東京高等裁判所 昭和49年(ラ)347号 決定 1974年8月23日
抗告人 甲野三郎
右代理人弁護士 関根潔
相手方 乙山花子
事件本人 甲野正夫 昭和四五年五月二〇日生
主文
本件抗告を棄却する。
理由
抗告代理人は、「原審判を取り消す。相手方の申立を却下する。手続費用は全部相手方の負担とする。」との裁判を求め、抗告の理由は、別紙記載のとおりである。
よって按ずるに、当裁判所が記録を精査して本件につき判断するところは、原審判の説示するところと同一であって、相手方に監護養育されること、そして親権全般を相手方に委ねることが事件本人の利益のために必要であると認める。即ち、抗告人は、自ら事件本人を監護養育することを放棄し、専らこれを兄二郎夫婦に委ね、誓約書の趣旨に従って事件本人を同夫婦と養子縁組をしようとしているところ、事件本人の利益のためには、そのまゝ抗告人を親権者として事件本人を二郎夫婦の養子とするよりは、自らその監護養育することを熱望し、一応経済力もあると認められる相手方に親権者を変更するのが相当である。
抗告人は、相手方に親権者としての適格性を有しないと主張する。抗告人と相手方との間に離婚話が持ち上るや、事件本人を手放して、抗告人の兄一郎や二郎に預けたこと、離婚をするについて亡父や仲介丙川明男の説得に負け、一時的にもせよ事件本人を養子に出してもよいと考えるに至った点については相手方にも責めらるべき点なしとしないが、これらは、いずれも前示の如き無理からぬ事情に基くものであり、相手方は、悩み迷った末一たん養子縁組をすることを承諾したものの、すぐ後悔し、これを阻止すべく仲介の丙川明男に連絡をとり、その後種々努力をして現在に至っている経緯に鑑みれば、抗告人の主張する如く、相手方が自己中心的な性向を有し、親権者としての適格性を欠くということはできない。
次に抗告人の主張する如く、事件本人が昭和四七年一一月一一日以来二郎方に引き取られ、その愛情を受けて、その生活関係も完全に安定している状況にあることは、前認定のとおりであり、この二年近く続いた環境に変化を与えることは、事件本人の心身に多少の影響を与えることは、考えられないでもないが、幸い同人が二郎方に引き取られている期間は幼少の間の短期間にすぎず、同人は、未だ四才であるから、前記の如く、同人の監護、養育を熱望している実母である相手方と生活をともにすれば、すぐにもその生活になじむであらうことは容易に考えうることであって、これがため抗告人の主張する如く、事件本人の精神状態に混乱をもたらし、健全な成長を阻害するものということはできない。
さらにまた心理テストの結果に関する結論が抗告人主張のとおりであるとしても、それ故に事件本人の利益のために、相手方に親権者を変更することが相当でないということはできず、他に原審判には取り消すべき違法の瑕疵はない。
よって本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 豊水道祐 裁判官 小林定人 野田愛子)
<以下省略>