、右発信当時、全逓の争議があつた事実はなく、また、暴風雨があつたわけでもないから、控訴会社において郵便事故(遅延や紛失)の発生を全く予想しえなかつた実情にあり、また、このような書面は普通郵便で発信するのが、特別の事情のない限り、郵便に信頼を置く一般国民の通念というべきであるから、書留郵便に付さなかつたからといつて、控訴会社に過失があつたものということはできない。控訴会社の控訴代理人宛の前記依頼状は、少なくとも同月二〇日ごろまでには控訴代理人に到達すべかりしものであるにかかわらず、本件各特許権の第七年分特許料の追納期間の満了日である昭和四五年一〇月六日までに控訴代理人事務所に到達せず、郵便事故(紛失)のため、ついに追納期間を徒過するに至つたものであり、これは当事者の「責ニ帰スヘカラサル事由」に基因したものというほかない。また、控訴会社が弁護士や弁理士に特許庁に対する特許料等の立替納付手続を依頼したこと自体について、控訴会社に何ら過失があるものではない。

二  被控訴人の主張

控訴人の前記主張事実中、本件各特許の第七年分の特許料追納期間の満了日がその主張の日であり、また、控訴人主張のころ全逓の争議や暴風雨がなかつたとの事実は認めるが、その余は争う。

三  証拠関係<略>

理由

(争いのない事実)

一控訴人が本件各特許権の第七年分の特許料をその納付期限である昭和四五年四月六日までに、また、その追納期限である同年一〇月六日までにいずれも納付しなかつたこと、並びに控訴人が、昭和四六年二月三日、本件各特許権の第七年分の特許料のほかに割増特許料を添えて追納手続をするとともに、第八年及び第九年分の特許料の納付手続をしたところ、被控訴人がこれに対し同年一〇月一九日付で控訴人主張の不受理処分をしたこと(ただし、右処分の理由中本件各特許権につき、「第六年分特許料不納により」とあるのは、「第七年分特許料不納により」の明白な誤記と認める。)は、いずれも本件当事者間に争いがない。

(本件不受理処分を取り消すべき事由の有無について)

二特許法第一一二条第一項に規定する追納期間については、民事訴訟法第一五九条の規定を類推適用することはできないものと解するを相当とするから、同法条の類推適用を前提とする控訴人の主張は、理由がないものといわざるをえない。すなわち

特許法第一〇八条第二項本文及び第一一二条の規定によると、第四年以後の各年分の特許料は、原則として前年以前に納付することを要し、この期間内に特許料を納付することができなかつた場合には、その期間が経過した後であつても、その期間の経過後六月以内に限り、その特許料とともに特許料と同額の割増特許料を納付することにより(すなわち、正規の特許料の二倍の料金を支払うことにより)、特許権の消滅を免れることができ、もし、この追納期間中に特許料及び割増特許料を納付しなかつたときには、特許料の納付期限の経過の時にさかのぼつて特許権は消滅したものとみなされるべきことが定められており、右追納期間を更に懈怠した場合については、特許法に何ら規定するところがない。

控訴人は、右追納期間については、その期間の徒過により特許権の消滅という重大かつ決定的な効果を生ずることにかんがみ、民事訴訟法第一五九条の規定が類推適用されるべきである旨主張する。しかしながら、民事訴訟法第一五九条は、訴訟行為に関する不変期間を懈怠した場合に関する規定であり、通常、不変期間が主として裁判に対する不服申立期間として、その期間の徒過が裁判の確定というような重大かつ終局的な結果を招来し、しかも、この期間が裁判書送達の日から二週間というように、比較的短かい期間として定められているため、当事者の責に帰しえない不測の事態によりこの期間を遵守しえなかつた場合に酷な結果を生ずるので、衡平の見地から、救済手段として設けられたものと解されるところ、特許法第一一二条第一項の追納期間については、特許法上これが不変期間である旨を明記した規定はなく、また、この追納期間は、パリ条約(一九〇〇年一二月一四日にブラッセルで、一九一一年六月二日にワシントンで、一九二五年一一月六日にヘーグで、一九三四年六月二日にロンドンで、及び一九五八年一〇月三一日にリスボンで改正された工業所有権の保護に関する一八八三年三月二〇日のパリ条約をいう。)第五条の二第一項にいう猶予期間として、同法第一〇八条第二項本文に規定する期間又は同法第一〇九条の規定による納付の猶予後の期間を徒過した後、更に六月以内を限り認められるものであり、期間としては相当に長く、かつ、十分な余裕があるものといえるから、特に重ねて手続の追完というような救済手段を認めなくても特許権者にとつて酷に過ぎるものとはいい難い(このように、いわば二段構えに付与された納付のための期間をすべて徒過した特許権者に、更に追納の追完を認め、なおその独占の座を保持させなければならない合理的な根拠を見出すことは、むしろ困難である。)。のみならず、特許法が、特許料の納付期間のうち、第一〇八条第一項及び第二項ただし書に規定する期間については、追納期間を設けることなく、その期間の延長を認める規定(同法第四条第一項、第一〇八条第三項)を設けているに対し、同法第一〇八条第二項本文に規定する納付期間及び同法第一〇九条の規定による納付の猶予後の期間については、そのような延長を認める規定を設けずに、追納期間を設けることとしていることにかんがみると、追納期間は、猶予期間として、納付期間を経過後の救済的措置として認められたものとみるを相当とすること、更に、同法第一二一条第二項(拒絶査定に対する審判請求手続の追完)、第一二二条第二項(補正の却下の決定に対する審判請求手続の追完)及び第一七三条第二項(再審の請求手続の追完)の規定において、請求者がその責に帰すことができない理由により、その請求期間内に請求をすることがでないときは、その理由がなくなつた日から一四日以内で各請求期間の経過後六月以内に手続の追完をすることができる旨を定め、民事訴訟法第一五九条と同趣旨に由来する規定を設けながら、特許料の追納期間については、前示のとおり、その旨の規定を置かず、しかも、手続の追完を認めた叙上各条項においても、民事訴訟法第一五九条の規定と異なり、請求期間経過後六月後は、その徒過が請求者の責に帰すべき事由によると否とを問わず、一律に手続の追完ができないこととした法意(これが特許に関する行政行為の効力をできるだけ早期に確定せしめ、法律関係の安定を図らんとする趣旨に出たものであることは明らかであり、この意味においては、訴訟手続に関する不変期間の不遵守の場合と同日に論じうべきものではない。)を彼此勘案すると、特許料の追納期間については、その期間の徒過理由の如何を問わず、納付手続の追完を認めない趣旨と解するのが、特許法の定むる規定の文言及び制度の趣旨に合致するものであり、これと趣旨を異にする訴訟手続の追完に関する民事訴訟法第一五九条の規定を類推適用する余地は全くありえないものというべきである。控訴人の前示主張は、これらの本質的ともいうべき差異に思いをいたさず、安易にその類推適用を是認する見解に立脚するものであり、到底採用しうべき限りではない。

(むすび)

三叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に本件不受理処分の取消を求める控訴人の本訴請求は、進んでその余の点について判断するまでもなく、失当として棄却すべきものである。したがつて、結論において、これと同趣旨に帰する原判決は、結局、正当であるから、本件控訴はこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法第七条並びに民事訴訟法第九五条及び第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(三宅正雄 中川哲男 武居二郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例