大判例

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東京高等裁判所 昭和49年(う)1747号 判決

被告人 高木文士

〔抄 録〕

道路交通法七二条一項後段の規定が運転者等に対して報告を求めているのは交通事故の態様に関する客観的な事項のみに限られ、いやしくも事故発生者が刑事責任を問われるおそれのある事項の原因その他の事項を含んでいないから同条項が憲法三八条一項に違反しているといえないことは明らかである(所論引用の判例参照)。しかしながら、実際問題として報告者が当の事故発生者であることを、おのずから判明させることになる場合が極めて多く、このことと報告の相手である交通警察官が同時に司法警察職員でもあることを併せ考えると、右報告によって間接に警察官に犯罪発覚の端緒を与えることすなわち報告者を刑事責任に導く証拠連鎖の一環を提供することになるおそれのあることは否定しえない。したがって、右の規定が直接自己の犯罪事実の申告を求めていないとはいっても、それだけの理由で自己に不利益な供述を強要するものでないといい切るにはなお躊躇されるものがあるといわざるをえない。

そこで、この点を更に考えてみると、憲法三八条一項によって保障される自己負罪拒否の特権といえども、もとより絶対無制限なものではないところ、元来道路における車両の運転は公共の施設である道路を広い範域にわたって占有・利用し、しかも高速度で走行するのが常であるため、歩行者・他の車両等に重大な危害を及ぼす高度の危険を伴う行為であることは、そのため運転免許の制度がとられ一定水準以上の技術と知識を会得した有資格者でなければ運転が許されていないことからみても明らかである。このことにかんがみると、いやしくもこのように一般に対し重大な危害を及ぼす高度の危険を伴う車両運転を自らあえてする者としては、免許の有無を問わず、これに相応する義務を負担するのもやむをえないところであって、かかる運転者に対しその者に関係ある交通事故の発生をみた場合、道路交通の安全の保持・事故発生の防止・被害増大の防止・被害者救護の措置に万全を期するため、その態様に関する客観的事項を警察官に報告させることは、たとえそのことが間接には自己負罪拒否の特権すなわち黙秘権をなにがしかは侵害する結果になる場合があるとしても許さるべきものであり、この程度の黙秘権の制限は、車両を運転する者の黙秘権に内在する制約として是認されなければならない。それゆえ、論旨は理由がない。

(寺尾 丸山 和田)

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