東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)103号 判決
一 前掲請求の原因のうち、本願発明につき、出願から審決の成立にいたるまでの特許庁における手続、発明の要旨および審決の理由に関する事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、右審決に原告主張の取消事由があるか否かについて考察する。
本願発明および引用例の発明が、ともに、スピンドルロータ上に自由に回転可能に支承されているが、糸バルーンの側面(但し、引用例のものについて、その個所が糸バルーンの半径方向の最大部分に当るか否かは別とする。)で磁石の吸引作用により連行回転を防止されている多重撚糸スピンドル用保護容器であつて、保護容器が下方容器部分とこれに取外し可能に取付けた上方容器部分とから成つている点において一致することは原告の自認するところである。しかし、前示一の本願発明の要旨に成立に争いのない甲第二号証(引用例)を併せ考えると、本願発明においては、容器側の磁石(容器磁石)が、下方容器部分と上方容器部分(環)とが互に係合して環状室を形成している縁の間に取付けられているのに対し、引用例のものにおいては、鋼鉄片148(本願発明の容器磁石に相当する。なお、番号は別紙第二図面(二)(〔編註〕省略)のものを指す。以下同じ。)がパツケージ支持体36(本願発明の下方容器部分に相当する。)の側面に孔を開けて取付けられているが、その明細書中の「パツケージ支持体36は、第8図に示すごとき位置に磁石支持体138があるとき、磁石142の開端とほぼ同じ水準で一線上にあるパツケージ支持体36の壁に挿入したコールドロールした鋼鉄片148を有する。」(第四頁左欄下から第六ないし第二行目)との記載に徴すると、鋼鉄片148の取付位置は、外側磁石142の位置に応じてパツケージ支持体36の壁上に定まるものであつて、カバー50(本願発明の上方容器部分に相当する。)とパツケージ支持体36との係合部の位置と全く無関係であることが認められる。
そして、成立に争いのない甲第三号証(本願の特許願)によると、撚糸スピンドルにおいて保護容器の連行回転を防止するため磁石間の吸引作用を利用することは常套手段であつて、従前公知の保護容器においても、容器磁石を容器の底、その近傍または容器上の縁等に設けていたが、それぞれ欠陥があつたこと、そこで、これらの欠陥を避けるため、容器套面をほぼ糸バルーンの形状に沿い外方に向けて丸く形成したうえ、糸バルーンの最大の張出し部分に当る容器套面の内側に磁石を設ける技術が提案されたが、これによつてもなお、容器製作上高価で複雑な変形工具、鋳型等を必要する点、磁石のため特別の受入部を形成し、もしくは磁石を貼付けまたはろう付けにしたうえ、その所定位置を確保する調節処置を必要とする点に難があつたこと、本願発明は、右技術においてこれらの難点を解決することを課題とし、その目的のため、
(a) 容器磁石が保護容器套面の大体糸バルーンの半径方向の最大部分に取付けられること
(b) 保護容器が右部分において上方容器環と下方容器部分とに分離されること、
(c) 上下容器部分が互いに係合している縁を利用して環状室を形成し、その室内に容器磁石を装入することを構成することによつて、保護容器を簡単に製作することができ、磁石の装入が容易であり、部品の簡単な交換によつて種々の高さの保護容器が得られ、また、これに異なつた磁石を備え、したがつて、高さの異なるボビンを配することができるという作用効果を奏するものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。
したがつて、本願発明における容器磁石の取付構造(その取付位置の点も含む。)は引用例発明における鉄鋼片のそれと目的および作用効果において明らかに異なるものがあるといわざるをえない。
被告は、物を凹ませて収納室を構成することは普通のことであると主張するが、仮にそうであるとしても、そのことから直ちに、目的および作用効果の異なる引用例のものから本願発明における前記構成に想到することが容易であるということはできず、また、本願発明の右作用効果を格別なものではないということもできない。
してみれば、本願発明を引用例および周知事項から容易に発明することができるとした審決の判断は誤りであつて、審決は違法というべきである。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容する。