大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

東京高等裁判所 昭和49年(ツ)94号 判決 1974年9月10日

上告人 株式会社日東通信社

被上告人 株式会社富士銀行

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由第一点について。

原審の適法に確定したところによれば、上告会社の代表者山田勝治は訴外オータライン電気工業株式会社代表者宮下静一郎の依頼を受けて同人と共に昭和三一年九月二四日被上告銀行荻窪支店に赴き、同所で右宮下に対し金一〇万円を貸し渡し、宮下は、訴外会社代表者印を届出印として右一〇万円を同支店に預け入れ、同支店から交付された訴外会社宛の定期預金証書裏面の元利金受領者氏名欄に訴外会社代表取締役宮下静一郎の記名印と右届出にかかる代表者印とを押捺して、これを上告会社に対する前記金一〇万円の借金の担保の目的で上告会社代表者に預けたというのであって、右原審の判断は挙示の証拠関係に照らし正当である。

所論は違憲に名をかりて原審の適法にした証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、または独自の見解に基いて原判決を非難するに帰し、採るを得ない。

同第二点について。

口頭弁論を再開するか否かは、原審の職権に属する事項であるから、所論は独自の見解を前提として原判決の違法をいうもので、採用することができない。

同第三点について。

所論は、定期預金証書所持人が預金証書の受領欄に預金名義人の正当の印鑑が捺印してある預金証書を提示した場合には被上告銀行はその支払いを拒絶することはできないという。

しかし債権の名義人と受取証書の持参人が異なる場合に債務者は必ずしも受取証書持参人に支払わなければならないものでないことは民法四七八、四八〇条の規定に徴し明らかであり、この理は銀行定期預金証書の場合であっても、なんら異なるものではない。所論は独自の見解を主張するものであって採るを得ない。

同第四点について。

所論は、本件預金は期間満了に伴い自由に譲渡しうるものであるという。

しかし原判決は本件預金債権につき上告会社に譲渡された事実は認めえないとしているのであるから、所論は原審の認定しない事実に基いて原判決を非難するものであって、採用できない。

同第五点について。

所論は、上告会社は本件預金名義人である訴外会社から譲渡をうけた旨主張したのではなく、訴外会社にかわってその受領権限を有すると主張したのに対し、原判決には判断遺脱の違法があるという。

上告会社が右のような主張をなしたことは、記録上必ずしも明らかではないが、かりに右のごとき主張がなされたとしても、原判決は前示事実関係のほか、本件預金は上告会社が訴外会社の名義を使用して自己のためになしたもので被上告銀行の担当者もそのことを了承して上告会社に対する支払を約した等特段の事情は認められないとしているのであって右原審の説示は首肯しうるところであるから、右説示は上告会社が本件預金名義人にかわってこれを受領する権限を有するという主張に対する判断をも含んでいるものと解することができる。

所論はひつきよう原審が適法にした証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、理由がない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条にしたがい主文のとおり判決する。

(裁判長判事 浅沼武 判事 田嶋重徳 加藤宏)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例