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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)197号 判決 1974年11月28日

控訴人(本訴被告・反訴原告)

株式会社拓銀

右代表者

市川康雄

ほか一名

右控訴人ら訴訟代理人

荻秀雄

ほか一名

被控訴人(本訴原告・反訴被告)

望月住夫

右訴訟代理人

河本與司幸

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実《省略》

理由

一控訴人らが本件土地(別紙物件目録(二)記載の土地)上に本件建物(同目録(一)記載の建物)を共有して右土地を占有していること、控訴人らは昭和四七年四月二六日静岡地方裁判所沼津支部昭和四六年(ヌ)第六四号不動産強制競売事件において本件建物を競落し、その所有権(共有)を取得したものであることは当事者間に争いがない。

しかして、<証拠>によると、被控訴人は昭和四五年一二月一日訴外半田森一から本件土地及び建物を代金四五〇万円で買受け、同月八日右土地、建物に付いていた同訴外人の抵当権設定登記の抹消登記手続を済ませたあと、本件土地については翌昭和四六年一月二七日右売買による所有権移転登記を完了したが、本件建物(公衆浴場兼居宅)については、これに居住していた右半田の取敢えずの転居先がなく(公衆浴場はとうに廃業していた。)、また、それが相当朽廃していたので同人が立退いたのちに取毀す予定でその引渡を待ち、間もなく同年三月二〇日頃同人が立退いたのでその引渡を受け、同時に職人に本件建物の取毀わしを依頼し、二個月先にしてくれるというその取毀工事を待つていたところ、その間同年五月二七日右訴外半田の債権者訴外京浜商事株式会社が右半田森一所有名義のままの本件建物を仮差押してその旨の登記をし、引続き同年一〇月一三日右訴外会社による強制競売の申立があつて競売手続が開始され、その結果前示のように控訴人らが本件建物を競落取得して昭和四七年九月二一日その所有権移転登記(この登記は原審鑑定書添付の建物登記簿謄本によつて認められる。)を経由したため、被控訴人が前記売買に基づく所有権取得を対抗しえないことになつた事実を認めることができ、この認定に反する証拠はない。

二以上の事実関係を前提として、控訴人らは本件建物を競売で取得したことによりその敷地である被控訴人所有の本件土地につき法定地上権が発生したと主張し、民法三八八条の規定が土地・建物につき全く抵当権の設定のない場合の強制競売についても類推適用さるべき旨具陳する。

しかし、当裁判所は最高裁判所の判例(昭和三八年六月二五日判決・民集一七巻五号八〇〇頁、同年一〇月一日判決・民集一七巻九号一、〇八五頁)と同様にこれを積極に解するのは相当でないと考える。即ち、右規定は、控訴人らも主張するとおり、あくまでも土地及び建物が同一人の所有に帰属していることを前提とし、その所有者が右土地・建物のいずれかに抵当権が設定された場合には、右設定者の意思から各別に競売される運命にあるその土地又は建物について建物存立のための土地利用権設定が予期され、かつ、この予期は抵当権者はもちろん、競売の効果を受ける競落人その他の第三者においても客観的に承認しうるものであるところから、右のような場合には、建物の社会的経済的効用を全うさせるため、競売の結果土地・建物の所有者が異なるに至つたときに建物のために法定地上権が成立するものとした趣旨と解するほかはない。したがつてまた、右制度の趣旨からは、当事者の右意思と予期が見られる限りにおいて同条の類推解釈は可能というべきであり、土地及び建物の両方に同時に抵当権が設定された場合、抵当権設定当時同一所有者に属していたものがその後その所有者を異にするに至つた場合、抵当権が設定されている土地・建物が強制競売・公売によつて競売された場合等について法定地上権の成立が認められるとする解釈も、この見地に立つたものである。

もとより、建物の社会的経済的効用を保持させることが法理念上も好ましいことはいうまでもなく、また、建物が土地あつての建物であつて、あくまでも土地の上に存立するものであり、その意味において建物に潜在的な土地利用権が付着しているとの理解もあえて否定するものではないが、前記のように民法三八八条の規定が土地・建物に対する所有者の抵当権設定という私法上の法律行為に契機を求める構成をとつている以上、一般的換価手段としての強制競売・公売があつたということだけで法定地上権の成立を肯定すべしとする控訴人らの主張は、立法論としてはともかく、同条の解釈としては是認することができないといわざるを得ない。

ところで、仮に百歩を譲つて、控訴人ら主張のような類推ないし拡張解釈を容れる余地があると仮定しても、控訴人らは被控訴人所有の土地上にある訴外半田森一所有名義の本件建物を同人の所有物として差押えたうえ競落取得したことが前示認定の経緯に徴して明らかであるから、控訴人らは少なくとも土地・建物が同一所有者に属する状態において地上建物を取得したとはいえない。この点について控訴人らは、前記のとおり、実際には被控訴人が土地とともに本件建物を買受けながら、前所有者名義のままになつている本件建物が差押えられて、控訴人らがその所有権移転登記を得たために、民法一七七条の効果としてその所有権を主張し、享有している関係にあるのに、法定地上権に関する民法三八八条の効果を受けるために、右目的建物が差押当時被控訴人の所有であり、差押債務者半田の所有でなかつたとして右民法一七七条の効果を否定するごとき主張をするのは背理であつて、法律上許されないものと解すべきである。したがつて、控訴人らの法定地上権発生の主張はこの点でも難点があり、採用するに由ないものといわざるをえない。(なお、被控訴人が本件建物について所有権移転登記をしなかつたのは、これが朽廃状態に近くて取毀わす予定でいたためであり、これを更に存立させて使用する意思がなかつたことは前示認定のとおりであり、被控訴人が本件建物のための土地利用を将来にわたつて承認するという事実関係でないことも明らかである。)

三以上のとおり、控訴人らがその占有権原として援用する法定地上権の主張は理由がなく、そうすると、控訴人らは本件土地を占有する権原がないことになるから、被控訴人に対し、各自本件建物を収去して本件土地を明渡す義務があり、かつ、控訴人らが本件建物を競落取得した昭和四七年四月二六日以降本件土地を不法に占拠したことにより、賃料相当額の損害を賠償する義務がある。《以下、省略》

(浅賀栄 小木曾競 深田源次)

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