東京高等裁判所 昭和49年(う)841号 判決 1974年6月27日
主文
本件控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数中八〇日を原判決の本刑に算入する。
理由
本件控訴の趣旨は、弁護人山田克己提出の控訴趣意書に記載するとおりであるから、ここに、これを引用するが、これに対する当裁判所の判断は、次のとおりである。
控訴趣意第一点法令違反若しくは事実誤認の主張について、
所論は、原判決は、原判示第一の渡部エミ子、同第二の長谷美智子に対する関係(但し同(二)の事実について)において、いずれも詐欺罪の成立を認め、被告人と同女らとの間には当時戸籍簿上婚姻関係があつても、被告人には本来のいわゆる婚姻意思を欠いていたのであるから、かかる事案においては刑法二五一条、二四四条前段の適用がないとしているが、被告人は、右渡部エミ子の場合も、長谷美智子の場合も、共に真実婚姻する意思のもとに、同女らと共に適式の婚姻届を了し、同棲のうえ、夫婦生活を送つていたものであるから、同女らに対する関係においては夫婦間の犯罪として刑法二五一条、二四四条前段の規定を適用すべく、従つて、右各事実については刑の免除の言渡をすべきである。というのである。
然し、原判決引用の当該事実関係の証拠、特に、原判示第一事実につき、被告人の検察官に対する昭和四八年七月三〇日付供述調書、同司法警察員に対する同年六月二七日付供述調書、渡部エミ子の司法警察員に対する供述調書、原判示第二事実につき、被告人の検察官に対する昭和四八年六月二六日付、同年七月三日付及び同月六日付供述調書、同司法警察員に対する同年六月一七日付、同月二二日付、同月二四日付及び同年七月九日付各供述調書、長谷美智子の検察官に対する供述調書によれば、被告人は、真実右渡部エミ子、長谷美智子と結婚して継続的に夫婦生活を営む意思はなく、同女らとの婚姻届を所轄区役所に提出しても、いずれ時期を見はからつて離婚離籍の手続をする意思であり、婚姻届を提出するというのは、専ら同女らをして、被告人と正式な婚姻関係にあり継続的に夫婦生活を営むことができるものと信用させ、その信用関係に乗じ、同女らを欺罔して金員を騙取するための手段としてなされたものであることが認定できるのである。そして、渡部エミ子との間には、所轄区役所において、昭和四七年六月一七日婚姻届をし、同年七月一日離婚届をしたこと、長谷美智子との間には、所轄区役所において、同年一〇月六日婚姻届をし、同年一一月八日迄戸籍簿上夫婦として記載されていたことは、関係証拠上明らかであるが、右両女との婚姻届はいずれも被告人が前記の意図のもとに、財物騙取の手段としてしたものであり、戸籍上の婚姻関係を作為したに過ぎないものであるから、被告人において、右両女と婚姻の意思のなかつたことはもとより、同女らにおいても被告人の真意を知つたならば被告人といずれも婚姻する意思はなかつたもので、婚姻はいずれも無効というべきであり、たとえ、その婚姻の無効が訴により明確にされない場合であつても、前記の如く財物騙取の手段として戸籍上の婚姻関係を作為したに過ぎない場合においては、戸籍簿の外観上婚姻関係が認められるとしても、その戸籍簿上の婚姻関係の存続する間に被告人が渡部エミ子、長谷美智子から金員を騙取した原判示第一、同第二の(二)の各事実について、刑法二五一条、二四四条前段の規定を適用し刑の免除をするということは、もともと夫婦間の財物の得喪に法が立ち入らないとした前記法条の趣旨にも反するものというべく、これと同旨に出た原判決には、記録上所論の如き事実誤認のかどの認められないのはもとより、刑法二五一条、二四四条の解釈適用を誤つた違法はない。論旨は理由がない。<以下略>
よつて、刑訴法三九六条に則り本件控訴を棄却することとし、刑法二一条により当審における未決勾留日数中八〇日を原判決の本刑に算入し、主文のとおり判決する。
(荒川正三郎 谷口正孝 時国康夫)
<控訴趣意省略>