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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)2946号 判決 1975年8月07日

控訴人 荒木孝昌

右訴訟代理人弁護士 尾関正俊

被控訴人 星野豊治

右訴訟代理人弁護士 渡辺正造

主文

原判決を左の通り変更する。

控訴人は被控訴人に対し金三九二万六、一三〇円およびこれに対する昭和四七年一二月二日から支払ずみまで年五分の金員を支払うべし。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じ一〇分し、その一を被控訴人の、その余を控訴人の各負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠関係は左に付加訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

被控訴代理人は、「本件加害車輛は控訴人が保有するものであるから、自賠法三条に基づき請求するものである」と述べた。

控訴代理人は当審における控訴人本人尋問の結果を援用した。

原判決七枚目裏四行目「1甲第一ないし九号証」とあるのを「1甲第一ないし一九号証」と訂正する。

理由

当裁判所は、本件事故の態様にかんがみ、後記のとおり過失割合を認定するものとし、それに伴い被控訴人の本訴請求は一部棄却を免れないと判断するものであって、その理由は次のとおりである。

一、本件事故発生の状況

≪証拠省略≫をあわせると、本件事故当日である昭和四五年一〇月一三日午後一時一五分ころ、被控訴人は自動二輪車(スクーター)に乗車し、時速約三〇粁で群馬県新田郡尾島町大字岩松二〇六番地の四先道路中央寄りを進行中、控訴人の保有運転する自動車(軽四輪乗用自動車)は時速約五〇粁で、事故発生地点の手前約六〇米の所で被控訴人の車を追越し道路左側に停車しようとして車を左側によせ、サイドブレーキを引こうとした時、被控訴人の車が控訴人の車の右後部リヤバンバー附近に衝突したこと、控訴人の車は追越直後左側方向指示器を点滅させていたこと、他方被控訴人は減速または方向転換の措置をとった形跡はないこと、以上の事実を認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫

そうだとすると追越地点から衝突地点まで被控訴人の車は約七・二秒を要するのに反し、控訴人の車は減速することなく時速五〇粁で進行して急停車したとすれば約四・三秒でその間約三秒の時間があることになるし、控訴人の車が追越後徐々に減速したとすれば、前記のように方向指示器が点滅し、かつブレーキランプも当然ついていた筈であるから(控訴人の車に欠陥がなかったことは≪証拠省略≫により認めうる)、いずれにしても被控訴人が前方を充分注視しておれば右にハンドルを切るとか(その際対向車があったことについては、なんらこれを認めるに足る証拠はない)ブレーキをかけることによって、ある程度本件事故の発生を防ぎえたであろうと推測することも可能である。

しかしそうだからといって、自己が停車しようとする地点から約六〇米手前において前車を追越しにかかり、前車の進路をさえぎるような形で車を運転することは、著しく自動車運転者として安全運転義務に違反するものというべきであるから、本件の場合控訴人の過失は、被控訴人のそれに対比すると極めて大であると認めざるをえないのであって、両者の比率は控訴人七、被控訴人三程度と認定するのが妥当である。

二、被控訴人の損害

右衝突によってこうむった被控訴人の傷害、その治療に要した費用その他総じて右事故によって被控訴人のこうむった損害およびその額については、当裁判所の判断も原判決のそれと同一であるから、当該部分をここに引用する。

そうだとすると合計金六三二万三、〇四三円の損害額に対し右割合による過失相殺をすれば金四四二万六、一三〇円(円未満切捨)となり、これから当事者間に争いない一部弁済金五〇万円を控除すると金三九二万六、一三〇円となる。

したがって控訴人は被控訴人に対し自賠法三条に基き右金員および訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四七年一二月二日から完済まで年五分の損害金を支払う義務があるが、被控訴人のその余の請求は失当として棄却を免れない。

よって被控訴人の本訴請求を全部認容した原判決のうち右限度を超える部分は失当であるからこれを変更するものとし、本件控訴は一部理由があるものというべく、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長判事 浅沼武 判事 加藤宏 高木積夫)

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