東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)113号 判決
以上の争いのない事実によれば、本件審決は、原告主張のようにその前提において誤つており違法であるから取消しを免れない。よつて原告の本訴請求は正当であるから認容する。
〔編註〕 本件における事実関係は左のとおりである。
一 原告は主文同旨の判決を求め、請求原因として次のとおり述べた。
(一) 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和三三年七月一一日特許庁に対し、名称を「映画フイルムの半量節約撮影および映写方法」とする発明につき特許出願をし(特願、昭三三―一九五七八号、以下「原出願」という。)、さらに、これに基づき昭和三九年一二月一九日名称を「ワイド画面におけるフイルムの半量節約映画方法」とする発明につき旧特許法(大正一〇年法律第九六号)九条一項により分割出願をしたところ(特願昭三九―七一五一八号)、昭和四七年四月二八日拒絶査定を受けた。そこで原告は同年七月二八日抗告審判の請求をしたが(同年審判第六七八二号事件)、昭和四九年五月二八日「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は同年六月一五日原告に送達された。
(二) 本件分割出願の発明の要旨
映画フイルム用生フイルムにその上下方向に半分に短縮されたフイルム面に順次の画面が同一方向をとる正像を為す画面を得るよう、該生フイルムを標準のそれに対し半分の定速度で輸動しかつ所定位置において標準間欠かき落し長さの半分の長さづつ標準駒送りを以つて間欠的にかき落しながら光学系を使用し露光して撮影しこれを現像して上下方向に短縮されたフイルム面に正像を為す画像を形成したフイルムとすること及びかかる上下方向に半分に短縮されたフイルム面に形成された上記の正像を為す画像から広角球面映写レンズの如き通常の光学系を使用してワイド画面に投影せしめそのワイド映画を得ることを特徴とするワイド画面におけるフイルムの半量節約映画方法。
(三) 審決理由の要点
本件分割出願の発明の要旨は前項のとおりである。そして「ワイド」とは、常に画面が横長になる意味に解するのが相当である。
ところで、請求人は、本件分割出願は旧特許法九条一項の規定による特願昭三三―一九五七八号を原出願とする分割出願であるので、出願日は原出願の昭和三三年七月一一日まで遡及するものであると主張しているが、本件分割出願は、以下の理由により原出願の出願当初の明細書及び図面のいずれにも記載されておらず、かつ、自明でもない事項をその発明の要旨としているために、分割出願と認められず、したがつて、出願日は遡及しない。
即ち、本件分割出願は、「生フイルムにその上下方向に半分に短縮されたフイルム面に順次の画面が同一方向をとる正像を為す画面を得ること。」(即ちワイド画面の正像)という旨をその発明の要旨の一部としているが、原出願の出願当初の明細書(特に第二頁第五行~第七行及び第三頁第一一行~第四頁第二行参照)及び図面には、「従来のフイルムの一駒の正像の上下を二分の一に圧縮してフイルム画面を節約すること。」(即ち非ワイド画面の歪像)及び「被写体を左右に二分の一圧縮し、更に上下に二分の一に圧縮すること。」(即ち非ワイド画面の正像)という旨の記載がされ、前記の本件分割出願の発明の要旨の一部は記載されておらず、かつ、自明でもない事項と認められる。
これに対して、原査定の拒絶理由に引用された社団法人日本映画機械工業会社出版部昭和三八年二月一日発行「映画技術リポート」昭和三八年二月号第五頁(以下「引用例」という。)には、「映画フイルムの標準の一駒画面を、その上下方向に四分の三に短縮した画面とし、フイルムのかき落し長さを標準のそれの四分の三とし、フイルムの輸動速度を標準のそれと同じくすることによりワイド画面における映画フイルムが経済になる撮影及び投映方法。」が記載されている。
そこで、本件分割出願の発明と引用例とを比較すると、フイルムの標準の一駒画面の上下方向を、前者は二分の一に短縮し、これに伴つてフイルムのかき落し長さを標準のそれの二分の一にし、単位時間当りのフイルムの長さを節約するために輸動速度を標準のそれの二分の一にしているのに対し、後者は四分の三に短縮し、これに伴つてフイルムのかき落し長さを標準のそれの四分の三にし、単位時間当りのフイルムの駒数を多くしても、フイルムの全長が長くならないように節約するために輸動速度を標準のそれと同じにしている構成の点で差異があり、その他の構成では一致している。
しかし、フイルムの駒画面の短縮度合を大きくすればする程フイルムを節約できることは事理の当然であるから、上記のフイルムの駒画面の短縮度合の相違は必要に際して適宜に行なえる単なる短縮度合に応じた数値の変更に過ぎず、また、フイルムの駒画面の上下方向を二分の一に短縮し、しかも、単位時間当りのフイルムの駒数を同じにする以上、フイルムのかき落し長さ及び輸動速度も二分の一にしなければならないことは自明であるので、前記差異の点の構成には格別工夫を要するものと認めることができない。
したがつて、本件分割出願の発明は、引用例に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるから、特許法二九条二項の規定により特許を受けることができない。
(四) 審決を取消すべき事由
審決は、本件分割出願の発明の要旨の一部である「生フイルムにその上下方向に半分に短縮されたフイルム面に順次の画面が同一方向をとる正像をなす画面を得ること。」(即ちワイド画面の正像)が原出願の出願当初の明細書および図面に記載されておらず、かつ自明でもない事項であることを根拠として、本件分割出願の出願日は、原出願の出願日である昭和三三年七月一一日まで遡及しないとし、本件分割出願は、昭和三八年二月一日発行の引用例にもとづいて容易に推考しうるものとした。
しかしながら、本件分割出願の発明の要旨の一部であるワイド画面の正像は、原出願の出願当初の明細書および図面に記載されている。したがつて、本件分割出願の出願日は、旧特許法九条一項により、原出願の出願日である昭和三三年七月一一日まで遡及するから、それ以降発行された引用例にもとづいて、本件分割出願を容易に推考しうるものとした審決はその前提において誤つており、取消されなければならない。
二 被告は、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、原告主張の請求原因事実をすべて認めると述べた。