東京高等裁判所 昭和49年(ネ)1934号 判決
一 当裁判所は、控訴人らの本訴請求には理由がないと判断するものであるが、その理由として、原判決の理由中、一ないし三項及び四項の判決書五枚目表四行目「異なる」までの部分を引用し、これに次項以下の判断を附加する。
二 本件特許発明と被控訴人の地図製版用ネガ作製方法との間に認められる構成上の差異(原判決理由中、当審引用にかかる四項の判決書四枚目裏三行目以下の部分)に関連する控訴人らの主張について判断する。
(一) 控訴人らは、本件特許発明の技術的特徴は製版用ネガのベースに直接作図原稿を形成し、そのベースの遮光膜を刻描するというただ一個の工程で地図製版用ネガを作成する点にのみある旨を主張するが、本件特許発明の右主張のような技術的特徴は、その構成要件(原判決理由中、当審引用の二項)を具体的に表現していないから、被控訴人の方法がこれを具有するか否かによつて本件特許発明の技術的範囲に属するか否かを判別することは不可能である。けだし、そのような判別は被控訴人の方法が本件特許発明の構成要件を全部具有しているか否かによつてしなければならないからである。
(二) 次に、控訴人らは、被控訴人の方法において用いられる塗料は、本件特許発明において用いられる塗料と構成上一応相違するが、その透明度、色彩の限定の意味合いなどから、実質上これに相当する旨を主張するが、成立に争いのない甲第二号証、原審証人吉田稔の証言を総合すると、本件特許発明は、感光剤を塗布して原稿を焼付けるか、描画するかして、図形等の正画を形成するいわゆる型付面を作成し、その反対の面に塗料を塗布し、その面から型付面に形成された図形等を透視しながら、塗料の塗布面上にその図形等の左右逆向きの形状(逆画)を刻描するだけで、原稿の陽画プレートをそのまま陰画にするという地図製版用陰板の作製方法であるから、図形等の型付画の反対の面に塗布される塗料は透明であると同時に図形等を刻描した部分以外の面において遮光性を有することを要し、これがため黄赤色のものを使用することを構成要件としたものであることを認めることができ、原審における控訴人原田本人尋問中、右認定に反する供述部分は前記証拠に照して、にわかに措信し難い。しかるに、被控訴人の方法において用いられる塗料は黄色乳濁のものであつて、これによつては本件特許発明において要求される作用効果をもたらしえないことが明らかであるから、これを本件特許発明において用いられる塗料に相当するとする控訴人らの主張はとうてい採用することができない。
(三) また、控訴人らは、本件特許発明の方法と被控訴人の方法とは、感光剤及び塗料を塗布するベースの面、したがつて、彫刻するベースの面及び画線刻描の方法について構成上一応相違するが、両者は技術的特徴及び作用効果において実質的には異るところがない旨を主張するが、本件特許発明は、前段認定のとおり製版用ネガのベースに図形等の正画を形成したいわゆる型付面の反対の面に塗料を塗布して形成した遮光膜を刻描して逆画の製版用陰板を作製するものであるから、型付面の正画を陰板としての逆画に変更するのに、そのほか特別の過程を要しない効果があることが推認される。しかるに、被控訴人の方法は、塗料と感光剤とを同一面に順次重ねて塗付した塗膜を刻描するものであるから、これによつては本件特許発明のように正画を逆画に変更する過程を省略する効果を期待することができないことが明らかである。のみならず、原審証人吉田稔の証言によれば、被控訴人の方法は、本件特許発明におけるようにベースを透視して画線を刻描することによつて生じる誤差を避けるため、特に型付面上の画線そのものを直接刻描することを構成要件としたものであることを認めることができる。したがつて、本件特許発明と被控訴人の方法とを実質上技術的に異らないとする控訴人らの主張も採用することができない。
(四) 要するに、被控訴人の方法を本件特許発明と同一もしくは少くとも均等であるとする控訴人らの主張はすべて理由がない。
三 そうだとすれば、両者の間には構成上差異がある以上、被控訴人の方法を本件特許発明の技術的範囲に属するということはできない。
四 よつて、その技術的範囲の牴触を前提として被控訴人に対し特許権侵害による損害賠償を求める控訴人らの本訴請求を失当として棄却した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却する。