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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)985号 判決 1977年2月21日

控訴人

東日出光

右訴訟代理人

加藤益美

外一名

被控訴人

三恵建設工業株式会社

右代表者

島崎兼三

右訴訟代理人

田口康雅

主文

原判決を左のとおり変更する。

控訴人の主位的請求及び予備的請求を棄却する。

被控訴人の反訴請求中、原判決添付別紙目録第二記載の建物が被控訴人の所有であることの確認を求める部分を却下する。

原判決添付別紙目録第一記載の土地が被控訴人の所有であることを確認する。

控訴人は被控訴人に対し、金四〇万円を支払え。

訴訟費用は、第一、二審を通じ本訴反訴とも控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

第一本訴について

(主位的請求について)

一被控訴人は、まず控訴人の請求は確定判決の既判力に抵触し棄却を免れない旨主張する。

しかしながら、<証拠>によれば、被控訴人主張の確定判決は、被控訴人から控訴人に対して本件土地、建物につき昭和四三年二月七日売買予約を原因として同月九日受付でなされた停止条件付所有権移転請求権仮登記の抹消を求める訴訟に関するものであつて、右確定判決の理由中において、被控訴人は控訴人との間の昭和四三年二月七日の売買契約により本件土地、建物の所有権を取得したことなどが認められているけれども、右確定判決の既判力は訴訟物とされた右仮登記抹消請求権の存否について生ずるに止り、本件土地、建物について被控訴人がその所有権を取得したことなど理由中の判断には及ばないと解せられるから、被控訴人の右主張は採用できない。

二本件土地、建物がもと控訴人の所有であつたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、控訴人は有限会社東洋建工から約金二、二〇〇万円を借受け本件土地、建物を譲渡担保に供していたことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

控訴人は、昭和四三年二月七日被控訴人から金三、三〇〇万円を返済期限同年五月三一日の約定で借受け、被控訴人に対し本件土地、建物を譲渡担保に供した旨主張する。

しかしながら、<証拠>中、右主張に符合する部分は後掲証拠と対比するとにわかに信用できず、他に右主張を認めることのできる証拠はない。かえつて、<証拠>を綜合すれば、昭和四三年二月初旬頃、控訴人は前記有限会社東洋建工の承諾を得たうえ、本件土地建物を売却して同会社に対する債務を弁済しようとし、この旨を村本某に告げ、村本は宅地建物取引業者である鈴木秀作に買受人の物色を依頼したところ、鈴木はかねてより建設業者である被控訴人の代表者島崎兼三からマンシヨン建設用地買受の仲介を依頼されていたので、島崎を本件土地に案内するなどした結果、被控訴人が買受けることとなり、その顧問弁護士横田聡が関与して売買契約の大綱がまとまり、同月七日頃本件土地、建物の売買契約が成立し、同日付の契約書が作成されたこと、控訴人は被控訴人から右売買代金として三、三〇〇万円の支払いを受け、これをもつて東洋建工に対する前記債務を弁済して本件土地建物を取戻し、右契約当日被控訴人に対しその所有権を移転するとともに本件土地、建物を引渡したこと、被控訴人は本件土地上にマンシヨンを建築し、これを分譲販売する計画であつたところ、控訴人と被控訴人は右売買契約締結と同時に売買予約をし、控訴人は同年五月末日までに被控訴人から、本件土地とその地上に建築予定の鉄筋コンクリート造共同住宅(被控訴人が本件建物を取壊して同年六月一日以降に着工する予定)とを一般に売却する代金相当の金額をもつて買受けることができ、もしくは右期限までに被控訴人に対し金四、三〇〇万円を支払つて本件土地を買受けることができる旨を約定し、なおその際控訴人から同年五月三一日までは右共同住宅の建築に着工しないで欲しいとの希望があつたので、もし右期限までに被控訴人がその建築に着工したときは、控訴人は被控訴人に金三、八〇〇万円を支払つて本件土地を買受けることができる旨特約したことが認められる。

以上のとおりであるから、控訴人が前記契約をするについては、被控訴人から金三、三〇〇万円を入手して、これを前記訴外会社に対する弁済に当てることを当面の目的としたことが窺われるが、右契約は、控訴人主張のような消費貸借及び譲渡担保ないし担保のための所有権移転契約ではなく、本件土地、建物の売買契約と認められ、右の代金三、三〇〇万円が比較的低廉であつたとしても、また控訴人のために再売買の予約が付せられていたことも右認定の妨げとはならない。したがつて、譲渡担保契約が成立したことを前提として、その解除があつたとする控訴人の主張は採用できない。

三控訴人は前記昭和四三年二月七日の契約が再売買予約つきの売買契約であるとしても、被控訴人が控訴人に対し昭和四七年三月上旬までにビル建設の設計図及び見積書を持参すべきことの特約が定められていた旨主張するが、<証拠>中、右主張に符号する部分は、<証拠>と照合するとたやすく信用できないし、他に右主張を認めることのできる証拠はない。したがつて、右主張を前提とする前記売買契約解除の主張も採用できない。

さらに、<証拠>によれば、被控訴人は本件土地上に鉄筋コンクリート造共同住宅を建築することとし、昭和四三年四月一八日右建築確認申請をし同年五月二〇日頃右確認を得たことが認められ、他に右認定を左右する証拠はないが、被控訴人が控訴人に対して昭和四三年五月末日までには右建築確認申請をしない旨約束したことを認めるべき証拠はないし、被控訴人が右期限までにその建築に着工したときは控訴人がより安価に本件土地を買受けることができる旨の特約がなされていたことは前述のとおりである。

右の事情のもとでは、被控訴人が昭和四三年五月末日以前に前記のように建築確認申請をしその確認を得たとしても、またこれを控訴人に通知しなかつたとしても、それだけでは同年二月七日に約定された再売買の予約完結権の行使ないし右再売買による本件土地の取戻しを妨害するものとはいえず債務不履行ないし信義則違反があるともいえない。したがつて、これを理由とする売買契約解除の主張も採用できない。

四以上のとおりであるから、本件土地について昭和四三年二月七日成立した契約が解除された旨の主張を前提とする控訴人の本訴請求は、その余の点を判断するまでもなく失当として棄却を免れない。

(予備的請求について)

一本件予備的請求は、従来の請求に対してその請求の基礎に変更があるものとはいえないし、またその主張、立証のため著しく訴訟手続を遅滞せしめるものとは認められないので、右予備的請求の追加的変更を許すのが相当である。

二しかしながら、控訴人、被控訴人間の前記昭和四三年二月七日の契約が譲渡担保ないし担保のための所有権移転契約と認められないことはさきに認定したところによつて明らかであるから、これと異る前提に立つ控訴人の予備的請求は、その余を判断するまでもなく失当として棄却を免れない。

第二反訴について

一所有権確認請求について

(本件建物につき)

本件建物がすでに取壊されて存在しないことは当事者間に争いがなく、被控訴人は本件建物の所有権確認を求める利益を有しないというべきであるから、被控訴人の反訴請求中、本件建物が被控訴人の所有であることの確認を求める部分は、不適法として却下を免れない。

(本件土地につき)

本件土地につき被控訴人主張の各登記を経由していることは当事者間に争いがなく、<証拠>を綜合すれば、その余の反訴請求原因が認められ、<証拠>中、右認定に反する部分は前掲証拠と対比すると信用できず、他に右認定を左右する証拠はない。

したがつて、被控訴人の反訴請求中、本件土地が被控訴人の所有であることの確認を求める部分は、正当として認容すべきである。

二損害賠償請求について

反訴請求原因第二、一記載の各訴訟事件が係属し判決が言渡されて確定したこと、控訴人が同二記載のような主張をしていることは当事者間に争いがない。

そして、<証拠>によれば、前訴の第一審において、控訴人は買戻しの特約付きであるとはいうものの被控訴人主張のように昭和四三年二月七日本件土地、建物を被控訴人に売渡したことは認め、ただ本訴においても主張している設計図交付の特約等を主張して被控訴人の請求を争つたが、その判決において前記売買は再売買の予約付売買であり、また、前記設計図交付の特約は認められないとして控訴人の主張は排斥され、被控訴人の請求が認容されたこと、控訴人はこの判決を不服として控訴し、その控訴審において、本訴においても主張しているように前記昭和四三年二月七日の契約は売買ではなく、被控訴人から借受けた金三、三〇〇万円の支払い担保のための譲渡担保契約であり、右譲渡担保契約において、被控訴人が本件土地上に建物の設計図面を同年三月一〇日頃までに引渡す約定であつたところ、被控訴人は約旨のとおり設計図面を引渡さなかつたので右譲渡担保契約を解除した旨主張したが、その判決において、前記契約は売買契約であつて譲渡担保契約とは認められず、また設計図面を引渡す約定があつたとは認められないとして控訴人の主張は排斥され控訴棄却となつたこと、なお、その上告審においても、控訴人は前記契約が譲渡担保契約であると主張したが容れられず上告棄却となつたことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

さらに、昭和四三年二月七日の契約が譲渡担保ないし担保のための所有権移転契約であり右契約は適法に解除された旨、したがつてこれに基づき本件土地、建物につき被控訴人に対してその所有権移転登記手続請求権を有する旨の控訴人の本件における主張が採用できないことは前述のとおりであり、控訴人において右主張が正当であると信じるにつき相当の理由があつたことを認めうる証拠もない。

以上のような事情のもとでは、控訴人が坪井弁護士に依頼して(本件記録上明らかである)いわゆる譲渡担保契約が解除されたとの主張に基づき被控訴人に対し本訴を提起してこれを維持(ただし、本件建物については控訴の対象となつていない)したのは、本訴の提起が前訴の上告審係属中であつたこと及び前訴の判決の既判力が本訴請求に及ばないことを考慮に入れても、到底正当な訴権の行使ということはできず、少くとも過失による違法行為として不法行為を構成するものというべきである。控訴人は原審口頭弁論期日及び当審において昭和四三年二月七日の契約の解除の主張を追加し(原判決事実摘示の請求原因(四)及び控訴代理人の当審における主張一)さらに、当審において前記契約が譲渡担保ないし担保のための所有権移転契約であるとの主張を前提とする予備的請求を追加したが、右主張がいずれも採用できず、また控訴人において右主張が正当であると信じるにつき相当の理由があつたことを認めるべき証拠がないことは前述のとおりであるから、この点も前記判断を左右するものではない。

したがつて、控訴人は右不当な訴によつて被控訴人が蒙つた損害を賠償すべき義務があるが、<証拠>によれば、被控訴人は控訴人の右不当な訴に応訴を余儀なくされ、弁護士田口康雅、同横田聡に訴訟委任をし、第一審に勝訴したときは報酬として合計金四〇万円を支払う旨約束したことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。そして、右報酬の額は本訴の訴訟物の価額、事件の難易その他諸般の事情を考慮すれば相当な範囲のものということができる。

そこで、次に控訴人の過失相殺の主張について判断する。

昭和四三年二月七日の契約が再売買の予約付売買契約であり、その売買予約は選択的売買予約と認められることはさきに認定したところによつて明らかであり、また被控訴人が前述のように建築確認申請をしその確認を得たとしても、また、これを控訴人に通知しなかつたとしても、それだけでは本件土地の取戻しを妨害するものとはいえず債務不履行ないし信義則違反があるともいえないから、これと異る前提に立つ控訴人の(一)ないし(三)の過失相殺の主張は採用できない。

また、被控訴人の損害賠償請求は控訴人の違法不当な本訴請求によつて生じた損害の賠償を求めるものであつて、控訴人が過失相殺として主張する(四)ないし(六)の事由によつては右請求ないし損害の発生について控訴人側に過失があつたと認めるに足りない。

なお、前訴において被控訴人が所有権確認請求をしなかつたことが同人の過失と断ずることはできないし、控訴人は既に存在しない本件建物につき被控訴人が反訴の一部を取下げることに同意せず、控訴人自身も本訴(本件第一審)において右建物につき所有権移転登記を訴求していたものであるから、被控訴人の本件反訴に右建物の所有権確認が含まれていることを同人の過失として斟酌するのは相当でない。

したがつて、右過失相殺の主張は採用できない。

さらに、昭和四三年二月七日の契約書(甲第一号証)は、少くとも書面上、控訴人が主張するような契約でないことが明らかであり、また契約の特約部分の成立に弁護士を立会わせなかつたことが直ちに被控訴人の過失となるとは認められず、またそれが本訴請求を誘発したと認めるべき証拠はないから、(七)の過失相殺の主張も採用できない。

そして、他に被控訴人の過失を斟酌すべき事由も認められないから、控訴人に対し、本訴請求によつて生じた損害の賠償として前記弁護士費用金四〇万円の支払いを求める反訴請求は、正当としてこれを認容すべきである。

第三結論

以上のとおりであるから、一部この判断と異る原判決を変更し、なお当審において追加された予備的請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、第九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(外山四郎 篠原幾馬 小田原満知子)

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