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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)1062号・昭48年(ネ)1494号 判決

2  控訴人は被控訴人に対し、三八万四、五〇〇円及びそのうち三二万五、〇〇〇円に対する昭和四八年四月二五日から、三万円については同年一一月一日から二万九、五〇〇円については本判決言渡の日の翌日から各完済までの年五分の割合による金員を支払わなければならない。

3  被控訴人のその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は、第一及び第二審を通じてこれを三分し、その一を控訴人の、その二を被控訴人の各負担とする。

5  この判決は第二項にかぎり仮に執行することができる。

6  控訴人が三五万円の担保を供するときは前項の仮執行を免れることができる。

三 事実

1  控訴人は「原判決中、控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。被控訴人の附帯控訴及び拡張にかかる請求を棄却する。訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、

被控訴人は控訴棄却の判決を求め、附帯控訴として「原判決中、被控訴人敗訴の部分を取り消す。控訴人は被控訴人に対し四四万二、三九〇円及び内四一万二、三九〇円については昭和四八年四月二五日から内三万円については同年一一月一四日から各完済までの年五分の割合による金員を支払わなければならない。訴訟費用は第一、第二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

2  被控訴人の請求の原因は次に附加するほか、原判決事実欄中、請求の原因に記載されているところと同一であるから、これを引用する。

被控訴人は、控訴人と本件紛争の解決をするために、調停、訴訟の申立それらの遂行等を弁護士中村喜三郎に委任し同弁護士に、その費用として第一審の終了までの分として第一審訴訟提起時に三万円、第二審の分としてその第一回弁論期日の昭和四八年一一月一四日以前に同じく三万円を支払済であり、別に報酬として第一、第二審を通じて最終に認容された請求額の一割相当額を支払うことを約しており、第二審分として支払済の三万円以外は第一審での請求額に含まれているので、原判決での敗訴部分を取り消してさらに同部分の額を復活請求するとともに右第二審分の支払済費用三万円とこれに対する第二審第一回口頭弁論期日以後の民法所定年五分の損害金をも附加拡張して請求する。

3  控訴人の答弁及び抗弁は次のとおりである。

(1)  控訴人が被控訴人主張のとおり、被控訴会社の従業員であつたこと、同会社所有の自動車を運転し、過失によつて同主張の日時場所で訴外関清方の家屋に同車を衝突させ、それによつて同家屋、同車両、同車積載商品の各一部を破損させたことを認めるがその余を争う。

(2)  控訴人は被控訴人に対し、その主張の求償に応ずる義務も、被控訴会社の損害を賠償する義務を負わない。すなわち、

(イ)  控訴人のひき起した自動車事故は被控訴会社の命令にしたがつてその業務に従事中に発生したものであるところ、同会社はその営業上必要とする物的手段である車両と人的手段である従業員とを用いて営業し、その営業によつて右事故の発生を招いたのであるから、その営業に伴う企業責任または報償責任上、右事故によつて他に与えた損害を、みずから直接の責任者として負担すべきであつて、これをその事故に干与した従業員に求償すべき筋合ではなく、そのような責任を負うべき危険は物的手段としての自動車に任意保険を付することで十分に予防でき、そのような予防措置を講じていなかつた不明を従業員の控訴人に負わせるのは誤りである。そのことは自動車損害賠償保険法が自動車の保有者に、自動車運行によつて他人に与えた人的損害の直接的賠償義務を負わせながら、その賠償した損害を自動車運転者に求償できる旨の規定を設けず、その場合には民法第七一五条第三項の規定の適用を排除しているものと解釈されていることによつても裏付けられる。前記事故によつて被控訴会社が直接に受けたとする商品破損等による損害についても、右同様精神により、企業の負うべき当然の危険として被控訴会社がこれを負担し、従業員の控訴人に賠償を求めるべきではない。

(ロ)  控訴人は被控訴会社代表者から雇用後は大学に通学させるなどの甘言をもつて同会社に雇い入れられたが、その二年間、右通学の便も与えられず、月給僅かに一万円の支給を受けて一日一五時間に及ぶ長時間労働を課せられたうえ、運転免許を受けた直後から自動車に商品を積載して深夜に及ぶ出張販売を命ぜられ、同免許後一か月で前記事故となつたのである。したがつて、被控訴会社としては、このような重労働、低賃金、運転技術未熟の控訴人に自動車を用いて深夜に亘る出張販売を命じたことに責任があり、前記事故によつて生じたすべての損害についても責任を負うべきであり、少くとも、そのような命令をしたことに選任、監督上の重過失があり、過失相殺の法理の類推適用によつて控訴人に対してはその主張の求償権及び損害賠償請求権の行使が排斤されまたは制限されるべきである。

(ハ)  前記事故発生後、被控訴会社は控訴人に対し、事故自動車の破損部分を控訴人の負担で修理するならば、同事故による他の一切の損害負担を免除する旨告げたので、控訴人はその費用一四万円を負担して右自動車を修理し完全なものとした。それにもかかわらず被控訴人が右費用以外の損害について求償と賠償とを求めるのは信義誠実の原則に反し、許されない。

(3)  仮に以上の主張に理由がないとしても、前記事故によつては、被控訴人にその主張の損害は生じていない。すなわち、

(イ)  事故自動車に当時積載していた商品は、鏡類を除いていずれも金属製、ビニール製或はプラスチツク製などで衝突に強く、事故によつて破損したのは右鏡類に属し、その仕入価額は合計で一万円を超えていなかつた。

(ロ)  事故自動車が出張販売に使用できなかつたことによる損害は事故による直接のものではなく、法人である被控訴会社にとつては間接の損害であり、法人の役員または従業員が他の者にひき起された事故によつて傷害を受けたために法人の業務に支障が生じても、そのことによる損害と右事故との間に相当因果関係がないと同様、本件の前記事故と同事故自動車不使用による損害との間には相当因果関係はない。仮に右主張に理由がないとしても、前記のとおり事故自動車は控訴人の費用で直ちに修理され完全なものとなつて直に使用できたのであり、その修理がまた仮に不完全でその自動車が使用できなかつたとしても、控訴人が事故後間もなく退職したので、その後被控訴会社には控訴人に代つて自動車を運転して出張販売ができる従業員はなく、別にいる従業員らはいずれもそれぞれ専用の自動車を提供されて支障なく業務に従事していたのであるから、被控訴人主張の損害が生ずる筈はない。

(ハ)  被控訴人が前記事故の被害者との示談交渉、控訴人との交渉及び訴訟等に要したとする費用についても、前記事故との間に相当因果関係はない。それらに要した費用があつたとしてもいずれも大部分無用、不要のものであつたので、これを控訴人において負担する理由はない。

4  〔証拠関係略〕

四 理由

1  被控訴人主張のとおり、控訴人が被控訴会社の従業員として同会社の自動車を運転中、その過失で事故をひき起し、訴外関清方の家屋、同自動車及び同自動車積載商品の各一部を破損させたことは当事者間に争いがない。

2  控訴人は右事故によつて被控訴会社が右訴外人に賠償した損害及び同会社の受けた損害については全く責任を負わない旨の主張をするが、当裁判所はその主張を容れることはできない。

すなわち、

(1)  〔証拠略〕によつても、前記自動車事故は同会社代表者によつてかねて黙認され、または少くともその途中で許容された同会社の業務である商品の自動車による出張販売途中の出来事であつたことは認めらみるが、たとえ控訴人がその職務として右会社から命ぜられて業務に従事中右自動車事故が発生したものであつても、それが控訴人の過失によつて発生したものであることについては争いがないのであるから、同事故によつて生じた損害について、損害を受けた第三者または被控訴会社に対して、業務遂行の態様等から限度に考慮が払われうることは別として、責任を負うべきであつて、自動車を供用し、従業員を使用して営業を行う被控訴会社が企業上の立場から被害者に直接の損害賠償責任を負担するからといつて、そのことと控訴人の右責任の減免とにはかかわりはない。自動車損害賠償法の定めはこの法理に関係のないことはいうまでもない。

(2)  次に、控訴人の被控訴会社における処遇及び業務遂行の態様についてみるのに、〔証拠略〕によれば、控訴人が被控訴会社において家族的な処遇を受けて大学教育の教養や営業人としての素養を身につける便宜をえられることを期待して同会社に雇い入れられたが、大学に入学できず、約二年間に亘つて一か月一万円位の手取り給与を与えるのみで夜遅くまで商品の整理、出納に当るほかときに同会社代表者の家事まで手伝わされたりして自動車運転免許を受けることについて時間の余裕と費用半額の補助を与えられたのみで、事故当日も午後一〇時頃まで得意先への出張販売に従事し、その帰路に事故をひき起したことが認められ、〔証拠略〕によれば、控訴人が被控訴会社に入社したのは四月初めであつて大学(夜間部)に入学するには何らかの特別な方法を講ずる必要があつたけれども、控訴人はそうまでして大学に入学することには積極的でなかつたためにその入学が実現しないままで約二年を過ごし一か月の手取り給与としては一万円余円であつたが、別に住込みの部屋、夜具、衣服等が供与され、名目給与としては一か月三万五、〇〇〇円でそのうち、食事代一か月一万九、〇〇〇円その他源泉徴収の税金が天引されていたこと、控訴人はいわゆる住込みのため比較的勤務時間も厳しく制約されなかつたが、他面他の二人の先輩従業員が出張販売で夜遅く帰社することが多いので、夜遅くまで職務に従事することも多かつたこと、みずから同僚と同じく自動車による出張販売に従事することを望み、運転免許をえる以前から会社代表者とその運転自動車に同乗して出張販売を見習い、同免許取得後は習い知つた得売先にしばしば単独で運転出張販売に出向くことになり同代表者からそのような出張販売については予め指示を受けるように注意しており、とくに、千葉、銚子方面には無謀運転の自動車交通が激しいから単独の運転出張をしないように注意を受けていたが、控訴人のみが使用できる状態の自動車があつたにもかかわらずそのキーを厳重に保管するなどの方法で規制されていなかつたので、ときに予め指示を受けることもなく運転出張に出向いたが、格別会社代表者から叱責されたこともなかつたこと、前記事故当日には、控訴人は予め会社代表者らの指示を受けることもなく、かねての注意に反して銚子方面への運転出張販売に出向き、その途中から午後一〇時三〇分頃連絡があつて始めて会社代表者が控訴人の行先を知つた状態であつたことが認められる。以上の事情からすると、控訴人がかねてから自動車運転免許がえられたならば他の先輩従業員同様出張販売に従事し、社内事務から外勤事務に転じ、早く一人前の外交員としての処遇を受けたいと焦つていたであろうことがうかがわれその心境を理解できないこともなく、そのような若者の心理を理解して指導、監督するうえで被控訴会社代表者が万全であつたともいえないが、前認定で知りえられるような小企業の被控訴会社としては控訴人のような若者を従業員として業務に当らせる場合に、厳しい指導監督も困難なことであつて、そのかねてからの指示と、自動車運転者としての一般的な注意義務とに反して前記事故をひき起した控訴人の責任は、以上認定の雇用状態及び業務遂行の態様からしても、これを減免しえないものというべきである。

(3)  また、控訴人主張のように、前記事故自動車の破損部分を控訴人の費用で修理するだけで他の損害についてはすべて控訴人の責任を免ずる旨被控訴会社が言明した事実は未だこれを認めるのに足りる証拠はなく、それに沿う趣旨の〔証拠略〕中の供述部分は〔証拠略〕に照らし、控訴人の費用で右修理が完全になされたならば、他の損害の負担については別途に考慮する程度の被控訴会社側の一方的配慮を誤解して聴き取つたことに基づくものと思われ採用し難いのみならず、その修理自体完全に行われていないことが〔証拠略〕によつて知りえられる。したがつて、前記免責の言明があつたことを前提とする信義則違反の主張も容れられない。

3  そこで、被控訴人主張の損害についてみるのに、そのうち次のとおり(1)ないし(4)によつて算出されたものの合計額三八万四、五〇〇円が同主張の損害額と判定できるが、その余は同損害とすることはできない。

(1)  前記事故によつて訴外関清方の家屋の一部が破損させられたことは控訴人もこれを認めるところであつて、〔証拠略〕によれば、被控訴会社が右被害者の関清に対し被害家屋の修理費八万五、〇〇〇円を負担支出し、慰藉料として三万円を支払つて同被害者と示談を済したことが認められ、右負担及び支払が不当、過大であることを証する証拠はないから、右は相当であるというのほかはなく、被控訴会社は右計一一万五、〇〇〇円を控訴人に対し求償しうることは当然である。

(2)  事故自動車積載商品の一部が破損したことについても当事者間に争いがないけれども、その程度、金額については鋭く対去し、被控訴人の主張に沿う〔証拠略〕があるのに対し〔証拠略〕ではその破損は鏡類の一部にすぎないとしており、控訴人は一万円の範囲で右破損による被控訴会社の損害を認めているにすぎない。ところで、当審における被控訴会社代表者本人尋問の結果によれば、被控訴会社では毎日商品の持出、出納について持出票日計表等を作成してその出納を明らかにしていることが認められるので前記事故当日控訴人の運転出張販売が同会社代表者らによる指示によるものでなかつたとしても、前認定のとおり控訴人はかねて商品出納、整理をも担当していたのであるから、事故自動車に積載持出された商品の品目、数量、そのうちの出張販売にかかるもの、破損による商品価値滅失のものを右伝票、帳簿類で或程度明示できる筈であるのに、そのこともなされていないことなども考慮し、以上の主張状況からして結局右破損商品の品目、数量は不明で、控訴人が認める一万円の範囲で前記事故による商品破損上の損害を判定できるに止まるとするのほかはない。

(3)  被控訴会社の業態が頭飾品類、化粧用、洗面用具等小間物類の現品を自動車に積載してそれらの小売商に出張持参し、現金取引をするものであり、そのような販売方法で一日平均少くとも五万円の売上があることは当審における控訴人本人尋問の結果のみででもこれを知りえられるところ、〔証拠略〕によれば、前記事故当時、控訴人の使用していた自動車を控訴人と同会社代表者両名で共用していたこと、同両名は必ずしも毎日運転出張販売に出向いていたのでもなく、他にもいわゆるコミツシヨンセールスの者を含めた二人の外交職員にそれぞれ専用の自動車が供されていた外には右出張用自動車はなく、それらの各出張用自動車の一台当り月間売上は平均して一〇〇万円であり利率は二三パーセントに当ることなどが認められ、それらについては反証もないので、前記事故によつて被控訴会社としては或る期間右出張販売ができず、少くとも一カ月当り二三万円の利益を失つたものということができる。ところで、同事故によつて控訴人が出張販売用に使用していた前記自動車が破損したことは当事者間に争いがないけれども、これを修理して完全なものとするのにどの位の期間を要したか、修理が不可能であつたならば事故前の右自動車と同程度の自動車の購入または代替車の借入れによつて使用開始をするまでにどの位の期間を要したかについては、〔証拠略〕によれば、前記事故によつて自動車による出張販売ができなかつた期間が三か月半であつた旨の供述はあるが、そのことを裏付ける根拠はなく、〔証拠略〕によれば、事故自動車の破損の程度は甚だしくて控訴人の費用によつてなされた修理が非専門工場でなされ、かつ、不完全であつたこと、その完全修理は、不可能の状態であつたためにその修理後の自動車引取に関して紛争を生じ、それらのことで若干の日時を空費したことも認められるが、それにしても、以上の業態からして出張用自動車が不可欠である以上、修理の可能、不可能を速かに判断して専門工場による修理もしくは前記程度の代替車の購入または代替車の借入れをなすのが当然の措置であつた筈であり、いずれにしても自動車の破損と右認定にかかる自動車の不完全修理、その引取に関連する紛争上の空費期間は、〔証拠略〕によれば、右不完全とされる修理が終り、これを専門工場で再修理の見積をしたのは事故後一八日目であることが認められるので、その後の考慮、判断、交渉等の期間をも加え二〇日で足りるものと思われ、その間に相当する前記逸失利益は一五万円であつたと判定する。そして、右再修理または代替車の購入もしくは借入れによつて受けたであろう被控訴会社の損害は、その請求外のものである。

(4)  被控訴会社が前記事故によつて訴外関清が受けた被害の弁償等に関連した同会社代表者の示談交渉費用、修理大工の宿泊料等の費用その他を加えた諸雑費が少くとも二万円であり、控訴人の納後本件訴訟の各申立、遂行を委任した弁護士に支払済の費用が被控訴人主張のとおり、第一審訴提起前三万円、第二審の第一回口頭弁論期日以前に三万円、計六万円であつて、同訴訟で最終に認容された請求金額の一割を同弁護士に支払う旨の契約がなされていることは〔証拠略〕によつてこれを認めることができる。それによれば、右報酬となるべき金額は以上(1)ないし(3)に算出された金額と右会社代表者等の支出した諸雑費との合計二九万五、〇〇〇円の一割二万九、五〇〇円となる。

4  以上によつて被控訴人の請求額は合計三八万四、五〇〇円及びそのうち三二万五、〇〇〇円について本件の第一審訴状が控訴人に送達された日の翌日であることの記録上明らかな昭和四八年四月二五日から、うち三万円については当審第一回口頭弁論期日である昭和四八年一一月一日から、うち二万九、五〇〇円については本判決言渡の日の翌日から各民法所定年五分の損害金を請求する限度で正当であるからこれを認容し、その余を棄却することとし、これと結論を異にする原判決を変更し、民事訴訟法第九六条、第九二条及び第一九六条の適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 畔上英治 上野正秋 唐松寛)

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