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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)2709号 判決 1974年12月20日

控訴人

平塚富士見カントリークラブ

右代表者理事長

藪田貞治郎

控訴人(附帯被控訴人)

湘南観光開発株式会社

右代表者

大森正男

右訴訟代理人

長谷部茂吉

ほか五名

被控訴人(附帯控訴人)

加藤弘文

右訴訟代理人

塚越隆夫

主文

一、原判決を取り消す。

被控訴人(附帯控訴人)の請求をいずれも棄却する。

二、被控訴人(附帯控訴人)が附帯控訴に基き当審において追加した予備的請求を棄却する。

三、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人(附帯控訴人)の負担する。

事実《省略》

理由

一請求原因1ないし3記載の事実は当事者間に争いがなく、右当事者間に争いがない事実に<証拠>を総合すれば、臨時会員総会が混乱し、到底円滑な議事の進行ができなかつたとの点を除き、控訴人ら主張の二(本件除名および契約解除に至る経緯)記載の事実が認められる。

二被控訴人と控訴人らとの法律関係

本件の争点である被控訴人に対する除名および契約解除の効力の有無について判断するに先立つて、被控訴人と控訴クラブ、控訴会社との法律関係、会員権の性質、控訴クラブの法的性格等について検討する。

1  控訴クラブの法的性格

<証拠>を総合すれば、控訴人ら主張の三の1(ゴルフ事業の経営形態と管理形式)記載の事実が認められ、<証拠>を総合すれば、

(1)  控訴会社の前主である株式会社大森商店がゴルフ場建設事業を進めるとともに、単独で控訴クラブ会則を作成し、会員を募集し、入会の形式で会員ができたものであつて、発起人、定款の作成、創立総会等通常団体の設立についてとらるべき手続がとられていない。

(2)  右会則は、その後改正されて運営規則となり、さらにその一部が改正されているのであるが、これら会則および運営規則によれば、執行機関として理事および理事会がおかれるが、理事長は、会社代表者またはその委嘱する者をもつて任じ、理事は、理事会の推せんする詮衡委員において会員中より委嘱する(会則)、あるいは正会員の理事は会社の同意を得て理事長が委嘱し、正会員からの者と会社役員の者を同数とする(運営規則)こととされ、また運営規則には、会員総会の規定がおかれたが、決議すべき事項の定めはなく、控訴クラブの最高意思決定機関として設けられたものではなく、クラブの運営には専ら理事会が当り、会員総会の干渉を許していない。

(3)  入会金はもとより年会費等もすべて控訴会社に支払われ、控訴クラブには、財産、負債はなく、必要な経費はすべて会社より支出されている。運営規則には、クラブの会計を監理する会計担当理事の規定があるが、空文に等しい。

(4)  運営規則の変更は、理事会において会社の同意を得て行うことになつている。

(5)  控訴クラブには、理事会のほか、ゴルフ場運営に関し各種委員会が設置され、会員のための公式競技会の開催、ハンディキャップの制定、ルールの制定、刊行物の発行その他の活動をしている。

以上の事実が認められる。もつとも<証拠>によれば、追加入会金等の被振込先が控訴クラブとなつており、これによれば被振込銀行に控訴クラブ名義の普通預金口座のあることがうかがえ、また<証拠>によれば、会員の払込金等に対し控訴クラブ名義の領収書が発行されているけれども、<証拠>によれば、会員が支払う入会金、年会費等はすべて控訴会社に納入されていることが認められるから、控訴会社が便宜上、控訴クラブの名義を使用しているにすぎず、単に預金口座が控訴クラブ名義になつており、あるいは領収書が控訴クラブ名義になつているからといつて、会員の払込金が控訴クラブの収入となり、控訴クラブが資産を有するということはできない。

以上認定事実によれば、控訴クラブにおいては、会員は、団体構成員としての権利の保障に乏しく、殆んど控訴会社の支配下におかれているといゝうるのであつて、団体における多数決の原則および組織における代表の方法、総会の運営、財産の管理等団体としての主要な点が確立していることを要する等(最高裁判所昭和三五年(オ)第一、〇二九号同三九年一〇月一五日第一小法廷判決参照)法人に非らざる社団が成立するために必要な要件を欠いているものというべきである。従つて控訴クラブは、権利義務の主体となりうる独立の法的地位をもたず、いわば任意団体として、権利主体たる控訴会社の下で便宜これに代つて控訴会社の所有経営するゴルフ場の運営管理の面についてのみの諸活動をしているものと解するのが相当である。

2  被控訴人と控訴人らとの法律関係

<証拠>を総合すれば、控訴人らは、連名で数次にわたり集団的に控訴クラブの会員を募集したこと、会則、運営規則もしくは募集要領によれば、これに応じて入会を希望する者は所定の用紙により控訴クラブあて申込みをなし、控訴クラブ理事会が申込者についてその資格を審査し、理事会の入会承認を得た者が所定の入会金を控訴会社に納入預託することにより会員となるとされていることが認められる。以上認定事実に前叙控訴クラブの法的性格を考え併せるときは、入会申込者と控訴人らとの間において前記手続がとられることにより、右申込者と控訴クラブとの間に入会に関する契約が成立し、控訴クラブに入会するという形式をとることにより同時に右申込者と控訴会社との間に控訴会社の所有、経営するゴルフ場施設を会員として利用する権利を付与することを内容とする契約が成立するものと解するのが相当である。そして<証拠>によれば、右申込者は、会則等承諾の上申し込むことになつていることが認められるから、これら会則等は、会員と控訴会社との集団的契約について一種の約款的性格を有するものと解せられる。従つて会員のゴルフ場施設の利用権は、会員と控訴会社との間に成立した契約に基づく債権であつて、右契約をはなれて、会員の資格において控訴クラブから付与された団体法上の権利ということはできない。もつとも<証拠>によれば、控訴クラブの会則および運営規則には、その目的として控訴会社の所有かつ経営するゴルフ場の施設を利用し云々と規定されていることが認められ、右規定は、一見控訴クラブが会員のために控訴会社からゴルフ場施設を借りてこれを利用させる趣旨と解しうるかのようであるが、控訴クラブの前叙の法的性格を考えれば、権利義務の主体となりうる社団性を有するとは解しがたく控訴クラブが控訴会社と会員との間に介在して、会員に利用権を付与すると解することは困難といわねばならない。

3  会員の施設利用の物的範囲

会員のゴルフ場施設利用権が前叙の如く控訴会社と会員との間の契約に基くものである以上、右利用権の物的範囲も当然右契約によつて定められるべきものである。そしてその範囲は、特別の約定のない限り、右契約の成立時に控訴会社の所有、経営する施設もしくは控訴会社において建設を予定あるいはすでに工事を施行しており、当事者間において契約の対象とした施設に限られ、右契約成立後控訴会社が新たに設置した施設であつて、契約成立時に当事者間において契約の対象とすることを考えていなかつたものは、当然には右利用権の範囲には含まれないと解するのが相当である。尤も控訴会社が右契約成立後、既存の施設を拡張配置の変更もしくは増改築した場合は勿論(この場合は既存施設の同一性を失わない。)、新たに設置した施設であつても、それがゴルフ界一般の観念として既存のゴルフ場の附帯施設と考えられ、既存の施設と一体となつて機能するものは、当然前記契約の対象として利用権の範囲に含まれるものというべきである。

しかしながら、控訴会社が新たに増設した別個のコース(大磯コース)については、それが控訴クラブの基地とされた場合でも同一に論ずることはできない。けだし、ゴルフは九ホールズを単位として競技するものであることは公知の事実といゝうるから、これが契約の単位となつているものというべく、従つて別個に増設されたコースは、当然に当初の契約の対象とはなつていないものと解するのが相当であるからである。よつて前記認定のとおり、控訴会社が別個に増設した大磯コースは、控訴クラブの基地とされたけれども、従前の平塚コースとは別個独立のゴルフ競技の単位をなし、平塚コースの構成部分たるホールを形成するものではないから、控訴会社との当初契約により平塚コースについて施設利用権を取得した会員は、右契約に基いて当然に大磯コースについても利用権を有するものということはできないというべきである。被控訴人は、控訴会社が平塚コースのみを所有、経営し、控訴クラブが同コースのみを基地としていた当時、控訴クラブに正会員として入会したものであることは前記のとおりであるから、被控訴人は、当然には大磯コースの利用権を有しないものといわなければならない。

被控訴人は、控訴クラブの正会員であるから、控訴クラブが基地とする全コースを当然利用する権利を有すると主張するけれども、被控訴人の有するゴルフ場施設の利用権は、控訴会社との間の契約に基く債権であつて、控訴クラブに対する団体法上の権利でないことは前叙のとおりであるから、被控訴人の右主張は到底採用するに値しない。

4  会員の増設コースの利用権の取得

(一)  控訴会社との契約により控訴会社が所有、経営するゴルフ場施設について利用権を有する会員が右契約に基いて控訴会社が別個に増設したコースについて当然に利用する権利を有しないことは前叙のとおりであつて、右増設コースについて利用権を取得するためには、当初の契約を変更して、右増設コースをも対象とする契約を締結しなければならない。そして前記認定のとおり控訴会社と会員との当初の契約が集団的契約であるから、その変更契約も当然集団的になさるべきものであり、従つて会員としては控訴会社の提示する契約条項を承諾して変更契約を締結するか、それとも締結しないかの選択権を有するにすぎない。控訴会社が右変更契約の内容を決定するに当つては、事業経営上の見地から種々の配慮をなす一方、控訴クラブ理事会の承認を求める等適宜の措置をとるべきではあるが、契約内容自体は経営権の発動として最終的には控訴会社の自由意思により決定しうるところといわねばならない。従つて会員としては、控訴会社の申込みに応じて変更契約を締結する義務はなく、また右契約を締結しなくとも従前からのゴルフ場施設の利用権に何ら消長を来たすものでないことはいうまでもない。控訴会社の既存の会員に対する追加入会金支払要請は、できうる限り多数の会員に右変更契約の申込みを承諾して貰うための営業上の措置であり、控訴クラブの理事会の承認等に基いて控訴会社に追加入会金徴収の権限が生じ、会員からこれを徴収しうるものではない。

なお、控訴会社が右変更契約の内容として会員から追加入会金二〇万円(正会員)もしくは一〇万円(平日会員)の支払いを求めることとしたことは前認定のとおりであるが、追加入会金というも預託金の追加金という意味であつて、会員が再度入会することを意味するものではない。

(二)  被控訴人は、控訴会社では、平塚カントリークラブ当時の会員から預託を受けた入会金から平塚コース建設費を支払つた余剰金三億円を有していたから、コース拡張を理由に追加入会金の支払いを求めるのは不当であると主張する。

しかしながら経営上の見地からの当、不当はともかく、変更契約内容は控訴会社の決定しうるところであることは、前叙のとおりであつて、当時控訴会社の経理上前記追加入会金の預託を受けることを必要としたか、否かは、右変更契約の効力に消長を来すものではない。もつとも控訴会社が平塚カントリークラブ当時の会員から予託を受けた入会金総額が平塚コース建設費総額を少くとも二億二、〇〇〇万円上廻ることは、当事者間に争いがなく、右超過額が大磯コース建設費に振り向けられたことは容易に推認しうるところである。従つて会員として平塚コースは自分達の支払つた入会金により建設されたものであり、さらに大磯コースもその余剰金によつて建設されたという考え方は、心情的には理解できなくはないが、法律上は、入会金は出資金ではなく、預託金にすぎないから、被控訴人主張のような考え方はとれないのみならず、<証拠>によれば、控訴会社は、大磯コース建設のため一四億六、六八九万円を支出し、ために借入金が五億六、〇〇〇万円増加したので、その半額を追加入会金をもつて返済し、経理上の負担を軽くする必要のあつたことが認められるから、そのとおりの事実ではなかつたとしても、本件全証拠によるも被控訴人の主張するように追加入会金の預託を求める必要がなかつたとの事実を認めるに足る証拠はないから被控訴人のこの点に関する主張は理由がない。

被控訴人は、コースが拡張されても、それに応じて会員数も増加すれば、会員は何らの利益を受けないと主張する。そして会員数と入会金の額とは相関関係にあるとも主張する。コースが拡張されても会員数も増加すれば、コースの拡張がそのまゝ会員の利益とはならないことは被控訴人の主張するとおりである。しかしながら、経営上の見地からは入会金の額と会員数とは関係するところであり、入会しようとする会員も会員数を考慮することは当然であるが、法律上は、入会金の額および会員数は、経営者としての控訴会社の裁量により決定しうるところであつて、会員は、会社に対し人数の制限を要しうる権利を有しないといわねばならない。そしてこのことは、控訴会社が募集人員を掲げて会員を募集した場合においても同様であつて、右募集人員は、会員と控訴会社の契約内容となるものとはいゝがたく法律上の拘束を生ずるものとは解されない。<証拠>によれば、控訴会社の募集要領に掲げられた募集人数はあくまで目安にすぎないことが認められ、また<証拠>によれば、公表した募集人員以上の会員を入会させることは、わが国のゴルフ界において通常行われていることであり、募集人員を限定することを約束して募集する例はまずないこと、いわゆるビジターの人数もゴルフ場の経営者の決定しうるところであること、平塚カントリークラブ当時の正会員数は一、二〇〇名であつたところ(右事実は<証拠>により認められる。)、わが国ゴルフ界の現状としては、正会員の数としてはまずまずいゝところだと考えられ、正会員数は、一八ホールズで一、五〇〇名、三六ホールズで二、五〇〇名ないし二、六〇〇名が適当と考えられることが認められる。従つてすでに溢れるばかりに会員を募集し尽くしたところを抱き合せにして新たに会員を募集し、使用させる以上は、旧会員は当然拡張されたコースをも利用しうるとする被控訴人の主張は、本件においては理由がないといわなければならない。

三除名の効力の有無《以下省略》

(石田哲一 小林定人 野田愛子)

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