東京高等裁判所 昭和49年(ラ)628号 決定 1975年1月18日
抗告人(旧商号)日本勧業信用組合
(新商号)第一勧業信用組合
右代表者代表理事
宮田貞光
右訴訟代理人
的場武治
ほか二名
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣旨は、原決定に不服であるのでこれが取消しの裁判を求めるというのであり、抗告の理由は、未だに理由書の提出がないのでこれを知ることができないが、一件記録に徴すると、抗告人は、原決定添付請求債権目録第三項記載の債権(以下、「本件債権」という。)が本件根抵当権の被担保債権の中に含まれると主張し、原決定を不服としているものとうかがえる。
よつて検討するのに、本件根抵当権は、「民法の一部を改正する法律」(昭和四六年法律第九九号。以下「改正法」という。)の規定している被担保債権の範囲とは異なる定めをしていて、改正法のもとでは根抵当権の被担保債権とできないものを含んでいるが、本件根抵当権は昭和四六年五月二九日に設定され同年六月一日に登記を経由しているので、右改正前の民法によつて効力が生じておれば改正法の施行後もその効力が認められるものである(右改正法附則一、二条)。
ところで、本件根抵当権の被担保債権の範囲として、根抵当権設定契約書及びこれと一体をなす金融取引約定書によると、「抗告人と有限会社長谷川礦油(債務者兼根抵当権設定者。以下「長谷川礦油」という。)との間で手形貸付、手形割引、証書貸付、当座貸越、支払承諾その他いつさいの取引に関して生じた債権、長谷川礦油に対する手形上の債権及び権利の行使もしくは保全または担保の取立もしくは処分に要した費用」と定められており、一方、本件債権は、抗告人が長谷川礦油に対する原決定添付請求権目録第一、二項記載の債権の取立をするため、本件根抵当権の実行を昭和四九年八月一二日弁護士的場武治に委任し、同弁護士との間で着手金として金二〇万円と右元利金の一割に相当する金員を支払う旨の弁護士報酬契約を締結したので、この契約に基づき負担する債権」をいうものである。
そうすると、本件根抵当権は、改正前の民法によつて設定されその効力の生じているものとしても(いわゆる純粋な包括根抵当権ではなく、被担保債権として一定の範囲を限定しているものと解される。)その被担保債権とされている右「取引に関して生じた債権」の中に本件債権が含まれていないことは、原決定の説示のとおりである。そこで、右被担保債権(原決定添付請求債権目録一、二記載の債権)を取立てるのに要する費用(右元本に附随する債権)は一般に元本と合せて被担保債権の中に含まれるものと解されるが、本件債権のように抵当権を実行するために弁護士を委任したことにより要した弁護士費用は、弁護士強制主義が採られていない現行の法制のもとでは抵当権実行の費用にはあたらず、抵当権実行の費用とは競売法三三条二項に規定する「競売の費用」だけをいうものと解される(右「競売の費用」とは、民事訴訟費用等に関する法律による費用、執行官の費用手数料、競売の準備のために生じた登記費用等をいうのであつて、これらの費用は、競売裁判所において当然に競売代金から控除されるので、結果的に抵当権で担保されていることになる。)。そうすると、本件債権は、いずれの点から検討しても、本件被担保債権のうちに含まれないものというべきである。もつとも本件弁護士費用を独立の被担保債権とすることもできるが本件ではかかる合意を認めうる資料は全くない。
よつて、本件債権を被担保債権(請求債権)とする本件不動産に対する競売申立は許されず、原決定は相当であるから、本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。
(伊藤利夫 小山俊彦 山田二郎)