東京高等裁判所 昭和49年(う)455号 判決
被告人 菅貞人
〔抄 録〕
一 所論は次のように主張する。
本件私文書偽造、同行使被告事件において、偽造された私文書及び行使された偽造私文書はいずれも領収証であるところ、本件においてはこれらの領収証の原本ではなく、写が罪体証明の手段として提出されており、原判決は右写に証拠能力を認めて被告人菅らを有罪としているのであるが、開銀から押収された本件領収証の写が、いつ誰によって作成され、いつ開銀に提出されたか、この写に対応する原本がいずれであって、どのような資料に基づいて作成されたか不明であるといった事情にかんがみればその証拠能力を否定すべきであるのに、右領収証写に証拠能力を認めた原審は採証法則に違反し、判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反がある。
二 よって所論に対し検討を加える。
原審証人唐梨子清の供述(第一五回43・4・17)によると、本件領収証写(裁1―甲四の102)がいつ、何枚、どの分が提出されたものであるかは必ずしも明確ではないが、右唐梨子が開銀において共和製糖に対する八億円の資金交付に関する事務を担当していた昭和三九年九月二五日から昭和四〇年九月三〇日までの間に、開銀の行う資金交付や貸付けのための管理業務上の必要から数回にわたって共和側の田辺、藤川、栖原らから提出を受けたものであることが認められる。
また、原審証人栖原和夫(第六回、43・2・5)、同加瀬敏夫(第七回43・2・19)、同樽谷幸子(第九回43・3・11)の各供述によると、共和側では開銀に資金交付願を提出する際、使途明細書とそれに記載してある支払いに見合う領収証の写を添付していたこと、そのほかにも昭和四〇年二月ころから五、六月ころにかけて支払い一覧表とそれに対応する領収証の写を提出していること、これらの領収証の写は共和製糖本社にあった領収証の原本を複写機にかけて作成したものであって領収証の原本をそのまま複製したものであること、が認められる。
次に高野博(42・2・23付、42・2・24付)、丸山幸信(42・2・25付、本文一五枚のもの)、中森哲男(42・2・8付)、松浦武(42・2・9付)、加藤武彦(42・2・9付)、梯茂(42・2・9付)の各検面調書及び当審における被告人菅の供述(第一二回53・11・30)によると、昭和四一年九月はじめごろ、日本社会党の大森創造参議院議員が決算委員会において共和グループに対する融資にからむ不正問題について質問したこと、同月下旬ころ共和社内において同議員が再び同じ問題について質問するのではないかという不安が広がり、かつそのころ開銀から領収証の真偽を調査したいという申入れがあったので被告人菅、高野、丸山らはその対応策を相談した結果、領収証については共和製糖本社が東京都中央区日本橋蠣殻町一丁目九番地から同都同区日本橋室町二丁目一番地に移転した際紛失したことにし、開銀には偽造領収証を見せないことにしたこと、その後大森議員の追及がますます活発になって来たところから、高野は被告人菅と相談のうえ、偽造にかかる領収証と印鑑、架空伝票、架空帳簿などを焼却することにし、同年九月二六日ごろ高野が中森哲男らに手伝わせて共和製糖東京工場のボイラーでこれらを焼却したこと、この結果合計約一一〇通あったと思われる偽造領収証の原本が全て失われてしまったこと、が認められる。
しかし、前記認定のような経過で右偽造領収証のうち約四〇通の写が開銀に提出されており、そのうち三九通分の領収証の偽造・行使につき被告人菅らに対し本件公訴が提起されたものである。
結局本件領収証写(裁1―甲四の102)は、その写に対応する領収証の原本を被告人菅らが偽造行使したとして起訴されているものであって、証拠物の機械的複写の方法による写という性質を有するものであるところ、前記認定のようにこれらの原本は被告人菅らが焼却してしまったため法廷に提出することは不可能であり、かつ本件領収証写は共和製糖本社にあった偽造領収証の原本を複写機にかけて作成したものであって原本の内容をそのまま忠実に再現していると認められるから、具体的にいつ誰がその写を作成し、かつそれがいつ開銀に提出されたものか不明であったとしても、本件領収証写には証拠能力があるというべく、これらを証拠として採用した原判決にはなんら訴訟手続の法令違反はない。
(藤野 新関 小田)