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東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)160号 判決

原告主張の審決取消事由の存否について検討する。

1 1の主張について

(一) 相違点(A)について

当事者間に争いのない本願発明の要旨(特許請求の範囲)によると、本願発明は、経時的にみて、次の四つの工程からなるものであることが認められる。

(ア) 本ガス(亜硫酸ガス及び酸素又は空気を含有するガス)を重炭化水素を含む液体燃料と共に高温に加熱する工程

(イ) ガス混合物(後述)を冷却する工程

(ウ) 冷却したガス混合物に接触処理を受けさせる工程

(エ) 元素硫黄をこのガスから分離する工程

ところで、右(ア)の工程において、「重炭化水素を含む液体燃料を本ガス中に含有する酸素により部分酸化させて簡単な還元性ガス成分にする」と共に「(かつ)SO2(亜硫酸ガス)の部分還元をする」もの(なお、こうして生成されたガスを右(イ)の「ガス混合物」という。)であることは、右発明の要旨から明らかであるところ、このSO2の部分還元をするとは、本ガス中の亜硫酸ガスの一部を還元して硫化水素にすることにほかならないから、本願発明において、亜硫酸ガスを硫化水素に変えるのは、高温下で行われるものであることは明らかである。

原告は、相違点(A)についての主張に関して、本願発明は、結局、経済的に、

(あ) 本ガスを液体燃料と共に高温に加熱する工程

(い) ガス混合物を冷却する工程(第一冷却工程)

(う) 接触処理を受けさせる工程(第一接触処理工程)

(え) ガス混合物を冷却する工程(第二次冷却工程)

(お) 接触処理を受けさせる工程(第二接触処理工程)

(か) 元素硫黄を右のガスから分離する工程

の六つの工程からなるものであり、亜硫酸ガスを硫化水素に変えるのは、(い)の第一冷却工程後にされる(う)の第一接触処理工程においてである旨の主張をする。しかし、本願発明の要旨(特許請求の範囲)は、その記載自体明瞭であつて、その記載からは、原告が主張するように、本願発明においては、常に、冷却工程として第一冷却工程及び第二冷却工程があり、接触処理を受けさせる工程に第一接触処理工程及び第二接触処理工程があり、また、第一冷却工程の次に第一接触処理工程が、次に第二冷却工程が、更に第二接触処理工程が順次続くものであると、限定して解すべき余地はない。

なるほど、成立に争いのない甲第二号証の一ないし三、第三号証、第四号証によると、本願発明の明細書の発明の詳細な説明の項には、原告が審決の取消事由の1の(二)において主張するような記載があり、この記載及び前掲証拠により認められる本願発明の図面からすると、本願発明の冷却工程には、第一冷却工程及び第二冷却工程の二工程があり、接触処理工程にも、第一接触処理工程と第二接触処理工程の二工程があり、第一冷却工程に続く第一接触処理工程において亜硫酸ガスが硫化水素に変えられるものが示されていることが認められる。しかし、右は、その明細書及び図面の記載、ことに、右指摘部分の前後の記載に徴し明らかとなり、本願発明の一実施例として示されたものに過ぎないと解されるから、このような記載があるからといつて、それ自体明瞭である本願発明の要旨(特許請求の範囲)をこのように限定して解釈することはできない。

そうしてみると、本願発明において亜硫酸ガスを硫化水素に変える工程は、高温下で行われるものであるが、少なくとも、そのようなものを包含するものであるというべきであるから、本願発明と第一引用例のものとの間には、原告が主張するような相違点(A)は存在しない。したがつて、審決に相違点(A)の看過があつたということはできない。

(二) 相違点(B)について

(1) 成立に争いのない甲第六号証によると、第一引用例のものは、名称を「亜硫酸ガスより硫黄を製造する方法」とする発明であつて、その特許請求の範囲には、被告が主張するとおりの記載があることが認められ、この記載自体からは、なるほど第一引用例のものが、亜硫酸ガスを二分して一方の亜硫酸ガスを硫化水素に変え、しかる後に、この硫化水素と他方の亜硫酸ガスとを合流させて反応されるものであると断定することはできない。

ところで、前掲甲第六号証によると、第一引用例の発明の詳細な説明の項には、原告指摘の(a)ないし(c)の各記載があるほか、原告が主張するとおり、これに示されたデータ表における「高温乾溜ガス」の欄の「生成物(硫黄バランス%)」中「未反応SO2」に対応する箇所には「痕跡」との記載があることが認められる。そして、(a)及び(b)の記載は、硫化水素を更に亜硫酸ガスに接触させるものであるとの点で、また、右データ表中の「痕跡」との記載は炭化水素と共に反応室に送り込んだ亜硫酸ガスは実質上全部他の物質(主として硫化水素)に変えられているとの点で、更に(c)の記載は、亜硫酸ガスの一部を反応室に吹き込むものであり、かつ、反応室で生成したガスと残部の亜硫酸ガスとを接触反応させるものであるとの点で、いずれも、第一引用例のものが、亜硫酸ガスを二分する方法に関するものであることを窺わせるものであり、第一引用例を検討しても、他に、亜硫酸ガスを二分することなく、すべての亜硫酸ガスを反応室に送り込み、その一部を硫化水素に変え、これと残りの亜硫酸ガスとを反応させる旨の明文の記載はもとより、そのように解しうべき記載も見当らない。

そうしてみると、第一引用例の発明自体が、亜硫酸ガスを二分することをその構成要件(発明の要旨)とするものであるか否かはともかく、先行技術に係る刊行物としての第一引用例としては、亜硫酸ガスを二分して硫黄を製造する方法に関する技術を開示したものであると解するのが相当である。

これに対し、本願発明は、その明細書において、亜硫酸ガスを二分しないとする直接の記載はないが、特許請求の範囲中に記載の本ガスを重炭化水素を含む液体燃料と共に高温に加熱するとの点及び亜硫酸ガスを部分還元するとの点等に徴し、亜硫酸ガスを二分するものでないことは明らかである。

そうすると、審決が、本願発明と第一引用例のものとを対比するに当り、相違点(B)について論及していないことは、適切を欠くといえないわけではない。

(2) そこで、相違点(B)の存することが、本願発明の進歩性を否定した審決の結論に影響を及ぼすか否かについて考える。

(ⅰ) まず、この点に関する原告の主張についてみるに、本件の全証拠を検討しても、接触処理工程に有害な酸素を持ち込まないことが、本願発明の主要な効果の一つであると認めるに足りる資料はない。本願発明の明細書中には、原告が主張するような効果について全く記載がないばかりでなく、本願発明では、本ガス(亜硫酸ガス及び酸素又は空気を含有するガス)中の酸素は、簡単な還元性ガスを生成する反応によつて消費しつくされ(酸素が残つている状態では、還元性ガスは生成されない。)、したがつて、硫化水素と亜硫酸ガスとの反応工程にまで酸素が持ち込まれることはないから、その意味において、この工程で酸素の存在を考えることは無意味であるが、仮に、硫化水素と亜硫酸ガスとを反応させて硫黄を生成する反応工程において酸素が存在したとしても、このことが右反応に有害であると認むべき証拠はないし、技術的にも有害であると解すべき合理的理由は見当らない。

(ⅱ) 次に、引用例のもののように、亜硫酸ガスを二分し、その一方を炭化水素化合物と反応させて、後に他方をこれに供給することと、本願発明のように亜硫酸ガスのすべてを当初から反応系を通過させることとでは、厳密な意味においては、構成が異るものであり、ひいて、その各構成に応じて作用効果にも何らかの差異を生じないではないであろう。しかし、右両者の反応系を全体的、統一的に観察すると、これに用いられる炭化水素化合物や酸素又は空気の量、温度その他の条件が同一であれば、これに要する亜硫酸ガスの量も同一であり、ただその一部を反応の中途に供給するか当初から反応系を通過させるかの単なる差異に過ぎず、それぞれ一長一短であり、その構成、作用効果共に容易に想到しうることにとどまり(なお、原告のこの点の主張が理由のないことは(ⅰ)に述べたとおりである。)、本件の全証拠を検討しても、本願発明が引用例のものに比較し、作用効果において格別に優れたものであると認むべき資料は見当らず、また、そう解すべき合理的理由も窺えない。そうすると、本願発明と引用例のものとの右構成上の差異は、両者の対比関係において考慮に値するものとは認めえず、結局、相違点(B)の存することは、本願発明の進歩性を否定した審決の結論に影響を及ぼすものでないと解するのが相当である。

2 2の主張について

原告のこの点の主張は、要するに、第一引用例のものにおける炭化水素の熱分解に酸素(又は空気)を用いて内熱式で行い、硫化水素を製造する場合は、<1>酸素による炭化水素の燃焼反応、<2>炭化水素の熱分解反応、<3>発生期の水素による亜硫酸ガスの還元反応、<4>酸素と発生期の水素との反応の四種の反応が同時に進行することになるので反応条件の制御が極めて困難であり、かつ、右<4>の反応により水が生成して発生期の水素の浪費が避けられないというのである。

しかし、まず右の発生期の水素の浪費の点についてみるに、成立に争いのない乙第一号証によると、炭化水素の一部を酸素(又は空気)で燃焼し、その発生熱によつて残存炭化水素を変成しようとする場合、その反応は二段階で行われ、第一段階では、炭化水素の一部と酸素が反応して水蒸気及び二酸化炭素が生成し、第二段階で、残りの炭化水素がそれぞれ水蒸気及び二酸化炭素と反応して水素及び一酸化炭素に転ずるものであつて、そこで生成されるものは、結局、水素及び一酸化炭素であり、水は生成しないものであることが認められ、したがつて、発生期の水素が水の生成によつて浪費されることはないことが認められる。

次に、反応条件の制御が困難であるとの点についてみるに、原告のいう右<1>ないし<4>の反応のうち、<4>の反応が窺極的には存在しないことは、前述のとおりであり、また、炭化水素の部分酸化により還元性のガス(水素及び一酸化炭素)が生成すれば、亜硫酸ガスが還元されて硫化水素に変ずることは当然の理であり、したがつて、<1>ないし<3>の反応を制御することに格別の困難があるとは考えられない。このことは、炭化水素の部分酸化により還元性ガスを生成し、この還元性ガスにより亜硫酸ガスを還元して硫化水素に変える反応は、本願発明の第一の工程にほかならないのであるから、第一引用例のものにおいて、原料として亜硫酸ガスと酸素又は空気を用いた場合に、右反応工程は両者同一であることに照らしても明らかである。したがつて、原告の2の主張も採用できない。

3 3の主張について

(一) 原告主張の(一)の点について

前掲甲第三号証、第四号証によると、本願発明の明細書には、「本発明方法による還元は、従来方法に比し、燃料消費を非常に減少せしめ、優れた燃料経済を達成せしめることができる。」、「本発明によれば、油の分解及び部分酸化は、SO2含有ガス中に存在する遊離酸素及び硫黄接触酸素(硫黄結合酸素の誤記と解される。)によつて行われるから、もしこのガスを用いない場合は、この油の分解を行うために別途に必要とするであろう酸素を節約することができ、これに伴いもちろん燃料消費量もこれに対応した量だけ減少せしめることができる。」、「この全工程における燃料経済の点も、非常に良好である。というのは、理論的にSO2の還元に必要な熱量だけが燃料の熱量からとられるからである。残りの熱量は、ガス冷却の際に高効率で回収される。」との各記載があることが認められる。

しかし、右の各記載内容は、抽象的なものであり、本願発明が、従来例に比して、いかなる理由によりどの程度の燃料の消費を減少しうるのかを了知しえない。なお、右のうち酸素を節約することができるとの点についてみるに、本願発明の工程において供給される酸素は、これを得るのに特別の操作を要するものではなく、要するに、空気を用いることにほかならないことは、本願発明の要旨に照らしても明らかであるから、酸素の節約について経済的に特段の利益があり、このことから、燃料経済の目的を第一引用例のものに比し顕著に達成できるものとも解されない。そして、他に、本願発明が燃料経済の目的を達成する上で、第一引用例のものに比して格別優れていることを首肯するに足りる証拠はない。

(二) 同(二)の点について

本願発明における接触処理工程に遊離の酸素が持ち込まれることはないが、硫化水素と亜硫酸ガスとから硫黄を生成する反応に酸素の存在が有害であるといえないことはすでに1の(二)の(2)において述べたとおりであるから、この点の原告の主張は失当である。

(三) 同(三)の点について

前掲甲第六号証によると、第一引用例中には、その発明以前の従来法の説明として、「一反応室では目的を達成し難いため、生成された硫化水素、二硫化炭素……その他の硫黄化合物を更に硫黄にするために、第二、第三の触媒を必要とする反応室を併置しなければならない。」との記載があり従来法においてさえ、大気に二硫化炭素等を排出しないよう配慮されていたということを前提としての発明であることからすると、第一引用例のものも、大気中に二硫化炭素を排出するものではないと考えられ、これと別異に解すべき資料はない。また、本願発明が原告の主張する理由によつて、大気中に二硫化炭素を排出しないものとすれば、その点は第一引用例のものも同一であると解せられるから、このことが本願発明に特有の効果とはいえないことは明らかである。

(四) 同四の点について

原告のこの点についての主張は、これを認めるに十分な証拠がない。

(五) 以上のとおりであるから、本願発明の作用効果に関しても、審決には、これを違法とすべき点はない。

よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

SO2及び酸素又は空気を含有するガスより硫黄を製造する方法において、本ガスを重炭化水素を含む液体燃料と共に高温に加熱し、該炭化水素を含む液体燃料を本ガス中に含有せられる酸素により部分酸化せしめて簡単な還元性ガス成分となし、かつ、SO2の部分還元をなし、次に、このガス混合物をガス冷却を介在せしめて低い温度において接触処理を受けさせ、最後に、硫黄をこのガスから元素硫黄として分離することを特徴とするSO2及び酸素又は空気を含有するガスより硫黄を製造する方法。

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