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東京高等裁判所 昭和49年(う)2132号 判決 1974年12月04日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

<前略>

一、控訴趣意第一点(法令適用の誤りの主張)について。

所論は、原判決は、原判示第一の業務上過失傷害、同判示第二の一の救護義務違反、同判示第二の二の報告義務違反の三罪を併合罪の関係にあるとして、同判示第二の一の罪の刑に加重して処断しているが、右の救護義務違反と報告義務違反は、被告人の動態を自然的に観察すると、事故現場から離脱したという一個の行為であるから観念的競合の関係にあるというべきで、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤りがある、というのである。

そこで考えるに、原判示第二は、被告人は、原判示第一の日時、場所において、普通貨物自動車を運転中、横断歩道を歩行中の松本悦に自車を衝突させて、同女に同判示の傷害を負わせる交通事故を起したのに、一、直ちに車両の運転を停止して同女を救護する措置を講ぜず、二、その事故発生の日時、場所等法律の定める事項を直ちにもよりの警察署の警察官に報告しなかつたというもので、原判決挙示の諸証拠によると、被告人は、原判示第一のとおり、普通貨物自動車を運転し、時速約五〇キロメートルで進行中、横断歩道を歩行中の松本悦に自車を衝突させて、同女を自車のボンネットの上にはねあげたうえ路上に転落させ、同女に大きな傷害を負わせたと思つたが、思案に余つて、そのまま現場から離れようと考えて運転を継続し、二回左折して事故現場から約一〇〇メートル進行した地点で停車したところ、追跡してきた第三者に制止されて逃走をあきらめ、通報を受けてかけつけた警察官に逮捕されたものであることが窺われる。そこで、被告人の右の外形的態度を心理的物理的過程として考えると、なるほど一個の行為とみられなくはないが、救護義務違反の行為及び報告義務違反の行為はいずれも不作為であるとはいえ、決して何もしないというのではなく、前者は救護をしない意思的態度、後者は報告をしない意思的態度であつて、救護をする行為及び報告をする行為はそれぞれ行為の対象、方法を異にし、したがつて救護をしない態度、報告をしない態度もその時、場所を同一にする動態として現われるものではなく、社会的見解上は別個の行為と評価されるもので、本件のように被告人が自動車の運転を継続して現場から離れた外形的行為は右の救護をしない行為、報告をしない行為にそれぞれ並行する行為であるというべきである。このことは自動車を運転中、人を負傷させる交通事故を起し、その際自車も損壊してこれが整備不良車になつたことを知りながら運転を継続した場合、車両の運転行為は一個であるといつても、救護義務違反及び報告義務違反と整備不良車両の運転とは社会的見解上一個の行為であると評価することはできず、それぞれ並行する各別個の行為であるとみられることからして自ずから理解されよう。

したがつて、原判示第二の一の救護義務違反と同判示第二の二の報告義務違反は二個の行為であり、原判決がこれを併合罪の関係にあるとして刑の加重をしたのは相当であつて、同判決に所論のような法令適用の誤りがあるということはできない。論旨は理由がない。<後略>

(龍岡資久 片岡聰 福嶋登)

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