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東京高等裁判所 昭和48年(行コ)77号 判決 1974年12月23日

神奈川県足柄上郡松田町神山八九番地

控訴人

中村誠一

神奈川県小田原市本町一丁目二番一七号

被控訴人

小田原税務署長

右指定代理人

伴義聖

丸森三郎

内海一男

高崎久男

右当事者間の、更正課税処分取消等請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人の昭和四三年度分所得税について、昭和四四年一〇月三一日付でした更正処分のうち、国税不服審判所長の審査裁決によつて維持された部分は、これを取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被告訴人の負担とする。」との判決をもとめ、被控訴人は主文どおりの判決をもとめた。

二  当事者双方の事実上の主張は、控訴人において、「(1)税務当局が本件更正決定をするに当たり、租税特別措置法(以下単に法という。)第三三条の二第三一条(収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例に関する規定)を適用しなかつたことが税法の乱用であつて違法である。(2)右更正決定において一時所得に当たるとされたもの(原判決第二当事者の主張二の(二)の(6)(7)(8)の補償金)についても、少くとも、法第三三条(収用換地等の場合のその他の特例に関する規定)を適用すべきであつたのに、税務当局がこれを適用しなかつたことは違法である。」との趣旨に解される主張(控訴人の当審における主張は、明確を欠くが、原審における主張に付加して、当審において新たに主張したところは、以上の二点につきるものと解される。)をしたほかは、原判決事実欄記載のとおりであるから、ここに、これを引用する。

三  証拠の関係は、次に付加するほかは、原判決「証拠」欄記載のとおりであるから、ここに、これを引用する。

控訴人は、甲第二三号証、第二四号証の一、二、第二五号証の一ないし三、第二六号証の一、二、第二七号証の一ないし四、第二八号証の一ないし六、第二九号証の一、二、第三〇号証の一ないし五、第三一号証の一ないし九、第三二ないし第三六号証、第三七号証の一ないし四、第三八号証の一、二、第三九ないし第四一号証、第四二号証の一ないし三を提出し、被控訴人は、甲第二三号証、第二四号証の一、第二五号証の三、第二七号の一の官署作成部分以外の部分、第二七号証の三および四、第二九号証の一、二、第三〇号証の一ないし五、第三一号証の一ないし九、第三二号証、第三四号証の官署作成部分以外の部分、第三五、三六号証の各成立は不知、その他の甲各号証(但し、第二七号証の一、第三四号証については、いずれも官署作成部分)の成立は認めるとのべた。

理由

(一)  原判決理由の記載は、「原告」を「控訴人」と、「被告」を「被控訴人」と、それぞれ読みかえるほか、次の訂正を加えて、すべて、これを引用する。

(1)  原判決一一枚目表八行目中の「原則として」を削る。

(2)  同一二行目から同裏六行目までを、次のとおり改める。「もつとも、成立に争いのない甲第一一の一、に原審における証人若林正二、同宇井儀一の各証言及び原審における控訴人本人尋問の結果を合わせ考えれば、本件においては、公団は、初めに「特定公共事業用資産の買取り等の申出証明書」と題する昭和四一年九月二〇日付書面(これには、買収対象物件を特定するため、その所有者所在地番、物件の種類、数量等の記載があるが、買取り申出価額は記載されていない。)を控訴人を含む関係者に配布した上で、爾後買取りの交渉を進めたことがうかがわれるのであるが、このような場合、法第三三条の二第二項にいう「最初に当該申出のあつた日」とは、右の書面を配布した時点を指すものであるか、それとも、公団の側から買収交渉の基礎となるべき相当の買取り申出価額(別の言葉でいえば、客観点にみて、明らかに不合理、不誠意な申出と認められるようなものでない申出価額、すなわち一応合理的な、誠意のうかがわれる申出価額)が提示され、実質的に買取りの交渉が開始されたと認められる時点を指すものであるかは、解釈上疑義がないではない。しかし、仮りに後の見解をとるとしても、成立に争いのない甲第二八号証の一ないし六、本件口頭弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二、第一二号証、及び前掲各証人の証言を合わせ考えれば、控訴人を除くその余の関係者(これらの関係者は団体を結成して公団との交渉に当つていたが、控訴人は、この団体に加わることを拒んでいた。)との間で買取りの契約がまとまつた昭和四二年三月末項までには、遅くとも同年一二月末までには)控訴人に対する関係においても、買収交渉の基礎となるべき相当の買取り申立価額の提示があつたと認めるに十分である。この認定に反する前掲控訴人本人尋問の結果は、右証拠と対比して信用しがたく、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。ところが成立に争いのない甲第二二号証(同第一一号証の二)によれば、公団と控訴人との間で、控訴人所有の対象物件の買取りにつき和解が成立したのは昭和四三年八月一六日であつたことが明らかであるから、いずれの見解をとつても、控訴人は、法第三三条の二の特例の適用を求めることのできないことは明らかである。従つて、被控訴人が本件更正決定を行なうに当たり法第三三条の二を適用しなかつたことは、なんら違法ではなく、もとより税法の乱用を云為すべきものではない。」

(3)  原判決一二枚目二行目以下を、次のとおり改める。

「三 控訴人は、動産移転料の補償一二万八、一八〇円、仮住居費用の補償八二万二、三九〇円及び移転雑費の補償二四万八、一〇〇円について少くとも法第三三条が適用されるべきであると主張するが、これらの所得は、性質上、一時所得に当たるものと解されるので、譲渡所得についての特例を定めた法の規定が適用されないことは明らかである。従つて被控訴人がこれを適用しなかつたことは、なんら違法ではない。

四 控訴人は、税務当局が本件更正決定をするに当たり法第三一条を適用しなかつたことは税法の乱用であり、違法であると主張する。しかし、法第三三条の特例の適用を求めるか、法第三一条の適用を求めるかは、納税義務者の選択にかかるものであるところ、控訴人が昭和四三年度の確定申告書に「法第三一条の適用を受けようとする旨」を記載して(同条第五項)その選択をしたことについても、また、同条第二項の所轄税務署長の承認を受けていたことについても、控訴人は、なんらの主張立証をしていないのであるから、被控訴人が控訴人につき法第三一条を適用しなかつたことを違法とすべき理由はなく、もとより税法の乱用を云為し得べきものでないこというまでもないところである。」

(二)  してみると、控訴人の請求は理由がなく、これと同旨の結論をとる原判決は正当であるから、本件控訴は棄却されるべきものである。

よつて、訴訟費用については、民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 白石健三 裁判官 小林哲郎 裁判官 間中彦次)

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