大判例

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東京高等裁判所 昭和49年(う)1193号 判決

被告人 正木進

〔抄 録〕

論旨は、原判決は、被告人は弁護士でないのに、報酬を得る目的で、業として、小林の依頼により同人の松本に対する債権の取立に関する法律事務を取扱った旨認定しているが、被告人は、一回だけ好意的に知人間の民事行為に介入したにすぎず、本件については、被告人に報酬を得る目的も、「業として」の意思もなかったのであるから(特に「業として」ということに関しては、本件が弁護士法七二条の解釈に関し昭和四六年七月一四日に最高裁判所の判例が変更される前に起訴されたものであるため、全く証拠が集められていない)、原判決は右の点において、事実を誤認し、証拠に基づかずに有罪の認定をし、かつ法令の適用を誤ったもので、右の各違法はいずれも判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。

そこで原判示(二)の事実について挙示された各証拠に基づいて右事案を概括してみると、次のような事実関係が認められる。

(一) 被告人は、極東組下田支部に属し露店商を営んでいた者であるが、昭和四五年五月頃、金に困り、知り合いの土建業者松本正勝に対し、何か儲け仕事はないかと尋ねたことがきっ掛けとなり、同人から「三洋開発」という会社に対する下請工事代金の回収のため、上京して弁護士を依頼することにつき了承を取り付け、旅費として金一万円を貰い奔走したことがあった、

(二) 右の件は不首尾に終ったが、被告人はそのような機会に、右松本が被告人の知り合いの土建業者小林幸雄に対し、松本所有のブルトーザーの使用代として相当多額の未回収分を有していることを聞知していたところから、松本からはその回収につき何らの依頼も受けていないのにかかわらず、同年七月一二日頃、右小林に対しブルトーザー使用料として金四五万円の支払を要求し、小林が、むしろ松本に対しては下請工事代金約八五万円分の請求金額があるゆえ、差し引き勘定によっても、右支払に応じ難い旨を説明し、一旦これを断わるや、先ず小林側において右ブルトーザー使用料を支払えば、小林側のために松本に対して工事代金を請求してやるにつき、右支払に応じて欲しいと説得し、その結果、被告人は、小林をして金一五万円だけ支払うことを承諾させた。そして同月一四日頃輩下の石橋昭を右小林方に差し向けて、小林から原判示(一)摘示の額面一五万円の小切手を受け取らせ、これを現金化した一五万円を入手したのであるが、翌一五日の夕方頃その中の金一万円を、礼金として石橋に与え、残りの分も二、三日中に自分の商売の資金などとして費消してしまった(原判示(一)の横領の所為)、

(三) 一方被告人は、右の経緯によって、今度は小林のために松本から下請工事代金約八五万円を取り立てることとなり、これに必要な委任状、請求書、印鑑証明書等を小林から徴したが、松本とは熟知の間柄であるため、自らは右取立の表面に立つことなく、かつては的屋に属していた宇津井央に、礼金一〇万円をもって右取立を引受けさせ、右宇津井が松本に面会して支払の請求をするに当っては、自らはその場に第三者の如く装って現われ、自分が松本側に立ち、減額を求めて仲に入るような形でひと芝居をうち、結局のところ、松本が被告人らの言に応じて金六〇万円に減額してもらうということで納得し、右金六〇万円を松本において小林に対して支払うこととなった、

(四) そして被告人は、原判示(二)のとおり、同月二五日頃に右金六〇万円(小切手と現金)を小林に渡すべきものとして松本から受取ったが、小林に対しては、右の金六〇万円という金額を秘し、松本からは金三五万円しか支払ってもらえなかったと申し述べて、自己の報酬分として金七万円を控除した金二八万円を手交しただけで、残りの金三二万円は全部(但しその中から宇津井に前記礼金一〇万円を交付)自己の手中に納めるに至った、

(五) 更に被告人は、前記金六〇万円の支払があった際、さきに小林からブルトーザー使用料として金一五万円を取り立てたことを全く知らない松本に対して、松本が小林に対して工事代金を支払うからには、自分が松本のために、小林からブルトーザー使用料を取り立ててもよろしい旨持ちかけて、松本からその旨の委任状や印鑑証明書等を受け取ったが、これまた自らは表面に現われず、輩下の者において同年八月初め頃小林方に金一〇〇余万円の請求に赴き、拒否されて不首尾に終っている(これを端緒に本件弁護士法違反の捜査が開始されたと認められる)、

なお被告人は右のほか、同じころ、石橋昭とともに、知り合いの旅館の主人のために、同旅館のかつての従業員に対する貸金の取立に助力し、実際に動いた石橋がいくばくかの礼金をもらったことも、原判決掲記の前記証拠により認めることができる。

しかし、以上のような一連の経過や被告人の行動様式に照らして本件の実体をみると、極東組に属する被告人が金に困り、たまたま松本と小林との相互の間に工事に関係する未清算の債権債務のあることを知るや、これを利用し、好意を装って、その取立、回収という名の下に、自己の仲間や輩下の者を使ってひと儲けをたくらみ、原判示(一)については取立金の金額を、原判示(二)については取立金の半額以上を手中に納め、まんまとその実を挙げるに至ったということが、その主たる核心をなしていると認められるのであって、原判決は、右のようにして不当な利得をあげるに至った被告人の所為を、原判示(一)については、詐欺というよりは小林から取立てた金員の横領として、原判示(二)については、弁護士法七二条違反としてとらえたものである。

しかしながら、原判示(二)に関しては、本件が、右にみたように、取立行為をなすに至った動機・経緯、取立の態様、取立額のうち被告人の利得の占める割合などの諸点において、債権の取立としてはかなり特異性のある事案であることに鑑み、さらに、被告人が本件に関与する以前において、法律事務を取り扱ったという証拠もないこと、前記旅館の件も金額は低く被告人自身何らの報酬を得たわけではないことなどをも総合して検討すると、被告人が本件において、その過程に刑法犯に該当する行為があるか否かは別として、少くとも「業として」、つまり反覆継続する意思をもって法律事務を取り扱ったものと断定するのは証拠上やや困難であるといわざるを得ない。

(矢崎 大平 本郷)

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