大判例

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東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)14号 判決

一 請求原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、審決の取消事由の存否について判断する。

1 まず、第一引用例に開示された技術内容について検討する。

(一) 成立に争いのない甲第七号証によると、第一引用例には、「本発明は、……高周波バイアス法として知られる信号に高周波を重畳して録音する従来公知の磁気録音方式の、該バイアス高周波を他の第二の信号で周波数または位相変調することを特徴としている。」(第一頁左欄第一三行ないし第一八行)との記載(以下、これを「(ロ)の記載」という。)のあることが認められ、また、従来公知の高周波バイアス磁気録音方式とは、情報信号に高周波を「重畳」(「加算」という意味での重畳)して録音するものであり、このことは、当事者間にも異論のないところである。そして、この公知事項を前提とし、かつ、後述の実施例に関する記載をはなれて(ロ)の記載の文言のみに注目すると、第一引用例に記載の発明は、信号に高周波を重畳(加算)して録音する高周波バイアス磁気録音方式を利用するものであると一応解することができる。

(二) 次に、前掲甲第七号証によると、第一引用例には、その発明の録音方式について、ただ一つの実施例が記載されているにすぎないところ、この点について、「第一図において、……FMOは高周波発振器であつて、混合(変調)装置AMに与えられ、マイクロホンM2の出力たる第一の信号電圧出力が低周波増幅器AAで増幅された出力と合成(変調)され、その出力が上記録音ヘツドRHの励磁線輪に流されて前記の被録音体Tに公知の高周波バイアス磁気録音を行う。……本発明において、この高周波の周波数または位相をマイクロホンM1の出力たる第二の信号の出力電圧を増幅器AFで増幅したもので変調する。」(第一頁左欄第二〇行ないし第三四行)との記載(以下、これを「(ハ)の記載」という。)があり、この記載とこれに引用の「第一図」(別紙図面(〔編註〕以下省略)(2)の第一図に同じ。)とを併せ考えると、第一引用例に示された録音方式においては、混合(変調)装置AMは、第二の信号で周波数(または位相)変調された高周波と第一の信号出力とを合成(変調)する旨記載されているが、「混合」、「合成」の語を「変調」とは異なる意味で使用しているのか(すなわち、「混合装置が第二の信号出力で周波数(または位相)変調された高周波と第一の信号出力とを合成するか、または、変調装置が第二の信号出力で周波数(または位相)変調された高周波と第一の信号出力とを変調する。」という趣旨であるのか)、あるいは「混合」「合成」の語を「変調」と同じ意味で使用しているのか、(ハ)の記載のみからでは明瞭でない。

(三) ところで、前掲甲第七号証によると、第一引用例には、再生方式についてもただ一つの実施例が記載されているにとどまるところ、この点については、「第二図は、前述のようにして録音された被録音体T´から両信号を各別に再生する場合の構成を示したものであつて、再生ヘツドFHに被録音体T´の走行によつて得られた電圧は必要により増幅されてから検波器DEで検波(整流)されて第一の信号電圧が再生され、……他方において再生ヘツドFHの出力電圧はこれまた必要により増幅されてからリミツタLMにおいて一定電圧に揃えられてから、周波数弁別器DSにおいてその周波数変化(または位相変化)に対応する電圧すなわち第二の信号に相当する電圧が取出され……、これらの場合、設計及び製作について適当ならば、原理的に振幅変調と周波数(または位相)変調の独立性によつて、両信号は分離され、各別、の高声器から再生されることになる。」(第一頁右欄第一九行ないし第二頁左欄第二行)との記載(以下、これを「(二)の記載」という。)があり、この記載とここに引用の「第二図」(別紙図面(2)の第二図に同じ。)とを併せ考えると、第一引用例に記載の二重磁気録音方式は、その再生方式において、再生ヘツドFHにより得られる電圧から第一の信号を再生するには、検波器を必要とし、検波(整流)によつて、第一の信号電圧を再生するものであり、同じく第二の信号を再生するには、リミツタLMと周波数弁別器DSとを必要とし、リミツタLMで一定電圧に揃えた後に周波数弁別器DSで周波数(または位相)変化に対応する電圧を取り出し、第二の信号を再生するものであつて、振幅変調と周波数(または位相)変調の独立性により両信号を分離再生するものであることが明らかである。

(四) ところで、振幅変調を行つて録音した場合、再生にあたつて検波器による検波という手段を必要とすることについては特段異論のないところであるから、第一引用例に記載の二重磁気録音方式においては、前述のとおり第一の信号の再生に当つて検波器による検波という手段を採用している以上右第一の信号の録音に際しては、当然に振幅変調がされているものと解するほかはない。

このように解することによつて、原告が指摘する第一引用例における(イ)の記載(第一引用例にこの記載があることは、前掲甲第七号証により明らかである。)や(二)の記載中の「原理的に振幅変調と周波数(または位相)変調の独立性によつて、両信号は分離され、各別の高声器から再生されることになる。」との記載とも整合することとなる。

(五) そうしてみると、第一引用例にあつては、(ハ)の記載中の「混合(変調)装置AM」及び「合成(変調)され」の文言は、それぞれ「振幅変調を生ずるような混合装置AM」及び「振幅変調を生ずるように合成され」の意味に解され、また、(ロ)の記載における「重畳して」の文言は、従来周知のいわゆる重畳すなわち加算の意味での重畳ではなく、「振幅変調を生ずるように混合(合成)して」の意味に解するほかはない。

したがつて、第一引用例には、(ロ)及び(ハ)の記載のような不明瞭な記載部分があるけれども、明細書及び図面全体の記載からみると、結局、第一引用例に開示された技術内容は、第二の信号によつて周波数(または位相)変調された高周波を第一の信号によつて更に振幅変調して被録音体に磁気録音し、再生ヘツドの出力電圧から検波器と周波数弁別器を介して第一及び第二の信号を分離再生する二重磁気録音再生方式に関するものであると認められ、他にこの認定を左右するに足りる資料はない。

2 右1に述べたところからすると、審決が、第一引用例に記載のものについて、本願発明の構成要件の一部である、「上記変調手段と上記第二情報信号に対する入力回路とに接続された上記第二情報信号を上記第一情報で変調された上記搬送波に上記各周波数に実質的な変化が生じない態様で重畳させるための装置」、「磁気記録媒体上に上記被変調搬送波と上記第二情報信号との重畳からなる上記装置からの出力信号を記録するための磁気記録手段」及び「上記被変調搬送波が上記磁気記録媒体上の上記第二情報信号の直線的記録を保証するための交流バイアスとして作用するようにされていること」の各構成を備えていると認定した点は、誤りであるというべきである。

3 被告は、第一引用例に記載の周知の高周波バイアス磁気録音方式とは、情報信号に高周波を重畳(重ね合せ)して録音するものであつて、情報信号で高周波を振幅変調して録音するものではなく、仮にそのように録音したとすれば、高周波バイアス法としての効果は全く失われてしまうばかりでなく、再生に当つて検波という余分の手段を必要とし何の利益もないから、第一引用例において「振幅変調」と記載されているのは「重畳」の誤りであり、再生の際に検波する旨の記載も何らかの誤りである旨主張する。

なるほど、周知の高周波バイアス磁気録音方式とは、情報信号に高周波を重畳(重ね合せ、すなわち、加算)して録音するものであることは、被告の主張するとおりである。しかし、たとえ、振幅変調して録音したのでは高周波バイアス法としての効果が失われ、再生に当つて検波という余分の手段を必要として何の利益もないとしても、前述のとおり、第一引用例に記載の唯一の実施例(一般に、実施例としては、特許出願人が最良の結果をもたらすと思うものを記載すべきものとされている。特許法施行規則第二四条、様式第一六の備考13の(ロ))における再生方式については、明らかに検波器を備えており、この実施例を中心に図面を含めた明細書全体の記載からすれば、第一引用例に記載の技術内容は、情報信号で高周波を振幅変調して録音するものと解するほかないのであり、また、「振幅変調」を「重畳」の誤りであり、再生の際に検波する旨の記載も何らかの誤りであるとする合理的理由も見当らない。したがつて、審決がこのような点について顧慮することなく、ただ単に本願発明と第一引用例のものとは、前者が第一の情報信号につき「ビデオ信号のような」という限定のある点でのみ差異があるに過ぎず、その余の点において全く一致する旨認定したことは相当でないから、被告の右主張は採用できない。

4 以上のとおり、審決は、第一引用例に記載の技術内容を誤つて認定したものであり、その結果、本願発明がこのような技術内容に基づいて容易に発明することができたとの誤つた結論に至つたものであるから、原告の主張する審決の取消事由には理由がある。

三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

ビデオ信号のような第一の情報信号のための入力回路と、高周波搬送波の源と、この搬送波源と上記第一情報信号源に対する入力回路とに接続されている上記搬送波を上記第一情報信号をもつて変調するための変調手段と、上記搬送波の周波数よりも低い最高周波数を有する第二情報信号に対する入力回路と、上記変調手段と上記第二情報信号に対する入力回路とに接続された上記第二情報信号を上記第一情報で変調された上記搬送波に上記各周波数に実質的な変化が生じない態様で重畳させるための装置と、磁気記録媒体上に上記被変調搬送波と上記第二情報信号との重畳からなる上記装置からの出力信号を記録するための磁気記録手段とを含み、上記被変調搬送波が上記磁気記録媒体上の上記第二情報信号の直線的記録を保証するための交流バイアスとして作用するようにされている広帯域信号記録装置。

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