東京高等裁判所 昭和49年(ネ)1467号 判決
一 当裁判所もまた、控訴人の本訴請求を理由がないものと考える。その理由は、以下のとおり附加、訂正するほかは原判決の理由と同一であるのでここにこれを引用する。
二(一) 原判決理由九枚目表末行と裏一行目との間に、以下のとおり加入する。
控訴人は、本件考案と引用考案とを対比してその構成、作用効果の相違をあげ、本件考案は引用考案とは別異の考案である旨主張する。なるほど、前記乙第六号証によれば、引用考案の公報には本件考案の構成にはない口部筒(1)、内側垂下縁(8)およびそれと口部筒(1)の上端間のパツキング(7)等の構成を具えた魔法瓶ケースが記載されている事実を認めることはできる。しかし、この乙第六号証に記載された説明および図面によれば、引用考案にかかる公報には、本件考案の構成要件(A)に対応するものとして首部に嵌装部(9、これは雄螺子を備えるものと認められる。)を有する魔法瓶ケースを、(B)に対応するものとして雌螺子を備えるコツプ兼用の冠蓋(11)を、(C)に対応するものとして雌螺子と把手(4)を有する注口(3)を、(D)に対応するものとして以上の組合せが記載されていることを認めることができる。
ところで、引用考案は「魔法瓶ケースにおける口部」にかかる考案であるから、本件考案と同一の考案でないことは勿論であり、本件考案とはその目的、構成、効果において同一でないことは当然であるが、前記認定のとおり本件考案の構成要件(A)、(B)、(C)、(D)に対応する記載が見られる以上、その技術的思想が開示されており、これが本件考案の出願前既に公知であつたものといつて妨げない。そして、本件考案の技術的範囲を決するに当つては、前記認定のような先行技術が存在することを斟酌することは当然であり、このことが特許庁の権威、権限を無視し登録制度の否定につながるものということはできない。
(二) 同一〇枚目表一一行目に「争いがないところ、」とある次に、「成立に争いがない乙第四号証および同第五号証、被控訴人製品の本件物件であることについて当事者間に争いのない検甲第一号証によれば、」を加入する。
(三) 同一〇枚目裏末行から同一一枚目表二行目までを、次のとおり訂正する。
前記甲第一号証によれば、本件考案の公報中実用新案の説明の項には、「この実用新案は各種の瓶を携帯及び卓上兼用型にした組合せの考案に係るもので」「今迄の魔法瓶や各種の飲料瓶及び飲料以外の液体用の瓶には携帯用と卓上用を兼ねる良いものがなかつた。特に高価な魔法瓶は二個を購入することは困難な場合が多い。本実用新案は現行の携帯用及び卓上用の外観性能を少しも落すことなく兼用化することに成功したものである。」と記載されている事実を認めることができる。そして、この記載は本件考案の単なる実施例に関するものとは解されないこと勿論であるから、本件考案の構成要件(D)の「組合せ」の内容が一つの「瓶体1」に対し「コツプ5」と「注ぎ口7」とが、あるときは携帯用としてまたあるときは卓上用として適宜交換して組合せ使用される構成をいうものであることは、この記載より見ても明らかである。
以上のとおりであつて、本件物件は本件考案の構成要件(D)を具備するものとはいえない。そして、前記認定のように、本件考案は各種の瓶をあるときは「コツプ5」を用いて携帯用とし、またあるときは「注ぎ口7」を用いて卓上用とし、両者の兼用として使用するものであり、これに対して、本件物件は「蓋5」を用いインスタントーコーヒーの容器としての本来の効用を果した後に「注ぎ口7」を用い従前とは別の収納容器として使用し、両者は兼用して使用されるものではないから、本件考案と本件物件とはその目的、作用効果において差異があるものというべきである。したがつて、本件物件が本件考案と均等なものということもできない。
(四) 原判決理由のうち一二枚目表一行目以下を、次のとおり訂正する。
四 控訴人は、被控訴人に対し不当利得金の返還を求めると主張するものであるところ、本件物件が本件考案の技術的範囲に属しないことは前記認定のとおりであり、その他被控訴人が控訴人の財産又は労務により利益を受けたものであることについては何らの主張、立証がない。そうすると、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の本訴請求は理由がないものというべきである。
三 そうすると、控訴人の本訴請求は失当であり、これと同趣旨の原判決は正当であつて、本件控訴は理由がない。よつて、民事訴訟法第三八四条によりこれを棄却する。