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東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)121号 判決

事実及び理由

一  原告主張の請求原因第一、二、三項の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告の主張する審決取消事由の有無について判断する。

(一)  取消事由(一)について

審決が本願考案と引用例との相違点であるカムを回動させる具体的機構について一般に、カムを回動させるのに、レバーを連結棒で連結し、これを牽引して行うことは普通のことであると認定したことは当事者間に争いがないところ、原告は本願考案におけるカムを回動させる機構は新規な構成である旨主張し、被告は一般にカムを回動させるのにレバーを連結棒で連結し、これを牽引して行うことが普通のことであることは乙第一装置および乙第二装置からも明らかであると反論するので、この点を検討する。

1  まず、本願考案におけるカムを回動させる機構の構成をみる。本願考案の要旨が前掲(第二、二)のとおりであることは当事者間に争いがなく、これによれば、本願考案の装置におけるカムを回動させる機構は、リングホルダに回動自在にピンで枢着したレバーと、ブラケツトに回動自在にピンで枢着したカムとを連結棒で連動するようにした構成のものであると認められる。さらに、成立に争いのない甲第二号証によれば、右の構成は、レバーを駆動、たとえば、上方に手動することにより、これをリングホルダに枢着しているピンを枢軸として回動させ、このレバーの回動により、これに連結されている連結棒を牽引し、この連結棒の牽引により、これに連結されているカムを起動させるものであることが認められる。ところで、このようにして起動されるカムは、上記のようにブラケツトに回動自在にピンで枢着されているのであるから、連結棒の牽引によりカムが起動するということは、カムが右ピンを枢軸として回動することを意味することが明らかであり、また、カムに連結されている連結棒の牽引により、当該カムがピンを枢軸として回動するというのであれば、カムが連結棒を連結している位置と、ピンで枢着されている位置とは別の位置であると考えなければならない(同様のことは、レバーの側についてもいえる。)。そうすると、本願考案の装置におけるカムを回動させる機構の構成は、カムとレバーとを連結棒で連結し、これを牽引して行う、換言すれば、カムとレバーとを各々その一端部において連結する連結棒で連結し、右レバーにおける連結点とは離れた位置に取り付けられているピンを枢軸としてレバーを駆動させることにより連結棒を牽引し、これによつてカムをしてその連結棒との連結点とは離れた位置に取り付けられているピンを枢軸として回動させる構成のものであるということができる。

2  ところで、成立に争いのない乙第一号証によれば、乙第一装置は、原告主張のように、軸にカムが固定され、軸に直接回動力を与えてカムを回転させるもので、本願考案のようにピンで枢着したカムをその一端部に連結した連結棒で連動するものでないことが明らかである。そこで進んで、乙第二装置についてみる。

(1) 成立に争いのない乙第二号証によれば、乙第二装置は本願考案の出願前に頒布された実用新案公報に掲載されたものであつて、螢光灯器具等のプルスイツチに関してではあるが、回動自在に枢着された回動カム板を、その右枢着位置とは離れた一端部に結合した引鎖を牽引することにより回動させる機構が示されていることが認められる。そして、そこに示されているカムを回動させる機構は、カムの一端部に牽引手段を連結し、その牽引により右牽引手段の連結点とは離れた位置にある枢軸を支点としてカムを回動させる構成のものである点において本願考案の装置における連結棒を牽引して行うカムの回動機構と同一であるといいうる。もつとも、両者は、カムの牽引手段について前者が引鎖であるのに対し、後者が連結棒である点において同じではない。しかし、一般にカムを回動させるためにカムに伝える牽引力を引鎖により伝達するか、あるいは連結棒により伝達するかは、いずれも力の伝達手段として周知のことであつて、当業者において必要に応じ適宜選択採用しているところの慣用技術に属すると考えられる。したがつて乙第二装置は、被告の主張するように一般にカムを回動させるのに連結棒で連結し、これを牽引して行うことが普通であることを示す例証ということができる。また、乙第一号証並びに弁論の全趣旨によれば、連結棒のような牽引手段を、これに連結したレバーの駆動により牽引することは極めて普通のことであることが認められる。

(2) 原告は、これに対し異論をとなえ、本願考案の装置における連結棒に代え、乙第二装置に示されているような引鎖を用いることはできない旨主張するが、しかし、前段説示は一般に牽引手段として引鎖を用いるか、あるいは、連結棒を用いるかは、前記のように当業者において必要に応じ適宜選択採用するところの慣用技術であるというのであるから、たまたま原告主張のように本願考案の装置における連結棒に代え、引鎖を用いることができない場合があるとしても、このことにより、前記一般論の妥当性を否定することはできない。原告は、また、本願考案のものと乙第一、第二装置とは、その属する技術の分野を著しく異にするから、これを援用して本願考案の装置におけるようなカムを回動させる機構が周知事項であるとすることはできない旨主張する。なるほど、乙第一装置は、カプラン水車羽根角度操作用配圧弁であり、また、乙第二装置は、螢光灯等のプルスイツチであるが、しかし、カムを連結手段の牽引により回動させる点においては、両者ともに同一技術に属するものであることはいうまでもなく、しかもカム自体が広く各種の技術分野にわたり慣用されているものであることは、顕著な事実であるから、前記のように乙第一、二装置が、本願考案の装置とその属する技術分野を異にするとしても、カムを回動させる機構に関する限りにおいては、各種の技術分野に広く転用されている慣用技術ということができる。

3  以上のとおりであつて、審決が本願考案の装置におけるカムを回動させる機構のようなカムを回動させるのにレバーを連結棒で連結し、これを牽引して行うことは普通のことであると説示したのは正当であり、原告の主張は採用できない。

(二)  取消事由(二)について

原告は、本願考案はそのリングホルダとリングガイドの分離機構に前記のような新規の構成を採用したことによつて、従来のものに比べ特段の作用効果を奏するものである旨主張し、被告は、それらの効果はレバーと連結棒を用いたときの自明の効果にすぎないと反論するので、この点に検討を進める。

1  本願考案の装置は、前示のようにリングホルダにレバーを回動自在にピンで枢着し、これを駆動することによつて連結棒を牽引したうえ、カムを回動させ、これによつてリングホルダとガイドを分離する機構になつているため、前掲甲第二号証の記載にもみられるように、実施の態様として、たとえば、リングホルダの前部に突出する突出縁を設け、これとレバーとを同時に片手で握り、レバーを上方に駆動させるようにすると、原告主張のように片手だけでリングホルダとガイドの分離を行うことができ、成立に争いのない甲第三号証に弁論の全趣旨を参酌して認めることができる引用例に記載されているもののリングホルダとガイドとの分離操作、すなわち、一方の手でハンドルを回動させてリングホルダとガイドとを分離し、他方の手でリングホルダの落下を助長させるのに比し、片手だけで分離操作ができるという点において操作が簡単であるといえなくはない。しかし、本願考案において前記の突出縁を設けることが要旨となつていないことは本願考案の要旨自体に徴し明らかであるから、本願考案の装置が原告主張のようにあらゆる場合に片手で操作できるものであるとは限らないし、実施の態様でいうならば、引用例記載の装置においても、片手で操作することができるようにすることが全く不可能であるとは考えられない。したがつて、本願考案の装置は、原告主張のように従来のものに比し操作が簡単であるとは認めがたい。

2  本願考案の装置は、連結棒の牽引によりカムを回動させるのに対し、前認定のように、引用例の装置はシヤフトの回転によりカムを回動させるものであり、また、乙第一装置も連結棒の牽引によるとはいうものの、これとカムとの間に、一端にカムに固着する軸を結合して揺動する復元用ロツドが設けられ、これによつてカムを回動させるものであるから、これらカムを牽引するための牽引手段に要求される機械的強度の点からみる限り、本願考案の装置は、原告主張のように連結棒の軸径をかなり細くすることができるし、また従来のこの種装置に比し、連結棒の小型化が可能であり、ひいてスピンドル錘間の距離をより少なくすることができるといいうるかも知れない。しかし、さきに認定したように、牽引手段の全体としては、その具体的構成を異にする本願考案の装置、引用例記載の装置及び乙第一装置のなかにあつて、牽引手段の一部材にすぎない連結棒をより小型化し得るというだけで、直ちに本願の装置がその装置全体としても従来のものより小型化し得て、スピンドル錘間の距離をより少なくすることができると即断し得ない。これについては多くの説明を要しないと思われるが、一例を示めせば、現に本願考案の装置における連結棒は前記本願考案の要旨に示されるとおり、調整ナツトで接続されるものであるから、連結棒が占める空間も当然に調整ナツトの大きさによつて左右されるわけであり、その軸径が細くなることから直ちにその占める空間も小さくなるとは必ずしもいえないのである。

3  なお、原告は本願考案の装置におけるレバーは上下方向のみに回動するものに限定されていて、この点からもスピンドル錘間の距離を少なくする旨主張するが、かりにレバーの回動が上下方向に限定されているとしても、このことから直ちに装置全体からみてスピンドル錘間の距離を少なくし得るとは考えられない。この点については、すでに前段で述べたとおりである。したがつて、本願考案の装置は、必ずしも原告主張のように少ない床面積でも十分な機能を発揮することができるものとは認めがたい。

4  以上のとおりであつて、本願考案の装置の奏する作用効果は、進歩性を認むべき程度の特段の効果ではなく、審決のいうレバーと連結棒を用いたときの自明の効果を出でないものである。この点に関する原告の主張も採用できない。

三  よつて、本件審決には原告の主張のような違法はなく、その取消を求める原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却する。

〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。

延撚機に用いるリングホルダのドロツプ装置においてリングホルダにレバーを回動自在にピンで枢着し、リングホルダと一体に固着したブラケツトにカムを回動自在にピンで枢着し、該レバーと該カムを調整ナツトで接続する連結棒で連動するようにしたことを特徴とするリングホルダとガイドの分離機構

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