大判例

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東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)131号 判決

一、原告らは、その主張の前提として本願各発明が抵抗加熱式に限定されるものと主張するので、まずこの点について判断する。

シリコンカーバイド製造方法としては従来からアーク加熱式と抵抗加熱式の両方式が周知技術として知られ、いずれも操作方法としては当初定置炉式を採用していたことについては当事者間に争いがない。この争いない事実と成立に争いのない甲第二号証(本願明細書)、同第三号証(手続補正書)、同第四号証(引用例)、同第五号証の一から六まで(昭和四一年一二月二五日株式会社技報堂発行「窯業工学ハンドブック」)、同第六号証の一・二・三(化学大辞典)、乙第一号証(特許第一三九九三六号―昭和十五年公告第四二三七号)、同第四号証の一・二・三(昭和一三年九月二五日合資会社共立社発行、化学工学講座6「工業窯炉」を総合すると、本願各発明は抵抗加熱式に限定されるものでないことが認められる。すなわち本願明細書には本願各発明が抵抗加熱式に限定される旨の記載はない。原告がその主張の根拠としてあげる特許請求の範囲における「該電力源を該炉車に接続する複数個の取外し可能な電気接続部材」は、アーク加熱式においてもアーク電極を炉車に取付ければ、これに取外し可能な電気接続部材を取付けることは技術上何ら実現できないことではない。もともとシリコンカーバイド製造方法として、アーク加熱式、抵抗加熱式のいずれも化学的反応の内容を同じくするものであつて、ともに当初は定置炉式で実施され、引用例によつてアーク加熱式における炉車移動式が実現し、本願各発明によつて少なくとも抵抗加熱式も炉車移動式による操作が実施されるとすれば、炉車移動式にするについてアーク式とか抵抗式とかの加熱方式の違いによつて操作方法上の制約を受けないものとするほかないから、本願各発明が何らかの技術的根拠をあげて具体的に限定しない以上その実施例やこれを示す図面が抵抗加熱式であるからといつて、さらには出願当時、業界において抵抗加熱式がより一般的に実施されていたからといつて、抵抗加熱式に限定される筋合のものではない。

したがつてこの点に関する原告らの主張は採用できない。

二、そこで本願各発明の作用効果について検討する。

原告らは第一に常備炉数減少の効果をあげ、その前提として、本願各発明が(イ)変圧器一基と炉車二台を加熱単位とし、(ロ)炉車を並置し(ハ)軌道移動式にし、(ニ)各炉車を独立に構成して取外し可能な電気接続部材を設置することにより、各炉車の交互加熱作用を容易にしたことをあげる。

しかしながら、甲第二、三号証によれば、本願各発明はその特許請求の範囲において、複数個の炉車を有することを構成要件としてはいるが、加熱単位として変圧器一基と炉車二台を有することを構成要件としてはいないので、前記(イ)を前提とすることはできない。さらに甲第二、三号証によれば、本願明細書には常備炉数減少の作用効果を明示する記載は認められないが、前記(ロ)、(ハ)、(ニ)の構成をとることにより、それだけ各炉車の交互加熱作用が容易になり、その結果、常備炉数が減少することになるのは、構成上当然に認められることといわねばならない。しかも甲第四号証によれば引用例においてアーク加熱式ではあるが、各炉車を軌道移動式にし、各炉車を加熱単位としており、「レール」の併設また乙第四号証の一・二・三に示される工業窯炉の周知技術を利用すれば炉車の並置の実施も当然可能であり、定置炉式との比較においては、それだけ各炉車の交互加熱作用が容易になり、その結果、常備炉数が当然減少しているものと認められる。そして甲第四号証、成立に争いのない乙第二号証(特許出願公告昭三八―六六五四公報)、同第三号証(実用新案出願公告昭三九―九三〇六公報)を総合すれば、本願各発明における軌道レイアウト、移動配列装置はいずれも周知技術として当業者が各種の産業において適宜実施できるものと認められる。そうとすれば、常備炉数減少の効果は当然予測できる程度のものであつて格別顕著なものとすることはできない。

原告らは第二にプラント床面積節減の効果をあげる。甲第二、三号証によれば、本願明細書には、同量のシリコンカーバイドを従来の方法の三分の一以下の大きさのプラントで製造できるむねの記載がある。しかしながらその効果の数量的な根拠となる対比すべき定置炉がどのような技術内容を有するものであるか具体的にあげるところが全くないので、甲第四号証、同第五号証の一から六、同第六号証の一・二・三、乙第一号証によつて認められるようにシリコンカーバイド製造の工業化が一八九一年にはじまるものであることを考慮すれば、三分の一以下という数量的な限定はただちに本願各発明の効果として採用することができない。

ところで、本願各発明と引用例とは、反応区域とサービスエリアとを炉車を移動する軌道で連結し、反応区域には電力源、電気接続部分を設け、サービスエリアには原料供給区域、冷却および取出区域を設けたシリコンカーバイド製造プラントであつて、炉車を原料供給区域、反応区域、冷却および取出区域の順に移動することによつて、複数個の炉車を使用して連続的にシリコンカーバイドを製造することにおいて、少なくとも共通する点は当事者間に争いがない。そうすると、この技術段階においてすでに、サービスエリアは加熱区域と区別して設けられているのであるから、定置炉式との比較においてはそれだけ床面積の利用効率が高められ、プラント床面積が節減されていることになり、本願各発明も引用例とこの点で変りがないといえる。そして引用例と異なる本願各発明における軌道レイアウト、移動配列装置が各種の産業において適宜実施できる周知技術に属すことは前記認定のとおりであり、弁論の全趣旨によれば、これによる床面積の利用効率化ひいてはプラント床面積の節減は当然に予測できるところと認められる。そうすると、プラント床面積節減の効果も引用例および周知技術から予測できる範囲にすぎず顕著なものとはいえない。そのほか原告らが主張する多品種同時生産、プラント故障による影響などの作用効果は、弁論の全趣旨によれば、炉車移動式、軌道レイアウトを適用したことによるシリコンカーバイド製造上特有の効果とはいえず、いずれもプラント構成上当然予測できる範囲を出るものとは認められない。以上のとおり結局本願各発明の作用効果が顕著であるとする原告らの主張は採用することはできない。

三、よつて原告らの本訴請求は失当であるから棄却する。

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